情熱 写人
ー 井之口 聡 ー
※本内容は、LEICA STYLE MAGAZINE の連載「情熱写人」をWebに再掲載したものです。
井之口 聡氏には2022年11月発刊の40号に登場していただきました。
熊手職人 稲垣榮一さん
和食店を経営する父から「これからの時代は手に職を持っていたほうがいいんじゃないか」と助言をもらい、その言葉がフォトグラファーの道に進む後押しとなりました。それから約20年、僕もカメラを扱う職人になれたのかなと思えるようになりました。
現在は広告写真の撮影が多いのですが、同時にライフワークとしてさまざまな手仕事を行う日本の職人を撮影しています。やはり職人に対して共鳴する想いがあり、強く惹かれるところがあるからなのかもしれません。
数多の職人を撮影するとき、2年前に手に入れたライカSL2が威力を発揮しています。愛用のレンズはバリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90㎜ASPH.です。
ライカのカメラの凄さは、黒の表現力ではないでしょうか。黒色の階調の中に無限の奥行を感じる写真が撮れます。例えるなら、深い闇に向かってどこまでも階段を下りていける感覚。まるで深淵へと誘い込まれるような奥深い黒色を美しく描写できるんです。とくに薄暗い工房で撮影したとき、重厚な陰影となって写し出される黒の表現力は圧倒的です。
職人を撮影する際に心がけているのは、被写体の空気を揺らさないこと。ろうそくの炎に対峙するイメージを持ちながら撮影に臨んでいます。職人にはとくにディレクションなどせず、いつも通りの仕事風景を僕なりの目線で撮らせていただいています。その緊張感に満ちた空気までもライカは繊細に写しとってくれるように感じます。
僕にとって〝いい写真〟は単純明快です。写された人が喜んでくれるのが一番いい写真。職人の写真でいうなら、被写体になった職人さん本人が喜んでくれたらそれが最高の正解だと思います。さらにライカで撮った写真はあとから加工する必要がありません。撮ったままの写真が最良に思えます。美味しい素材には余計な調味料が要らない感覚に近い。ライカを使い始めてとても驚いた点ですね。
今は2023年を目標に、僕の生まれ故郷でもある岡山県のジーンズ職人を撮り集めた写真集を出版するべく鋭意活動中です。ライカSL2は僕にとって作家性の幅を大きく広げてくれた存在。今後このカメラが、僕自身にどんな新しい展開をもたらしてくれるのか、とても楽しみなんですよ。
井之口 聡 / Satoshi Inokuchi プロフィール
岡山県出身。大阪芸術大学写真学科卒業。東京を活動拠点とし、さまざまな広告・雑誌で活躍中。出身地の倉敷市児島が国産ジーンズ発祥の地であることから、ジーンズをテーマにした写真も撮り続けている。受賞歴多数。
公式サイト:https://inokuchisatoshi.com
Instagram:@inokuchisatoshi
LEICA STYLE MAGAZINEにて連載中の「情熱写人」では、今後の活躍が期待される写真家にスポットをあて、ライカや写真に対する熱い想いを語っていただいています。
※今回掲載した内容は発刊当時の情報になります。井之口 聡氏の最新情報は公式SNSをご覧ください。