Leica
 x ジョン・サイパル



カメラは、単にその瞬間を切り撮るだけでなく、その一瞬の一部になるべきです。
ライカは私にとって、さりげないパートナーなのです。エレガントでシンプルなカメラは、決して邪魔になることはありません。写真と人生の謎を一コマずつ解き明かしてくれる、単なる道具ではなく、ガイドのような存在です。 

ジョン・サイパル


ライカプロフェッショナルストア東京およびライカGINZA SIXでは、「ライカM6」の発売に合わせて、アメリカ生まれで日本在住の写真家、ジョン・サイパルさんの写真展が開催されています。ライカプロフェッショナルストア東京では ”An Endless Attraction” と題して、これまでに「ライカM6」で撮影してきた作品14点を 、ライカGINZA SIXでは、下町日和 都心夜景 (Shitamachi Days, City Nights) と題して、新たな「ライカM6」で撮り下ろした作品12点を展示しています。今回はジョンさんに、今までの軌跡、ライカとの関わり、そして作品についてインタビューさせていただきました。

Interview & text:yoneyamaX



――本日は、インタビューのお時間をいただきましてありがとうございます。さっそくですが、まずは写真を撮るようになったきっかけからお話し下さい。

「私はアメリカのネブラスカで生まれ育ったのですが、絵が描きたくて高校時代から美術を勉強していました。その後、大学時代に写真を教えてくれたデイブ先生の影響などから徐々に写真にも興味がわき、初めてのカメラ、ミノルタの一眼レフを手に入れて写真を撮るようになりました。その中で、日本のアニメやPOPカルチャーにも興味があった私は、1998年に専修大学の交換留学生として、日本にきました。そして友人に写真クラブに誘われて暗室にも入るようになり、より写真に興味が湧く様になりました。そして大学の図書館でアンリ・カルティエ=ブレッソンやロバート・フランクなどの写真集を良く見るようになりました。彼らは私の写真人生において大きな影響を受けた写真家と言えるでしょう。」

――カメラの遍歴は、その後どうなったのでしょうか?

「当時はニコンの一眼レフを使っていたのですが、どうしてもデイブ先生が使っていた赤丸ロゴが付いたレンジファインダーカメラが気になって仕方ありませんでした。その赤丸ロゴの機種には手が届かなかったのですが、ブレッソンやロバート・フランクからイメージされる静かな写真が撮りたくて、2002年に持っていた全ての一眼レフの機材を売り払ってBESSAというレンジファインダー式のカメラを購入しました。」

――徐々に写真に興味が湧いていったようですが、いつ頃ライカを手にされたのでしょうか?

「交換留学生として日本で滞在した時のイメージが強かったせいか、アメリカの田舎のネブラスカに戻ってカルチャーショックを強く感じたこともあり、結局2004年には日本に戻り、英語教師として松戸に住むことになりました。そしてまずは以前よりずっと欲しかった初めてのライカ、ライカM6TTLを新宿のラッキーカメラで購入しました。そして翌年にはライカMPに買いかえ、このカメラでは年にフィルム500本くらいの撮影をしていました。このカメラは今でも使っています。」

――それは凄い枚数ですが、それらの作品をどのように発表されたのでしょうか?

「実は大学の卒論の代わりにネブラスカで『日本』という写真展を開催した事があったのですが、2005年には日本国内ではじめての写真展『ネブラスカ』を新宿のニコンで開催しました。その後コニカミノルタでも個展を開催しました。」

――その後、プライべートギャラリーのトーテンポールに所属したのですよね?

「はい。どうしても個展で自分の作品を発表したくてトーテンポールには2009年から所属しています。そして『随写(=写真で随筆する)』というタイトルで毎年個展を開く様になりました。主にはスナップの中の人々の作品です。人生が写る写真っていいですよね。」

――いまだにフィルムカメラを使う理由は何かありますか?

「日本人写真家では、須田一誠さんや荒木経惟さんの影響を受けているのですが、何といっても桑原甲子雄さんは素晴らしい写真家だと思いますし、大西みつぐさんには今でも大変お世話になっています。これらの写真家達はみなフィルムカメラを使って「これが写真だ」という素晴らしい作品を残してきています。自分でも良い作品をプリントで残していきたいという気持ちが強くありますし、伝統の銀塩の作品が好きなのです。まあ頑固なのでしょうね。(笑)今の若い人たちは、あえて写ルンですを使ったりして、フィルムの作品に敏感になっていると思いますよ。」

――今回開催される写真展のコンセプトをお伺いしてもよろしいでしょうか?まずはプロフェッショナルストア東京での展示ですが、これはライカで撮った過去の作品からの展示ですよね?

