Mレンズの実力
LEICA THAMBAR-M f2.2/90mm
From Leica Style Magazine Vol. 30
センタースポットフィルターを装着して撮影。 光点ボケの輪郭強調が強くなり、レフレックスレンズのようなリングボケが特徴的だ。
ライカM10・f2.3・1/500秒・ISO200・WBオート・RAW
LEICA THAMBAR-M f2.2/90mm
蘇った伝説のソフトフォーカスレンズ
フォトグラファー 河田一規
ある程度昔からライカが好きな人なら「タンバール」というレンズ名は、きっとどこかで目にしたことがあるはず。タンバールは1935年に登場したソフトフォーカスレンズで、その写りの素晴らしさは伝説にもなっているが、わずか2984本しか製造されなかったため、実際に愛用している人は非常に少なく、それゆえタンバールで撮られた写真を見ることもまた非常に少ない。こうした情報の少なさも、タンバールの伝説化に拍車を掛けていると言えるだろう。そんなタンバールがライカの銘玉復興プロジェクト第2弾(第1弾は2016年発売のズマロンf5.6/28mm)として、現代に蘇ったのだからビックリだ。新たな伝説の始まりである。
オリジナルのタンバールはライカ社の有名な光学技術者であるマックス・ベレクを中心に設計されたが、新タンバールもオリジナルと同じ光学系を踏襲。意図的に残された球面収差を利用することで軟調描写を得る仕組みだ。新タンバールはレンズを腐食や環境変化から守るためにコーティングが施されているが、現代レンズでは当たり前のマルチコートではなく、あえてシングルコートが採用されている。これはマルチコートだとコントラストが上がってしまい、せっかくの軟調描写が台無しになってしまうためだ。
外観デザインは基本的にはオリジナルを踏襲しているが、細部は現代的な見た目にアレンジし直されている。マウントもオリジナルではスクリュー式だったが、復刻版ではバヨネット式のMマウントを採用。6ビットコード付きなので、デジタル化されたM型ライカに装着するとレンズ名がボディ側へ伝わりExif情報にも書き込まれる仕組みだ。もちろん、マウントアダプターを併用すればライカSLにも装着可能だが、ソフトレンズは軟調なのでピントの山が分かりにくい。どちらかというと、レンジファインダーで正確にピントを合わせることができるM型ライカの方が相性はいいだろう。
ライカM(Typ240)・f5.6・1/2000秒・ISO200・WBオート・RAW
実際に使ってみると、これが想像以上に楽しい。絞り値でソフト描写が変わるのはもちろんのこと、付属のセンタースポットフィルターを付ける・付けないでも描写が変わってくるので、ちゃんと使いこなすには真面目に研究する必要があるものの、その場で結果が確認できるデジタルの便利さで効率よく研究できるし、とにかく軟調の「質」が素晴らしいのだ。
デジタルでは画像処理的な各種フィルターを使うことでソフト描写はもちろん、いろいろなエフェクトを簡単に得ることできるが、やはり光学領域でのアナログ的なソフト効果は、デジタル処理とは根本的に質が異なることを再確認した。ポートレート撮影にはもちろん最適だし、叙情的な風景写真に使っても楽しい。光の変化で驚くほど機敏に描写が変わってくるので、普通のレンズよりも光線状態の見極め方がシビアになるだろう。デジタルフィルターによるソフト描写とは次元の異なる、本物の軟調描写を楽しんでほしい。
1935年に登場したオリジナルの光学系をそのまま継承しているが、コーティングの採用やMマウント化など現代的にアレンジ。懐古趣味などでは決してなく、デジタル時代に合わせて生まれ変わったソフトレンズ。鏡胴の作り込みは素晴らしいのひと言。
レンズには専用革ケースやそのストラップ、センタースポットフィルターなどが付属。センター部分だけ光を通さない特殊なセンターフィルターが付属。フィルターを付けるとレンズ中央部の光が遮られ、収差量の多い周辺光だけで結像するため、フィルター無しのときよりソフト効果が強くなる。
※ライカ タンバール M f2.2/90mmの販売は終了しました。
TECHNICAL DATA ライカ タンバール M f2.2/90mm
画角
画角(対角線、水平、垂直) | 35mm 判(24 × 36mm) ( 27°、23°、15°) |
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光学系
レンズ構成 | 3群4枚 |
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撮影設定
撮影距離 | 1.0m〜∞ |
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目盛り | メートル及びフィート表示 |
最大撮影倍率 | 35mm判 約215 × 322mm/1:9.0 |
絞り
設定方式 | 無段階 f2.2 〜2.6 またはf9 〜25 (白:センタースポットフィルター使用) f2.3 〜6.3 (赤:センタースポットフィルターなし) |
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最小絞り | F25 |
絞り枚数 | 20枚 |
その他
レンズマウント | すばやい着脱が可能なライカMバヨネット、 デジタルMカメラ識別6ビット・コード付 |
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フィルターサイズ | E49(センタースポットフィルター付属) |
レンズフード | 丸型かぶせ式 |
本体仕上げ | ブラック |
寸法・質量
先端からバヨネットフランジ までの長さ |
約90mm(フード除く) 約110mm(フード含む) |
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最大径 | 約57mm |
重量 | 約500g |
フォトグラファー 河田 一規 (かわだ かずのり)
1961年横浜市生まれ。
小学3年生の頃、父親の二眼レフを持ち出し写真に目覚める。
10年間の会社勤めの後、写真家、齋藤康一氏に師事し、4年間の助手生活を経てフリーに。
雑誌等の人物撮影、カメラ雑誌での新機種インプレッション記事やハウツー記事の執筆、カメラ教室の講師等を担当している。