Leica × 藤原宏 PartⅠ
様々な分野でプロフェッショナルとして活躍されているライカユーザーの方に、ライカのある日常について語っていただくこの企画、今回はファッション誌やアイドルの写真集などで活躍されているカメラマンの藤原宏さんにご登場いただき、プロフェッショナルの道具としてのライカについてインタビューさせていただきました。
Interview & text Gandhara Inoue
――本日はお忙しいところありがとうございます。藤原さんはポートレート撮影を中心としたカメラマンとして大活躍されていますね。ポートフォリオを拝見したところ見たことのある写真がたくさんあり、これも藤原さんが撮影したんだ!と気付かされました。現在のお仕事の内容を教えてください。
「元々は女性誌の仕事がメインでしたが、日向坂46の小坂菜緒さんの写真集をきっかけにグラビア撮影の仕事がくるようになって、最近では女性のファッション誌とタレントさんの写真集を半々でやっています」
――アマチュアの写真愛好家は単独行動で撮影する場合が多いですが、プロフェッショナルの現場には関係者が何人もいらっしゃるわけですよね?
「そうですね、写真集の仕事では僕のアシスタントと編集者さん、ヘアメイク、スタイリスト、ご本人とマネージャーさんという感じです。企業とのタイアップページや、それから派生した広告の場合には広告代理店の方やアートディレクターの方が入ることもあります」
――広告の場合は現場の人数がぐっと増えますよね?
「スモークをあおぐ担当の人がいたりして『ここで1人使うんだ』みたいなこともあって面白いと思いました。広告の経験はあまりないのですけれど、スケールの大きさがすごいですよね」
――エディトリアル、写真集、広告などさまざまな現場で撮影する際に、パソコンやタブレットなどのモニターに撮影したカットをどんどん表示して関係者とのコンセンサスを得ながら進めるという感じでしょうか?
「そうですね。撮影した写真をその場で見て確認していくのに、リアルタイムでモニターしていくテザー撮影をするのが一般的です」
――そこでライカのことをお聞きしたいのですが、藤原さんが仕事に使った初めてのライカは何でしたか?
「最初はライカM-P Typ240とノクティルックスM f0.95/50mm ASPH.のセットを買ったんです」
――おお!それはチャレンジングな組み合わせですね。マニュアルフォーカスで超大口径のピントの浅さを使いこなすのは難しそうですし、あの機種は確か本体だけではテザー撮影ができなかったかと思うのですが?
「そうなんです。でもファッション誌で活躍しているすごい先輩の方々がライカMを使っていて、『つながないで撮っているよ』なんて話を聞いていたりして。テザー撮影をしないのって格好いいなと思って憧れていました」
――テザー撮影でリアルタイムの確認ができなくても、撮った写真には自分が責任を持つという感じで確かに格好いいですよね!
「あとライカの色味がいいなと思っていて。今では現像ソフトでルック再現ということができて、写真を取り込むとそのルックをAIが真似してくれますし、プリセットも数多く販売されているのでその組み合わせで色をパンパン変えられますが、昔は自分で1から設定値を作ってそれを保存してという感じでした。ぼくが格好いいなって思う写真を撮るカメラマンの色味を再現するのに、やっぱりライカじゃないといけないのかな?とか模索する時期ではありました」
――ということは、そのライカM-P Typ240をお仕事の現場で使っていたのですね。
「それが、ほぼ使いこなせなかったんです(笑)。雑誌の連載企画とかではモニターにつながなくてもいいので、かろうじて使っていたりしました。テザーを試みたこともあったのですが、ちょっと動きが遅かったりして。Mに挑戦して1年後に、最初のライカSLが出たんです。各社が段々とミラーレスに移行していく時期でテザーもできると言われ、それを買いました」
――ライカSLの初号機は、プロフェッショナルの現場でつないで撮ることのニーズに応えてくれる機種だったということですね。
「テザー撮影は仕事の上でマスト事項ではありました。中判一眼レフのライカSシリーズに挑戦してみたこともあったのですが、ロケ撮影で動く相手を撮影する場合にはピントに苦戦しました」
ライカSシリーズはAFも中央部でしか合わせられないカメラですから、大胆なフレーミングで動きのある被写体だとピントのリスクがありますよね。
「ピントをもっと合わせろという当時のコンサバ系ファッション誌の現場の文化では、ちょっとピントの甘いオシャレな写真が通用しない世界観が主流でした。色やボケ感は綺麗でしたけれど他のカメラのガチピンの画像と比べられてしまい、Sシリーズを使い倒せませんでした。今だったら使えるんですけれど、やっぱり若手だと自由度が低い企画が多いので。当時は企画によって撮り方の正解が変わることを把握しきれず模索していた時期でした」
――そこでライカの色味と撮影現場での要望やワークフローを両立させる機種としてライカSLシリーズを導入されたということですね。今日は実際に撮影に使用している機材をお持ちいただきました。ライカSL3もSL3-Sもボディをケージで囲っていますが、動画撮影用のリグを組むためでしょうか?