「はい。こちらでは『随写』から作品をセレクトして展示しています。『随写』はこの10年くらいで個展を23回開催しています。ずっと続けているライフワークなのです。今回は人物の顔が写っていない作品を選ぶというある意味チャレンジングな写真展ですが、強いて言えば今までの作品の総集編と言っても良いのかもしれません。コロナ禍に永井荷風などの日本文学などに接する機会もあり、それらの影響も受けていると思うのですが、一言でいえば渋い写真=地味な写真が好きなのです。目がチカチカする写真はあまり好みではありません。」

――ライカGINZA SIXでの写真展は、また違った作品なのですよね?

ライカGINZA SIXの展示作品は、実は新しく登場したライカM6の『M6 PHOTOGRAPHERS』の1人として私の撮影風景をMOVIE用に撮影していただく機会があったのですが、その際にライカM6で撮影したものです。ですからその時点では、この時撮った写真が写真展に展示されるとは正直思っていませんでした。とは言え、この写真も自分のスタイルである随写を意識して撮っています。F1.4のズミルックスという明るいレンズを使ったこともあり、今までは撮ったことのなかったような夜の風景写真も撮りました。私にとってはとても新鮮に感じました。撮影場所は東京で、新宿や渋谷、そして浅草、上野、谷中などの下町も巡りました。ちなみに私の彼女はファッション関連の仕事をしていますので、GINZA SIXで写真展を開催すると伝えたら「凄い!」と認めてくれました。」

©John Sypal

――ジョンさんの写真で皆さんに見てもらいたい所はありますか?

「皆さんの感性におまかせします。基本的には自由に見て欲しいのですが、あえて言うなら出会いやその瞬間など、それぞれの写真にあるストーリーですかね。このウサギのお面を付けている女性の写真ですが、まずは「そのお面、いいよねー」と声をかけて、スマートフォンで彼女たちを撮ってあげたのです。それをきっかけに会話を弾ませてよい雰囲気を作り、その結果このように動きのある素敵な写真が撮れました。彼女たちもフィルムカメラのことは知っていて、フィルムで撮ると言ったら「凄いねー」と言ってくれました。

©John Sypal

それから、このタトゥーの青年の写真ですが、彼に近づいた時に、私のカメラを見て、「おーライカだ」と彼が言ったのをきっかけに会話がはじまり、「写真撮らせてよ?」「OK!」とすんなり事が運び、何枚かの写真を撮らせてもらいました。やはり彼もフィルムカメラに反応していました。今の若い人達にとってフィルムとは特別なものなのだとあらためて感じました。」

©John Sypal

――現在お使いのライカを教えて下さい。

「普段はライカMPを使っているのですが、ライカM6も愛用しています。ある日私にとっては写真の神様のような存在の、大学時代の恩師デイブ先生からメールが届いて、私のライカM6を買ってくれないかということでした。もちろん大変嬉しいお話だったのですぐに購入し、先生が使い古したライカM6を手にすることができたのです。このカメラのボトムカバーの内部には、なぜかデイブ先生ではなく、荒木経惟さんのサインが入っているのです(笑)。荒木さんもライカM6を使っていましたしね。いずれにせよ私の貴重なライカM6であることに間違いはありません。

そして新たなライカM6も入手しましたので、これからもライカのフィルムカメラで頑張って撮影していきます。」

――今日は新旧両方のライカM6をお持ちいただきましたが、どちらのカメラにも名前を入れていますね?

「このダイモというアナログな表現方法が好きなのでいまだに使っています。どちらのライカにもダイモで ”SYPAL” と入れています。」

――今回のライカM6についているレンズは、ズミクロンM f2.0/35mmですよね?

