Leica × 遠藤 和孝



様々な分野でプロフェッショナルとして活躍されているライカユーザーの方に、ライカのある日常について語っていただくこの企画。今回は、写真家・遠藤和孝 (kazuend)さんが、ライカカメラを愛用されているとお聞きしまして、お話をお伺いする事になりました。

Interview & text: yoneyamaX




―本日は、よろしくお願いいたします。まずは最初にkazuend(カズエンド) というお名前の所以などをお伺いしたいのですが。

「僕は今年で41歳になるのですが、中学生の頃からインターネットをやっていまして、その時に父親が付けてくれたハンドルネームがkazuendでして、もうこの名前を使って30年近くになります。息子のサッカーの現場でも子供たちからはkazuendと呼ばれますし、親御さんからもそう呼ばれています。僕は海外に住んでいたこともあるのでendoではなく、endという表記が気に入っています。カタカナで書く場合もあります」

―それでは、写真についてお伺いしますが、写真を撮るようになったきっかけや経緯などを教えてください。

「僕は25歳までアルゼンチンやメキシコで、サッカープレーヤーとして活動をし、ケガもあって日本に帰ってきました。その時期はちょうどスマートフォンが出はじめた頃で、僕もそれに関係するWEBメディアの運営に携わる事になりました。そこでライターとして取材に行ったり写真を撮ったりすることになったのが、撮影をはじめたきっかけです。最初は見よう見まねでどうやったら綺麗に撮れるのか色々と考えました。それからだんだん写真を撮るようになり、プライベートでも撮影をするようになりました。そこから自分の作品というものを意識して撮っていったという感じですね」





―最初のカメラは、どのようなものだったのでしょうか?

「名前はわからないのですが、友人が持っていたカメラを借りてお花見で写真を撮ったら、写真を知らない僕でもこんなに綺麗に撮れるんだと驚いたのが第一印象でした。それにより自分のカメラが欲しくなり、国産メーカーのエントリー機を買ってそこから、僕の写真人生がスタートしました。少しさかのぼって思い出せば、15歳くらいの時にイギリスへ短期留学したことがあるのですが、その時に父親が「これで撮ってきなさい」と良いカメラを貸してくれたことがあって、それがなんとコンタックスのT2だったのです。後で父親に聞いたのですが「もう売っちゃったよ」と。今あったら使ってみたいカメラですね」

―写真の魅力や面白さとはどのようなものでしょうか?

「写真をはじめた頃はなんでもすごく綺麗に撮るという事が重要だったのですが、今は全然違ってきていて、写真を見返す楽しみというか、何年か経った時に振り返って見ると湧き出てくる感情が個人的にはすごい魅力なんです。一枚の写真からは、決して多くの情報量は得られないのですが、それを見ているとその時の情景など色々なことを思い出しますよね。これが一番の魅力だと思います。この写真を見てください。コロナ禍の作品ですので忘れ去られているような状況の写真なのですが、あの時を振り返った時に、コロナって大変だったよなって色々と思い出しますよね。家のTVモニターで子供の成長期なんかをスライドショーで見ながら晩酌するのも本当に幸せです」




©kazuend



―ところで、kazuendさんが気になる写真家はいらっしゃいますか?

「はい、4人ほどいます。まずは藤木ケンタさんです。彼とはメディアの仕事をしている時に知り合ったのですが、世界中を旅しながら撮影をし、個展を開いたり写真集を作ったりしている方で、作品も素晴らしいので、何枚か購入して部屋にも飾っています。とても影響を受けた写真家です。2人目は、元々は草サッカー仲間でもある夏井瞬さんです。まずは波を被写体にするんだというところから、しかもM型ライカと海に入って撮っていると聞いて僕には想像もできないことをやっている写真家だと思いました。ましてや、それが自分の身近な存在であったことも驚きでした。ライカの話もよくするようになりました。そして3人目、4人目はYouTubeでも活躍されている方ですが、ジェットダイスケさんと西田航さんです。僕も写真のスタートはメディアですので、この二人の発信力は本当にすごいと感じますし、写真家としても素晴らしい作品を発表しているのでかなり影響を受けています」

―仕事・またはそれ以外で、撮影されているものとはどのようなものですか?

「仕事で撮影しているものは商業撮影で、物撮りもしますし、アパレルやスポーツ写真が多いですね。仕事以外で言うと、息子のサッカーの写真も良く撮りますし、やはり家族写真やスナップが多いです。このような写真ですね」




©kazuend



「以下はM型でモデルを撮ったアパレルのファッション撮影です」




©kazuend




©kazuend



「風景撮影も好きで、以前、もっと自由に動けていた時期には星を撮ったりもしていましたし、毎年長岡の花火撮影にも出かけていました」

―その中でお好きな被写体とはどのようなものなのでしょうか?

