ライカM11-P オールドレンズでゆく鎌倉フォトウォーク

Impression Report by Leica Store Staff



ライカの製品の中でも、とりわけ深い歴史を持つM型。
その最新機種であるライカM11-Pで試写できる機会を得た為、今回はインプレッションとしてオールドレンズとの相性を述べてみたい。6000万画素を誇る高画素のセンサーと、滲みやフレアが目立つ甘い描写が魅力的なオールドレンズ。現行の、ほぼ完璧に収差補正されたレンズの高精細な撮影体験とは全く別の面白さがあるのではないかと期待に胸を膨らませ、鎌倉へと向かった。


使用機材:
ライカM11-P シルバー・クローム







Leica M11-P / Leica Thambar-M f2.2/90mm f2.2 , 1/500 , ISO80 , EV-1.0


写真仲間と鎌倉駅で待ち合わせ、まずは1935年に発売された伝説のソフトフォーカスレンズ「タンバール」の復刻版にてランチのひとときを撮影。柔らかな光の滲みが特徴的な、非常に優しい描写である。
机に置かれたライカM10と、オールドレンズのズマリットf1.5/5cm。今回ご一緒した方のものである。50年以上前に作られたレンズだが、現代のデジタルカメラにも違和感なくフィットする。1954年に作られたライカM3から脈々と続くM型の歴史に併せて、レンズも膨大な種類が製造された。
Mマウントの伝統を受け継ぐことで、古いレンズで昔の人がみた景色を再体験できる。ライカM型を用いたオールドレンズでの撮影は、そういった浪漫を感じられる貴重な体験なのだ。
今日のライカが復刻版レンズをリリースする所以も、そういった歴史へのリスペクトがあってこそだと思う。





Leica M11-P / Leitz Summarex f1.5/8.5cm f1.5 , 1/180 , ISO64 , EV+0.7


道端のヒメツルソバ。渋い色合いの葉と淡い彩りのちいさな花が非常に愛らしい。ピント面の薄いレンズで撮影した分、アウトフォーカス部は豪快なボケ方である。一方で、合焦部では絶妙な滲みが生じており、画全体の印象として穏やかな雰囲気で撮影できた。
オールドレンズのような"収差"を楽しむ撮影の場合、中央部の安定した描写よりも周辺部に近い部分、すなわち合焦部とボケの中間を如何に味わえるかどうかがポイントだと感じている。そういった絶妙なニュアンスも、ライカM11-Pは繊細に掬い取ってくれる。





Leica M11-P / Leitz Summarex f1.5/8.5cm f1.5 , 1/4000 , ISO64 , EV+0.3


この日は曇天で、晴れた海のロケーションに巡り会えなかった事が少々心残りである。ただ、逆光耐性の弱いオールドレンズでは、かえって曇天の方が好都合だったりもする。f1.5の明るいレンズを使ったが、ISO64をネイティブに使え、かつ電子シャッターを搭載したライカM11系ボディでは、絞りを開放にしていても問題なしだ。遠景だが敢えて絞らず撮影したことで、全体に霞がかかったような画になっている。
発色は非常に良く、繊細な色滲みが細やかに拾われているところに6000万画素の恩恵を感じる。





Leica M11-P / Leitz Summarex f1.5/8.5cm f1.5 , 1/4000 , ISO64 , EV+0.7


中望遠のレンズだと、やはり人を主体に据えたくなる。被写体と適度な距離が取れる分、特に景色を交えたポートレートのような撮影で威力を発揮するように感じる。
曇天とはいえ輝度差の激しいシチュエーションだったが、特に破綻せず写っている。現像にて暗部を少々持ち上げた事で、良好な露出が得られた。私物のライカM9で撮ったデータと比較しても、ライカM11系のダイナミックレンジは驚くほど広大になった。かなり現像の自由度が高いRAWデータが得られる為、撮影時は露出にそこまで気負う事なくシャッターが切れてしまう。ライカM11からセンサー面での測光となり安定した測光結果が得られる事も影響しているであろう。「撮影者はピントと構図にのみ注力すれば良い」といっても過言ではない。





Leica M11-P / Leica Thambar-M f2.2/90mm f2.2 , 1/500 , ISO80 , EV-1.0


球面収差の過剰補正という特異な設計で、美しいボケを演出できるタンバール。
被写体が溶けてゆくような、現行レンズでは得られない独特な描写が非常に楽しいレンズである。アンダー目に撮影し、現像にてハイライトを少々持ち上げた。深い緑のなかから浮かび上がるような、ビビッドなバラ。タンバール特有のソフトさを残しながら、色合いがすこぶる濃く、コントラストも申し分ない描写である。





Leica M11-P / Leitz Hektor f2.5/5cm f2.5 , 1/200 , ISO320 , EV0.0


薄暗い中、別世界につながるように光が差していた路地裏の風景。
かなり明暗差のある環境だったが、色調鮮やかに表現できている。ヘクトールf2.5/5cm はライカレンズ開発黎明期の製品であり、既に製造から100年が経とうとしている。残存収差の多い、何処となく重々しく妖しい写りをするレンズだ。