「いいえ、動画は撮りません。テザー撮影しているとコードが痛むんですよ。撮影中に壁とかに接していくとコネクタ部分が触れて無理な力がかかってしまうことがあります。そこでケーブルを逃して固定しておくのに使っています。あと、少し重くなりますけれど、ボディが傷つきにくくなります(笑)」
――では、ライカSLシリーズでされたお仕事の一部を拝見させていただくことにします。
©藤原宏「Seventeen 2024夏号掲載 モデル 永瀬莉子」
――この写真はライカSL3とバリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.で撮影されたとのことですが、ロケ地はどこですか? よく光が回っていますが、レフで起こしていたりするのでしょうか?
「これは自然光で、レフ板や補助光は使っていないです。ロケ場所は九十九里で地面が砂なので反射が効いているのだと思います。ちょうど西日になりかかっている頃で、広角側で撮っています」
――ちなみに瞳認識は使っていますか?
「ほとんど人認識で、瞳認識のiAFで撮影していて、撮影状況によってピント抜けしてしまう時はAFc 、それでも迷ってしまうようだったらトラッキングでAFcをたまに選択する感じで撮影しています」
©藤原宏「Seventeen 2024夏号掲載 モデル 永瀬莉子」
――この場合、余計な心配かもしれませんが馬の瞳にピントが行ってしまうことはないのでしょうか?
「いや、人間の方に合いますし、間違ってしまってもピントの場所は選択できます。動きながらだとちょっと大変な場合がありますけれど、これはセットして撮っているので全然問題なかったです」
――レンズはズーム1本勝負ですね。
「砂地で風も強かったので、レンズ交換をするのがちょっと嫌だったのでズームで行こうとなりました」
©藤原宏「Seventeen 2024夏号掲載 モデル 永瀬莉子」
「これは同じ場所で衣装が変わったものです」
――藤原さん、逆光がお好きですよね。
「好きですね〜」
――このゴーストの出方は、何カットか切って選ぶ感じですか?
「ライカSL3はミラーレス機なのでゴーストの状態をファインダーで見ながら判断しますが、これもテザー撮影をしているので担当の編集者が『この球、ちょっと嫌かも』って言われたらアングルを探せば消すこともできます。このカットを選んでいるということは編集者もいいと思っているので、そこはいろいろ撮ります」
――デジタルでテザー撮影だからできることですね。絞りも開放近くですかね?
「ほぼ開放だと思います。この前のカットでは結構絞っています。ライカSL用のレンズは開放近くでも解像度が保たれていて綺麗ですよね」
©藤原宏「鈴木愛理 LIVE PARTY #NLNL EX ~未完ガラクタカプセル~」
――ロケ写に続いて、こちらはスタジオ撮影ですね。
「これは鈴木愛理さんのライブのグッズ撮影です。この素材がTシャツになったりパンフになったりします。プロップも自分でセットしました。ツアータイトルが“ガラクタカプセル”だったので、その世界観で小道具を用意しました」
――ライティングで、光の帯を置いているのが印象的です。どんなセットになっているのか教えてもらってもいいですか?