「一枚一枚狙って撮るというよりも、ほぼノーファインダーでいいので、さくさくジャンジャン撮っていってその中から出てくる画を見て感動することが好きなんですね。人物の撮影でも、人だけでなく、その周りの風景というか情景が写っている写真が好きです。以下の写真は少し前に息子のサッカークラブの帰りに出会った一風景を撮影したものです。駄菓子屋があって店主やおばあさんがいて、いつの時代のモノクロ写真なのかと思わせる作品なのですが、その中にMITOMAのユニフォームも写っているので、過去と現代が入り混じっているような感覚で、僕の中ではわっと驚きがありました。この作品はノーファインダー、ノートリミングで撮ったものですが、こういう写真が好きなんです」




©kazuend



―ライカっぽい写真ですよね。kazuendさんの中で、何か特別な写真の撮り方やコツなどがありましたらお教えください。

「今日、僕が持っているこの2台のカメラ(ライカM11とSL3)は、両方とも6000万画素の高画素のカメラなので、あえてトリミング前提でバンバン撮っていくという感じなんです。トリミングについては、それぞれのご意見もあるでしょうし、デメリットに感じる方もいるでしょう。でも僕は一切気にせず6000万画像でどんどん撮ってどんどんトリミングしていきます。僕はこのMレンズのズミクロン28mmが好きなのでよく使うのですが、絞りをF8にして、ピントの指あてを真下にセットします。そうすると被写界深度が0.8m~3m弱くらいになりますので、その間に人物を入れて構図も決めないでどんどん撮っていきます。こんなポートレート撮影をよくしています。個人的にはF8が好きですし、ピントの指あてが真下というのはわかりやすくていいんです。ライカを買った人にはこの方法を教えています。このように何かしばりを決めてから撮影するのも面白い方法だと思います。例えば、モノクロしばり、開放しばり、F16しばり、レンズしばり等々がありますが、その日に何か決めて撮影に臨むのも時には良いと思います」




©kazuend




©kazuend



―今回の作品で印象に残る写真をお選びいただき、そのご説明をお願いします。

「まずは日本を代表するサッカー選手、西川周作選手のJ1での600試合目を祝うサポーターの方々の写真です。彼が所属しているクラブがJリーグでも屈指のサポーターのクラブ・浦和レッズでして、コールリーダーの方がよく見るとこの中にいるんです。この場面は選手が入場している時の観客のシーンなのですが、この日は特別にコールリーダーの呼びかけで観客4万人が一斉に立ち上がって腕を振り声を上げて応援していたので、その時はもうその感動で鳥肌が立ちました。もちろん西川選手本人の写真も考えたのですが、このサポーター達がいてこそ600試合目を迎えられたのではないかと思い、そんなシーンを選んだ一枚です」




©kazuend



「ライカSL3にバリオ・エルマーSL 100-400mmのズームレンズを使って撮影した一枚なのですが、これでもトリミングをしています。このデータを見た時にはびっくりしまして、さすがライカレンズ使用での6000万画素、かなり拡大しても解像しているんです。この試合では。サポーターの写真を何枚か撮ったのですが、やはりこの写真が一番でした。そう、西川選手もライカのいいカメラを使っているんですよ。ライカ使いのサッカー選手も多いですよね」

―それでは、最近の写真で皆さんにぜひ見ていただきたい作品をご紹介ください。


 「まずは以下の写真です。WEBでの仕事の写真なんですが、どう撮ろうかなと思って、二人のモデルさんにカートに腰掛けてくださいとお願いしてファインダー越しに見た時、すでにこれは絶対いい写真だとわかったので、もう数枚しか撮りませんでした。これはバランスも良くとても気に入っている写真です。カメラはライカSL3で、24-70mmのズームを付けて撮りました」




©kazuend



―他には何かございますか?


 「はい。僕の写真活動では絶対に外せない一枚がありますので、せひ紹介させてください。この写真です」




©kazuend



―これは男性のポートレートですが、何か背景があるのでしょうか?


 「ライカの魅力という事で、皆さんもよくおっしゃっているのですが、ライカには人を繋ぐ力があると思います。この写真は、ある企業から式典の撮影を頼まれて色々と撮っていた中の一枚です。ここに写っている社長はアートの分野にも長けている方で、僕がライカを使っていることを見つけて色々と話がはじまり、一気にふたりの距離が縮まってリラックスして撮影できるようになったのです。それにより良い写真もたくさん納品できました。この写真はそんなふうに距離が縮まった後、何気なく捉えた一枚なんです。社長とは後日、あらためてお話をする機会をいただき、色々なお仕事も紹介していただきました。コロナ禍の中で、写真家としてどう活動していこうかと悩んでいた時に、ライカを使っていたからこそ引き寄せてくれた縁だったのですね。僕の写真活動が続けられているのもこの一枚があったからです。この写真は式典が終わってから、夕日の中で、社屋をバックに社長が清々しく立っているところを撮らせてもらった一枚なんですが、この写真をお渡ししたところ、社長もとても気に入ってくださり、会社のホームページでも使っていただきました。繰り返しますが、この写真は僕にとってはとても大切な一枚で、この写真がなかったら、他の写真もなかったと思います」

