Everyday Carry
日々のルーティーンにライカを
ー 河田 一規 ー


河田 一規の “Everyday Carry“

プロかアマチュアかは問わず、写真家は大きく2つのタイプに分類できると思う。ひとつは「カメラは自分の目的に適ってさえいればなんでもいい。大事なのはあくまでも写真であって、カメラはそれを実現する道具にすぎない」と考えるタイプ。もうひとつは「写真はもちろん好きだけど、道具としてのカメラ、あるいはメカニズムとしてのカメラも同じくらい好きで、何ならカメラによって写欲が刺激されることもしばしば」というタイプだ。

一昔前は「弘法筆を選ばず」的なスタンスのある前者こそが正しい写真表現者であり、カメラが好きなどと言っている後者は本物の写真表現者とは認めがたいという空気感が確実にあったと思う。つまり、写真好きとカメラ好きは違うのだという捉え方である。しかし、この考え方が的外れであることは明らかだ。もちろん、写真はあまり撮らないけどカメラがとにかく好きという人(それも立派な趣味なのは言うまでもない)もいるが、その一方で素晴らしい仕事を残しつつ、なおかつカメラ趣味も超ディープという写真家はいくらでもいらっしゃるわけで、カメラに対するこだわりの強弱で写真表現に対するスタンスを決めつけてしまうのはあまりにも短絡的だろう。

という予防線を張ったうえで告白するならば、自分は大のカメラ好きだ。

ひとくちにカメラ好きと言っても、機能進化に余念がなく最新モデルに新たな可能性を求めるタイプや、マウントアダプターを駆使してオールドレンズを楽しむタイプ等、いろいろなパターンや方向性、ジャンルがある。そんな中で自分がもっとも重視したいカメラ指向はとにかくシンプルなこと。あくまでも主観や趣味、好き嫌いの話なので、決して複雑なカメラが悪でシンプルなカメラこそが正しいと言いたいわけではないことをご理解頂きたいが、本当に必要なものだけが無駄なく装備されているシンプルさに昔から強く惹かれる。

となると、ライカのカメラは本当に理想的な存在だ。どうしても複雑になりがちなデジタルカメラに於いてもボタン等の操作部材は驚くほど少なく抑えられているし、メニュー構成もきわめてシンプルにまとめられており、そこにはシンプルな操作性に対するライカの強い意志を感じるわけで、シンプル信者としては好きにならずにはいられない。

自分が初めて手にしたライカは1985年ごろに購入したライカM6で、それ以降フィルム、デジタルを問わずさまざまなライカを買ったり売ったり、時には買い戻したりしてきたけれど、ここ数年、もっともEveryday Carryしているライカはフィルム時代のMD系各モデルだ。古くからのライカファンの方ならご存じの通り、ライカMD系は距離計非装備のM型ライカで、本来は顕微鏡撮影などに使用する学術用途のモデルだが、広角レンズと組み合わせて目測で素早くスナップする用途としても昔からある程度使われてきた。

距離計を搭載した普通のM型ライカも充分にシンプルなカメラだけど、それよりさらにシンプルなMD系カメラの使い勝手はどのようなものなのか?という軽い興味から手にしたわけだが、実際に撮影してみるとその使用感は軽快そのもの。絞り開放気味の近距離撮影はピントが難しいとか、もちろんある程度撮るものは限られるけど、その不便さや限界点を含めてもこの軽快な撮影感覚は捨てがたく、持ち出し頻度はとても高い。

フィルムはカラーネガを愛用している。露出にシビアなリバーサルフィルムとは異なり、ラチチュード(露出に対する許容範囲)がとても広いため、露出決定は勘でも全然問題ない。念のため愛用のiPhoneには露出計アプリを入れてあって、それを使ってたまに露出勘を校正したりはしている。ピントについては距離計がないので目測になるが、自分がMD系で使っている広角レンズなら目測でもほとんどのシーンで充分なピントが得られる。

撮るものを見つけたら、ファインダーを覗く前に絞りとシャッター速度、そして距離を素早くセットし、ファインダーを覗いたらあとはシャッターを切るだけという軽快感は本当に気持ちが良い。もちろん、距離計と露出計を備えたM型ライカでもその気になればまったく同じ手順で撮影することは可能だけれど、ひとつの目的に対して複数の方法から選択するよりも、その方法しか選択肢がない単機能機ならではの納得感とスピード感、そして過度に機械に頼ることなく勘を含めた多少のフィジカルを駆使している満足感がある。まあ、完全に自己満足の世界で決して人に勧められるものではないのだが。

というわけで、MD系ライカをすっかり気に入ってしまった自分はライカMD、ライカMDa、そして2台のライカMD-2を手に入れ、それらを順繰りに使い回している。本当はどれか1台だけでも充分だが、「時代ごとのMD系はどう違うのか?」という興味に勝てずMD系を4台も揃えてしまった。レンズは21mmや35mmも試したが、今はほとんどElmarit-M 28mm F2.8 ASPH.しか使っていない。たまにサブカメラとしてSummicron-M 50mm F2を装着した別ボディを併用することもあるけれど、基本的には28mmレンズ+ライカMD系のどれか1台のみで繰り出すことがほとんどだ。

小学生の頃、家にあった父親の二眼レフを持ち出して近所を撮り歩いたのが自分の写真原体験なのだが、それから数十年たってもほとんど同じ事をしているわけで、我ながら進歩がないなぁと思う。でも晴れた日にお気に入りのカメラを携えて歩き回るのは今でも自分にとっては最高の楽しみだし、まったく飽きることはない。冒頭に写真好きorカメラ好き云々的な話を書いたけれど、実はそれ以前に「カメラを持って写真を撮り歩く」ことこそが自分にとってはもっとも重要事項であり、そのとき持ち出すカメラがライカだったら最高だよねということである。

使用機材
ライカMD・ライカMDa・ライカMD-2・ライカ エルマリートM f2.8/28mm ASPH.




河田一規 / Kazunori Kawada プロフィール

神奈川県横浜市生まれ。10年間の会社勤めの後、写真家・齋藤康一氏に師事。4年間の助手生活を経てフリーに。
雑誌等の人物撮影、カメラ雑誌での新機種インプレッション記事やハウツー記事の執筆、JCIIデジタル教室の講師などを担当。カメラはフィルム、デジタル、iPhoneを分け隔てなく愛用。

Instagram : https://www.instagram.com/kazunori_kawada/?hl=ja