LEICA NOCTILUX-M f0.95/50mm ASPH.

Impression Report by Leica Store Staff



ライカM型ユーザーであれば、いつかは手に入れたいと憧れるMレンズが1本や2本、人によってはもう少しあるかと思います。
2008年に発売された、フルサイズ対応レンズとしてf0.95の明るさを誇る「ノクティルックス M f0.95/50mm ASPH.」もそんなレンズの1本だと思うのですが、2013年に「アポ・ズミクロン M f2/50mm ASPH.」が発売されて以来、普段のお客様との会話からも、ライカM型ユーザーの目標は「いつかはノクティルックス」から「いつかはアポ・ズミクロン」に変わったように感じていました。

そして、「ノクティルックス M f1.25/75mm ASPH.」の発売や、希少すぎて手の届かない価格になっていた初代「ノクティルックス M f1.2/50mm ASPH.」の復刻、さらには旧世代の58mm径ノクティルックスの価値が高騰していることや「アポ・ズミクロン M f2/35mm」の発売などもあり、最新モデルである現行の「ノクティルックス M f0.95 50mm ASPH.」の影はますます薄くなってしまったように思います。

私は以前、フード組み込みの旧世代のノクティルックスを所有していた事があるのですが、当時もf0.95の現行レンズのピント面のシャープさやボケの綺麗さを実感しており「いつかは0.95のノクティルックスが欲しい」と思っていました。
そんな事もあり、このレンズが以前ほど話題に上がらなくなっている事に少々寂しい思いをしていたのですが、年に1度の楽しみである海外旅行のタイミングで「ライカ M11 モノクローム」と「ノクティルックス M f0.95/50mm ASPH.」を持って行く機会を得たので、今回はこのレンズについてレビューをしたいと思います。

今回旅行先を決めるにあたり、このレンズで撮りたいと思っていた候補地はいくつかあったのですが、最終的に、以前から「ライカ M11 モノクローム」で撮りに行きたいと思っていた事や、f0.95のこのレンズをまだそこまで使いこなせてはいなかった事から、過去にMを持って数回訪問し、ある程度勝手の分かっていたチェコのプラハを選びました。



フィンランドのヘルシンキを経由して正午過ぎにプラハについた初日、チェックイン後すぐに荷物を預け、撮り歩きながらカレル橋を渡り、プラハ城方面へと向かいました。

プラハ城の最寄りの地下鉄駅周辺で信号待ちをしていると、同じように信号待ちをしていたトラムが数台停まっていたので、トラムが正面を横切った際に乗っている人物を撮ろうと、おおよその距離にピントを合わせ、カメラを構えて待ちました。信号が変わりトラムが動き出したので集中してファインダーを覗いていたところ、ややうつむき加減で目を閉じていた女性がファインダーの左隅に見えたので、ピントを微調整して素早くシャッターを切りました。

非球面レンズを採用した現行レンズということもあってか、開放でもピント面はシャープに写るのですが、その被写界深度の浅さからなのか、ピント面の手前や周辺は微睡んだ様なボケになり、どこかストーリー性を感じさせてくれるような雰囲気の写真になりました。

f1.4のズミルックス以上に、ノクティルックスが持つインパクトのあるボケ味と周辺光量落ちは、撮影者が何を撮りたいのか、伝えたいのかといった意図をより強調してくれるように思います。




上の2枚はプラハ城内にある旧王宮で撮影しました。

この場所は以前24mmで撮影してからお気に入りの場所になったのですが、広角レンズではやや広いと感じていたので、今回「ノクティルックス M f0.95/50mm ASPH.」で撮影してみました。レンズ設計者に「何のために絞るのですか?」と怒られてしまいそうですが、縦構図の写真は窓のディテールにもピントが欲しかったため、今回掲載した写真の中で唯一絞って撮影をしています。

基本的にはf値0.95を活かした開放での撮影を楽しむレンズであろうことは間違いないのですが、ストリートスナップ等で被写界深度が欲しいと思った時は、レンズに撮らされるのではなく、絞って撮影しても良いのではないかと個人的には思います。

また、ノクティルックスというと開放、最短寄りでのポートレート写真等をイメージされる方もいらっしゃるのですが、被写体までの距離が3m~7mあたりのスナップ撮影でも、十分インパクトのある写真が撮れると感じました。3m~7mあたりのピント合わせであれば、ピントリングを回す量も少なくて済みます。



プラハ城内にある黄金小路は名前の通りの小路なのですが、フランツ・カフカの生家や土産物屋がある事もあり、ひっきりなしに団体ツアーの方達が押し寄せる場所です。
急な小雨の中、団体ツアーの集団に前後を挟まれ立往生していた時に、ふと空を見上げたところ屋根の上のハトが目に留まったので、カメラを構えハトが動きを感じさせる様なポーズになるのを待ち、1/16000秒でシャッターを切りました。
絞り開放で重たい雰囲気の空に向かって撮影したからなのか、現行レンズでありながらまるでオールドレンズで撮影したような雰囲気の写真になったのですが、レンズ1本でこのような描写も楽しめるのは、レンズの重さを考えるとむしろプラスではないかと思います。


