ライカM EV1の魅力
part2 - 窓ではなく、キャンバスとして -
ライカM型の歴史の新章となる、EVF搭載の「ライカM EV1」。 レンジファインダーという個性を脱ぎ、従来のM型とは全く異なる切り口で撮影に挑めるカメラです。前回に引き続き、その魅力と設計思想を考察してみたいと思います。 今回は、ライカ ノクティルックスM f1.2/35 APSH.に加え、複数のレンズで撮影を試みました。

想像から創造へ ─ EVFのMがもたらす新しい撮影体験
レンジファインダーカメラの魅力のひとつに、被写体を目で見たままの状態で捉えられる点が挙げられます。ガラス越しにみる被写体を、写真の完成形を想像しながらシャッターを切る。この撮影体験は、レンジファインダー特有の何物にも代え難い愉しさです。 反対に、EVFでの撮影はレンズを通してセンサーが受け止めた光をそのまま液晶に出力するため、シャッターを切る前に完成形を確認できます。即ち、より精度の高い“撮り手の意図の反映”を可能にするのです。 特にモノクロームでは、その恩恵が際立つように感じられます。

Leica Noctilux-M f1.2/35 ISO64, 1.3EV, f1.2, 1/320
ごく私的な所感ですが、レンジファインダーでの撮影は直感的に二重像を合わせるだけでおよそ意図通りの写真が撮れるため、シャッターを切るまでの時間が極端に短くなります。そういった点から、レンジファインダーは世界に“即応”するための装置であるとも言えるのではないかと考えます。
しかし、常に速さだけが写真の価値を決めるわけではありません。
ライカM EV1での撮影は、ピントの山を観察しながらの撮影になるため、速写性においては従来のM型に譲ります。ただし、完成形を見据え露出も構図もその場で決め切る事ができるのは、“狙い撃つ”撮影において、これ以上にない強みとなるのです。

Leica Noctilux-M f1.2/35 ISO64, -0.7EV, f1.2, 1/1250
レンズの揺らぎを知り、制御する
古い時代のレンズには、距離や絞り値によって焦点移動が発生してしまうものがあります。また、長い写真機の歴史のなかで生まれた数々の銘玉たちは、すべてがライカM型で距離計に連動するわけではありません。
現代では見られないような興味深い設計のレンズや、過去にライカと競合したメーカーが残した宝物のようなレンズたちを、M型でネイティブに楽しみたい。そんなオールドレンズファンなユーザーの理想を、ライカM EV1はいとも簡単に叶えてくれるのです。

Carl Zeiss Jena DDR Flektogon 20mm F4 ISO3200, 0.7EV, f4, 1/320
可視化される収差をも、画作りの一つに
それぞれのレンズが持つ収差。かつてはネガティブに受け止められていた要素ですが、今日では“味わい”として受け止められるようになりました。ライカが緻密な像を結ぶ高性能なレンズを送り出す傍ら、復刻レンズシリーズで柔らかな収差が残されたレンズをリリースするのも、そういった需要があるからに違いありません。そんなレンズたちの個性を、存分に味わうことができるファインダーなのです。

Carl Zeiss Jena DDR Flektogon 20mm F4 ISO320, -0.3EV, f4, 1/320
構築という撮影姿勢
試写しながら、ライカM EV1は従来のM型と撮影する姿勢そのものが異なるという事に気がつきました。レンジファインダーのM型が“瞬間を掴む道具”だとすると、M EV1は“完成形を設計する道具”です。
直感的に、勢いのまま切り込む事ができるレンジファインダーは、世界に飛び込むための窓。ライカM EV1のファインダーは、EVFという小さなキャンバスに、じっくりと世界を構築するかのようです。
没入感のあるファインダーのなかで、魅惑的なレンズの写りを堪能しながら、構図や露出を決め込み、確信を込めてシャッターを切る。これはレンジファインダーでは成し得なかった、新たなM型の撮影体験です。

Leitz Elmarit 90mm f2.8 (1st) ISO64, -0.3EV, f4, 1/1250
即興的なインスピレーションと、速さを尊ぶM。
腰を据え構築する、精度を極めるM。
それは優劣ではなく、撮り手の姿勢の違いです。撮りたい写真によって、選ぶべき道具が変わるだけなのだと思います。

Leitz Elmarit 90mm f2.8 (1st) ISO640, -0.3EV, f2.8, 1/320
EVFは、世界を受け止める装置ではなく、世界を整える装置だと言えます。ここがレンジファインダーカメラとは決定的に異なる設計思想です。そこから生まれる一枚には躊躇いがなく、撮り手の意志の通った確信の一枚になるのではないでしょうか。

Leitz Elmarit 90mm f2.8 (1st) ISO64, -0.3EV, f2.8, 1/320
レンジファインダーの世界では、像は常に外界と共にありました。ブライトフレームの外もまた現実であり、撮影者はその場に身を置いたままシャッターを切ることを求められます。 一方、EVFを覗いた瞬間、世界は内側へ引き込まれるのです。光は数値となり、コントラストは制御され、撮影者による構築が求められます。 その在り方こそが、「ライカM EV1」の新しさなのでしょう。
新たな“M”の選択肢
ライカM EV1は、距離計という既成の枠にとらわれない新たな視座を与える試みです。その意味を理解するには、Mという存在をより長い時間軸で見つめる必要があるのでしょう。 ではその視座は、これまでのMが培ってきた思想とどのように交差し、どのような歴史を刻むのでしょうか。その点について、次章で考えてみたいと思います。
part1 - 光を操り、空間を指揮する写真機