―それは確かに大切な一枚ですね。次に、最初のライカと、そのライカを手にしたきっかけをお教えください。

「以前は大きな一眼レフを使っていたのですが、結婚した頃に何か軽いカメラはないかと探していました。そこで手頃なレンズ一体型の小型の国産カメラを見つけたので、購入して使っていました。しかしながら、どこか頭の奥でライカという存在があったのでしょう。カメラのことを色々と調べていくうちに、ライカQが出るという情報を得てからは、それが気になって仕方がなくなり、2015年に思い切って購入しました。このカメラ、コンパクトなのに出てくる画はとんでもなく良いものでした。現場ではカメラは大きくて無骨の方が、クライアントには認められやすいのですが、このコンパクトカメラの方が画像はいいのになというジレンマがありました。はじめはライカQでオートフォーカスを使っていたのですが、そのうちに気がついたらマニュアルフォーカスを使っていました。もう僕の中では、ずっと気になっていたM型ライカの練習を勝手にしていたんです。そして2022年にライカM11が出たので、アポ・ズミクロンM 50mmレンズと一緒に購入しました」

―となると、現在お使いのライカはどのようなラインナップになりますか?

「現在は、ライカSL3、ライカM11、ライカM11-P、ライカゾフォート2などを使っています。ライカM11-Pにはコンテンツクレデンシャル機能が入っているので、すごく気に入っています。今後活動していく上で、これは自分が撮った作品だということをきちんと残していきたいんです。この機能がライカSL3にも入れば良いのですが」





―それでは、ライカの魅力というものをお教えいただけませんか?


 「先ほども触れましたが、ひと言でいうと「人を繋ぐ」ということです。下世話な話かも知れませんが、仕事を取ってきてくれるカメラなんです。それがあるだけで写真活動を続けていけますし、僕がライカを使っている意味でもあります。そして次の魅力は、コンパクトでありながらも高解像度であるということですね。カメラである以上、とても大切なことだと思います。そして僕は、ライカは一種のスポーツだと思っています。それはどういう意味かというと、語弊があるかも知れませんが、ライカはすべてが撮れるカメラではないと思うんです。苦手なものも多いのです。例えばM型ですと被写体を選びますし、簡単には撮りにくいんですね。でも撮り方はあるし、練習をすればちゃんと撮れるカメラなんです。ライカというスポーツをしている感覚で撮っていくんです。僕は子供のサッカーもM型でバンバン撮りますし、それが楽しいんですね。練習を重ねて、ライカというスポーツを味わいながら楽しむ魅力がライカにはあると思います」





―ライカに関して何かエピソードがあればお聞かせください。

「先日、妻と洒落たカフェに行ったときに僕のライカを見つけた店員さんが「ライカですね」とおっしゃったのですが、以前、国産カメラを使っている時に言われたことは一度もありませんでした。この「ライカをお使いなんですね」という心地の良い言葉を耳にすることが多くなりました。そこから僕の写真を見せたりして繋がりが広がるんですね。これは僕にとってすごく楽しいことです」

―これから写真をやって行く方にアドバイスをいただけませんか?

「撮った写真は消さないで、と言いたいです。フィルムカメラではできなかった事ですが、最近スマートフォンの影響か写真をどんどん消す人がいるのです。失敗した写真であろうと消したらそれでおしまいです。どのような写真であろうと、何年か経って見返したときには感情が蘇ってくるものなんです。写真は必ず思い出に残りますので、とにかく消さないでと言いたいです。今のライカに専用のゴミ箱ボタンがないのはすごく良いと思いますよ」

―今後、やっていきたいお仕事は何かありますか?

「すでに決まっている仕事ですが、この8月から誰もが知っているサッカー界のスーパ―スターを追う写真を撮っていく予定でして、その選手でまとめた一冊の写真集を作りたいと思っています。これは、僕の写真活動の中でも大作になると思いますので、頑張っていきたいです。それが個展にでもつながればいいですね」

―何かこの場で告知したい事があればどうぞ。

「特にないのですが、kazuend/カズエンドという名でインスタグラムをやっていますので、こちらも是非ご覧になってください。それから、僕はゾフォート2のプリントをスマートフォンのケースに入れて、時々差し換えて楽しんでいるのですが、これは皆さんにもお勧めしたい方法ですね」







―ゾフォート2のプリントは色々と楽しめますよね。今日は楽しいお話を、有難うござ いました。ライカで撮ったサッカー界のスーパースターの写真、楽しみにしていますね。




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遠藤 和孝 / Kazutaka Endo(kazuend)プロフィール

1983年生まれ。 幼少の頃よりサッカーを愛し、アルゼンチン・メキシコでのプレー経験を持つ。 引退後は、Webメディアの創業メンバーとして運営に携わり、写真と出会う。 会社上場に伴い退職し、現在はアスリート、アパレルなど幅広く撮影。 Leicaとの出会いはライカQ。ライカM11ーP、SL3を愛用。

ホームページ kazuend.jp

Instagram @kazuend