普段店頭でお客様とこのレンズの話になると、必ずレンズの重さが話題に上がります。実際このレンズは700gもありますからMレンズとして非常に重いのは事実です。ただ、75mmのノクティルックスもそうですが、「サイズや価格を度外視してとにかくすごいレンズを作ろう」という意図から生まれた、夢とロマンが詰まったレンズなのだろうと思います。
重さと引き換えにf値0.95というMレンズでは唯一無二の明るさを利用した写真が撮れるレンズですし、気になる重さも材質がアルミに変わったブラックのライカM11のボディとの組み合わせであれば、今までよりも快適に使用できるのではないでしょうか。

また、電子シャッターが搭載されたライカM11シリーズで使用すれば、日中でも開放f0.95で撮影が可能ですから、より使いやすくなるのではないでしょうか。近くを横切るような被写体に対してはローリングシャッター現象のゆがみが出る場合もありますが、出る条件を理解すれば避ける事は可能です。



夜、プラハ城に続く階段を上っていると、観光客向けのお店の中で作業をしている人物に目が留まりました。手前の窓に文字が書かれていたためピント合わせが難しいシーンだったのですが、女性の眼鏡の縁にピントを合わせて撮影しました。

F0.95だとさすがにピント合わせがシビアなので「ビゾフレックス2」を使用するのが確実ですが、ファインダーを覗いて撮影をしたい方は、ライカM10以降のM型をお使いであれば、「M10/M11 ファインダー用ネジアダプター」を介して「ビューファインダー・マグニファイアー M 1.25倍」を使用すると多少はピント合わせがしやすくなるのでお勧めです。
私は24mm、50mm、75mmのレンズを所有しているのですが、1.25倍のマグニファイアーを装着したままで50mmや75mmレンズでの撮影をしています。24mmの時は外付けの光学ファインダーを使用して構図確認をしますから、ピント合わせの為に内蔵のファインダーを覗く分には全く問題ありません。



別の日に郊外へ向かうトラムに乗っていると、途中で眼鏡をかけた老齢の男性が乗ってきました。「TVに出ているような方は外で見かけてもオーラが違う」等と言われることがありますが、まさにこの男性はシンプルな服装にもかかわらず、只物ではなさそうな雰囲気を強烈に放っていました。
撮りたい!と思い、おおよその距離にピントを合わせてからライブビューモードを使用してカメラをそっと持ち上げたところ、手で顔をサッと覆われたので一端カメラを下げました。その後2度カメラを構え直したのですが、その都度顔を隠されていました。
「やはり只物ではないのだろうな…」と思いつつ、手で顔を隠す仕草すら絵になっていたので、その瞬間を写真に収めさせてもらいました。




上の2枚の写真はどちらも地下鉄駅構内で撮影しました。駅を出発した電車と、場所によって恐ろしくスピードの早い地下鉄のエスカレーターでの撮影のため、どちらも人物にピントが合っていないのですが、これはこれで良いかなと思い、あえてセレクトしました。


ここ3~4年で、ストアに写真を展示していただいている写真家やカメラマンの方々から「ピントが合っている写真が全てではない」という言葉をよく聞くようになりました。実際にアウトフォーカスでも「良いな」と思う写真はありますし、もしも意図せずアウトフォーカスになった写真がPCに保存されているのであれば、見返してみると意外とお気に入りになるような写真があるかもしれません。



トップに掲載した、プラハ市内にある古い駅で撮影した1枚です。

犬を連れた女性が天井からの光が差している方向へ歩いていたので、一番強い光が当たっている地面にピントを合わせて開放でシャッターを切ったのですが、ちょうどその瞬間に人物が目の前を横切り肝心の被写体が隠れてしまったため、慌ててピントを合わせ直なおして4、5枚撮影しました。
理想とした被写体の立ち位置からは1m程奥にはなりましたが、結果的に犬が飼い主の方を見ている瞬間を写真に収めることができました。
天井から差す光が当たっている部分に目を向けると、同じ焦点距離のアポ・ズミクロンやズミルックスに比べ描写がより柔らかいのが分かります。



私自身まだこのレンズを使いこなせていると言えるレベルではありませんが、今回「ノクティルックス M f0.95/50mm ASPH.」を旅行に持ち出して、改めてその素晴らしい描写力を実感することができました。

個人的に、アポ・ズミクロン50mmは「上品なボケ方をしている背景画に、ものすごくシャープな写真を上からバシッと貼り付けたような描写」だと思っているのですが、ノクティルックスは「オールドレンズで撮影したような、緩いけど情感を感じるような写真の中にシャープな被写体を貼り付けたような描写」だと感じました。

また、35mmや50mmのアポ・ズミクロンで撮った写真は、その解像度や描写について、写真を拡大したりしながら言葉で語りたくなるレンズですが、ノクティルックスの開放で撮影した写真は、写真が勝手に語ってくれるような写真だな、と思いました。アポ・ズミクロンを使った後にこのレンズを使うと、何となくお分かりいただけるかもしれません。

アポ・ズミクロンの描写について語れる方は増えてきていると思いますが、アポ・ズミクロンをゴールで終わらせず、ぜひ、f0.95と言う唯一無二の明るさを持つ現行のノクティルックスについても語れるようになっていただければと思います。


「ノクティルックス M f0.95/50mm ASPH.」に興味を持たれた方はぜひ公式サイトに掲載されている「ノクティルックス50年の歴史」というコンテンツもご覧ください。