Leica M11-P / Carl Zeiss Jena Biometar f2.8/3.5cm f2.8 , 1/200 , ISO320 , EV0.0


私的な感想であるが、ノンコーティングレンズは赤の発色が非常に美しいと感じている。
ビビットな赤色を撮影しても、朱色っぽく少しくすんだ感じで表現される事が多いのだが、そのジェントルな落ち着きある色合いの妙は、どうしてもノンコーティングレンズでないと出せないように思う。時間とともに磨かれ、まろやかに円熟した描写こそがオールドレンズの魅力であろう。





Leica M11-P / Carl Zeiss Jena Biometar f2.8/3.5cm f2.8 , 1/250 , ISO200 , EV0.7


今回の試写を通して、ライカM11-Pはオールドレンズ特有の描写の甘さを徹底的に写し出すポテンシャルを持っているカメラであると感じた。
ライカM11系ボディの高画素なセンサーは、現代レンズのような諸収差をほぼ完璧に補正したスムーズな写りをごく自然に表現できるのは勿論の事、いささかマニアックなオールドレンズのクセのある写りをも、しっかりとキャッチしてくれる。





Leica M11-P / Leica Noctilux f1.2/50mm f1.2 , 1/400 , ISO64 , EV-0.7


トリプルレゾリューションテクノロジーによる画素数可変式の画像処理も試してみたのだが、画素数変更による描写の変化はさほど感じられなかった。言い換えると、どの画素数でも安定した色調で撮影が可能であるという事だ。
1800万画素でのデータのほうが微妙に擬色やノイズが抑えられているように感じるが、よほど大きく引き伸ばさない限り6000万画素との違いは感じられないだろう。
環境によってノイズは出やすいかもしれないが、6000万画素で撮影し写真拡大して鑑賞すると、その圧倒的な解像力となめらかな表現に思わず舌を巻く。
ここぞという時に6000万画素で撮影し、普段のスナップでは1800万画素ないし3600画素で運用するのも良いだろうし、現代レンズを使用する時とオールドレンズを使用するときで画素を変更してみるのも効果的かもしれない。使い方は非常に幅広く、どの画素数でも大きな違いを出す事なく安定した撮影結果が得られるのはとても好ましいことであろう。





Leica M11-P / Leica Noctilux f1.2/50mm f1.2 , 1/320 , ISO64 , EV-0.7


M型カメラの一番の魅力、それはやはり「ガラスのファインダーで撮影をする」ということ。
1954年の初代M型カメラ「ライカM3」から、そのファインダーの見え方は大きく変わっておらず、ミラーレスが普及した今だからこそ、その個性は輝きを増す。
ファインダーに浮かぶ白い枠線と、うっすら二重にずれた実像を頼りに、完成形を想像して撮るというプロセス。結果がわからない状態で撮影する体験は何物にも代えがたく、珠玉のレンズたちが写し出してくれる写真は撮影する度に喜びを感じられる。肉眼では味わえないドラマチックな描写を、余すことなく拾ってくれる。ときには思いも寄らないハレーションやフレアが入り込んでしまうこともあるだろうが、ここまで撮影の過程や所作を楽しめるカメラが他にあるだろうか。





Leica M11-P / Leica Noctilux f1.2/50mm f1.2 , 1/16000 , ISO64 , EV-0.7


M型カメラはレンジファインダーの伝統を守りながら進化を遂げ、デジタル技術のアップグレードを続けながらライカM11-Pに至っている。歴代のM型デジタルカメラではプロダクトの特性上、少々ピーキーだと感じる事もあるが、その特性を理解し使いこなすことができれば、ライカM11-Pは替えが効かない相棒となるだろう。





Leica M11-P / Leitz Summarex f1.5/8.5cm f1.5 , 1/125 , ISO3200 , EV+0.7


伝説的なライカM3の面影を今日に残す、ライカM11-P。 クラシカルなレンズとのスタイリングも抜群に良い。性能面でも、最早これ以上何を求めるのだろうかと思ってしまうほどのデジタル技術が、フィルムカメラと同等の薄さを誇るボディに収まっている。
オールドレンズのクセをもしっかりと受け止め、安定した写真に仕上げてくれる。レンズとの相性云々という以前に、ライカM11系ボディの完成度の高さ、そして懐の深さを思い知る事ができた。そんな試写であった。





Photo by Leica Store Staff






コンテンツクレデンシャル機能を搭載した世界初のカメラ

ストーリーテリングの信頼性を高めたい。そんな思いから生まれた「ライカM11-P」は、「コンテンツ認証イニシアチブ(CAI)」とコンテンツ来歴および信頼性のための標準化団体「C2PA」の規格に準拠したコンテンツ認証機能をシームレスに統合した世界初のカメラです。
決定的瞬間の来歴を立証し、検証することができる画期的な機能――進化を続ける写真界において、あなたが切り撮るすべての写真が真正性と信頼性、イノベーションを象徴する証となります。