「この場合もそうですが、ストロボと定常光のミックスで撮ることが多いです。メインはストロボにして、このアンバーっぽい光をLEDのアプチャーで作っています。光のラインを置く時にストロボでは見えなかったのですが、アプチャーにすれば仕上がりが読めます。後この写真ではないのですが、定常光のアクセサリー機材が充実してきていろいろな質の光も作りやすくなったのと、カメラの手ぶれ補正も優秀なので、シャッタースピードを遅くしてストロボと定常光をミックスして撮影し、芯を残して“ぶらす”みたいな撮影もよくします」
©藤原宏「鈴木愛理 LIVE PARTY #NLNL EX ~未完ガラクタカプセル~」
「これは角度違いで、脚立に乗って上から撮っています。セットを組んで、それを動かさずにやっています」
――ところで、タレントさんは若いからライカとか知らないですか?
「いや、知っている人は多いですし、何ならライカを持っているアイドルの人も結構たくさんいますよ。いまCCDのオールドデジカメが流行っているんですけれど、写真が好きなタレントさんはそれかコンパクトデジカメのGRを持っている。それで本当に好きな人は男の人だとライカMで、女の人はライカQを持っていることが多いです」
――そういう人だと『あ、ライカだっ!』ってなりますよね?
「はい。『カメラ、ライカなんですね』って興味を持ってもらえることは結構多いです」
――現在お使いのライカをMやQも含め一式お持ちいただきましたが、仕事カメラとしてはライカSLの稼働率がいちばん高いという感じでしょうか?
「仕事用の機材としては、中判デジタルのハッセルブラッド907Xと100Cのセットもあって、繊細な描写をしたいときは使いますが、最近ではほとんど、ライカSL3かSL3-Sで仕事をしています。たとえば海外での撮影で飛行機に乗るとき、怖いので機材は必ず機内持ち込みにしているんです」
――そうすると何台も持っていけないから、カメラを選ぶ必要がありますよね?
「航空会社によって機内持ち込みの重さ制限が7kgとかになったりするじゃないですか。パソコンとバッグで3kgくらいになってしまうので、そうなったときライカSLシリーズは万能ですよね。綺麗にも撮れてオールドレンズ1本プラスして持っておけばラフな雰囲気の画も撮れます」
――おお、しっかり映る現行品のレンズに加えてオールドレンズもお仕事で使っているのですね?
「よくやるのはオールドレンズで絞りをF11くらいにして4mにピントを合わせてパンフォーカスで撮ったりします。この1台でいろんなカメラを持っているみたいにしやすい。ファインダーも綺麗ですよね。オールドレンズにしてもAFのズームレンズでも、ライカSLシリーズのEVFは一番使いやすいです」
――歴代のライカSLシリーズをお使いになってこられて、今はライカSL3とSL3-Sのツートップ体制とお聞きしました。新型のライカSL3-Sで撮られた写真をお見せいただけると嬉しいのですが…。
「ライカSL3-Sを使ってはいるのですが、まだ公開前の素材であったり、許可の問題があったりで今日はお見せできないんです。ごめんなさい」
――そうなのですね。では、許可が出た時点でぜひもういちど取材をさせてください。ライカSL3-Sになって藤原さんの撮影にどんな変化が訪れたのかをお聞きできるのが楽しみです。あと、SLシリーズ以外のライカやオールドレンズのことも知りたいです。
「仕事をする上でライカSL3-SのAFは進化していて本当にすごいと思います。オールドレンズは探していたものを新しく買ったばかりなので、その話もさせてください」
――はい。楽しみにしています。本日はどうもありがとうございました。次回もどうぞよろしくお願いします。
「こちらこそ、どうもありがとうございました」
藤原 宏 / Hiroshi Fujiwaraプロフィール
1986年生まれ、神奈川県相模原市出身。
東京工芸大学写真学科卒業後、スタジオで2年間勤務。
倉本侑磨氏に師事後、2014年PYGMYCOMPANYに所属しフォトグラファーとしての活動を始めた。
女性ファッション誌を中心にグラビア誌やタレント写真集を手がける。
写真集に 日向坂46小坂菜緒『君は誰?』日向坂46上村ひなの『そのままで』乃木坂46『田村真佑 恋に落ちた瞬間』乃木坂46 『五百城茉央 未来の作り方』などがある。