大いなる自然に魅せられて山と触れ合い半世紀になる。
日本の山の自然は、厳しいと同時に、繊細で瑞々しく、野性味あふれ、美しい。その魅力を表現しようと、25年ほど上高地周辺の山河をフィールドとしテーマを決めて撮影してきた。
同じ山域を繰り返し歩き経験と知識を深めるほど、自然の奥から伝わってくる神秘的な力を感じるようになった。この不思議な力は何かと考えるなか、森羅万象に神仏や魂をみる「日本人の自然観」にたどり着いた。これは、自然を畏れ敬うとともにその恵みに感謝する精神で、縄文時代を源として文化や宗教へ広がり、日本人の心の拠り所にもなってきた。
上高地は、日本アルプスの高峰から流れる梓川が育んだ多様な自然が息づく瑞々しい谷で、日本の自然を凝縮した「生きている大地」である。ひとりこの山河に身をゆだね、自然の奥から出てくる目に見えない神秘的な力を、畏敬を持って全身で受けとめる。その力がそのまま伝わるように一枚一枚シャッターを切り、自らプリントする。できあがった写真を見ると、私が自分で撮ったというよりも、自然に撮らせてもらったとしか思えない。まさに自然は生きている。
人間が自然から遠ざかっていく今、私が感じる神秘的な力は、自然から私たちへのメッセージなのかもしれません。