「はい。ライカMPがシルバーなのでシルバーのレンズ、ライカM6用にはブラックのズミクロンを使っています。新旧のMレンズですが、新タイプはシャープで旧タイプはえんぴつのような感覚です(笑)。世代が違うので表現もやや異なります。それからエルマーf2.8/50mmも使っています。」

――ライカM6について語って下さい。

「ライカM6は最高です。そしてやさしさと強さがあります。以前は、ライカの赤丸ロゴが好きではなかったのでライカMPを買ったのですが、ある人から「赤丸ロゴがあってこそライカでしょう?」と言われたのです。確かに渋谷などで人物を撮影する時は、赤丸ロゴがあるとそこからコミュニケ―ションがはじまるのです。そう言う意味でライカM6の赤丸ロゴは目立っていいですよね。ライカM6は初めに写真を教わったデイブ先生が持っていたカメラという「すりこみ」的なこともあるのかもしれませんが、個人的にはライカM3よりもライカM6の方がかっこいいと思います。とにかく最高のカメラです。」

――他にライカの魅力とは?

「Unobtrusive(=じゃまにならない)のが魅力ですね。黒くて小さくて目立たないカメラであり、自分とカメラの間にはなんの違和感もないという事です。ブレッソンのようにカメラが自分の体と一体化しているのでしょう。ライカは出会いの道具でもあり友達のような存在でもあります。また、ライカには写真の神が宿っているように思う事もあります。自分が撮った意識はなく、反射的に、そして自動的にカメラが撮った良い作品もあるからです。そして何よりも絞り、シャッター、ピントなどを合わせながら一枚一枚丁寧に撮るという作業はクリエイティヴでとても楽しいものです。ライカのシャッター音も最高ですよね。」

――それでは次に、“Tokyo Camera Style” について教えて下さい。

「2008年に大西みつぐさんや北井一夫さんなどで写真クラブのイベントが開催されました。これをきっかけに東京の写真文化を日常的に取材しながら、フィルムカメラを持っている人の機材を撮るようになり、それをテーマとした作品のシリーズ化を決めました。フィルムカメラをフィルムカメラで撮った作品です。そしてこのテーマで2013年にインスタグラムを始め、徐々に人気が出てきた2015年にはイギリスの出版社から写真集の話がきて “Tokyo Camera Style” を出版する事となりました。そしてこれも私のライフワークとなったのです。」

――写真を撮っている若い人たちに何かアドバイスはありますか?

「自分にとって好きなことや大切なものを撮れば良いと思います。好奇心がわいた事があればなんでもそれを撮っていけばいいと思います。また人生にとって、身の回りに大切なものがあります。それは家族であったり友人であったりペットであったりします。それらを撮影していくことも重要な記録となります。」

――今後やっていきたいことはありますか?

「私は撮影・フィルム現像・引き伸ばしと全て自分で創り出せるアナログな写真を楽しんでいます。現在でも年にフィルム200~250本分の撮影をしているので、膨大な数の作品が存在します。それらをまとめる事も必要だと思いますが、一方で、瞑想しながら東京を歩き、もっと撮影していきたいと思っています。また、2作目の写真集「Tokyo Silver Paradise」は今年、禅フォトギャラリーで出版しましたが、写真集は今後も継続して制作していきたいと思います。そして写真展ももっとやりたいですね。これからのやりたい事をひと事で言うのなら『ライカと歩きたい!』でしょうか。」

――本日は、ありがとうございました。




写真展概要

作家:ジョン・サイパル

タイトル: An Endless Attraction
会期:2022年11月18日(金)- 12月6日(火)
会場:ライカプロフェッショナルストア東京
   東京都中央区銀座6-4-1 東海堂銀座ビル2階  Tel. 03-6215-7074


タイトル: 下町日和 都心夜景Shitamachi Days, City Nights
会期:2022年11月16日(水)‐12月14日(水)
会場:ライカGINZA SIX  
   東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 5F  Tel. 03-6263-9935



ジョン・サイパル/John SYPAL プロフィール

1979年、アメリカ・ネブラスカ州生まれ。2004年来日し、2005年より写真展を開催しはじめる。2010年Totem Pole Photo Galleryへ 参加。

 2015年 写真集「Tokyo Camera Style」Thames & Hudson 刊行
 2017年 写真集「随写」Zen Foto Gallery 刊行
 2022年写真集「銀園」Zen Foto Gallery 刊行

Born in Nebraska, USA in 1979.  In 2004 he moved to Japan and from 2005 began regularly exhibiting photographs in Tokyo galleries. From 2008 he began Tokyo Camera Style, and through which he shares Japanese photographic culture online. In 2010 he joined Totem Pole Photo Gallery. Publications include Tokyo Camera Style (Thames & Hudson, 2015), Zuisha (Zen Foto, 2017) and Tokyo Silver Paradise (Zen Foto, 2022).