Mレンズの実力
LEICA SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH.
From Leica Style Magazine Vol. 14
人間の視角に近い標準レンズは、見たままの光景を写し取るのに最適。このレンズは質感再現に優れた写りをしてくれる。
ライカM (Typ 240)・f1.4・1/4000秒・ISO 200・WBオート・RAW
LEICA SUMMILUX-M f1.4/50mm ASPH.
甘美なボケ感を堪能
フォトグラファー 河田一規
M型ライカ用の初代ズミルックス50mmは1959年に登場、そして約2年後の1961年に光学系を変更した第2世代が登場する。その後、鏡胴デザインのリニューアルや最短撮影距離の変更などはあったものの、約43年間も基本的に同じ光学系を貫き通し、2004年に満を持して登場したのが現行ズミルックス M f1.4/50mm ASPH.だ。
数十年ぶりにモデルチェンジされただけあって、このレンズには数々のテクノロジーが惜しみなく投入されている。そのひとつが非球面レンズの採用だ。非球面レンズを搭載したレンズは以前から数多くあるけれど、そのほとんどが広角系レンズであり、f1.4/50mmという標準レンズへの採用は珍しい。ライカは昔から非球面レンズの採用に積極的で、1966年には世界で初めて非球面レンズを搭載したノクティルックス f1.2/50mmを登場させているわけだが、このことからしても非球面技術が50mmレンズという標準画角にもたらす光学的な恩恵の大きさを、どのメーカーよりも深く理解しているのかも知れない。
もうひとつの光学的特長は最後群の1群2枚をフローティング作動させることで、近距離撮影時の収差を大幅に低減させていることだ。ピント合わせ時に全体繰り出しとは別に最後群の1群2枚だけが独自に位置移動するわけだが、これらはダブルヘリコイドで制御される。最近のAFレンズでは電気で作動するアクチュエーターを動力としてフローティングを行っているものもあるが、本レンズの場合は超精密なメカ制御であり、そこには機械式腕時計にも通じるメカニズム的な素晴らしさを強く感じる。
描写はまさに「繊細」のひとこと。合焦部は驚くほどシャープでありながら、決して硬くはならないし、ボケ味はどこまでも優しく甘美で大口径レンズならでのアウトフォーカス描写を充分に堪能できる。
このレンズを設計したのはライカカメラ社で光学設計部門の責任者を務めるピーター・カルベ氏。自らも写真撮影を行う技術者だが、やはり写真好きが設計したレンズは素晴らしい。単にシャープさや解像感だけを求めるのではなく、それらを高レベルで実現した上にライカレンズらしい「ボケ」の美しさを叶えているのだ。
ライカM (Typ 240)・f8・1/3000秒・ISO 3200・WBオート・RAW
ところで、f1.4/50mmというスペックのレンズは、一眼レフの世界ではもっとも定番的な標準レンズなので、一眼レフ用なら使ったことがあるという人も多いだろう。しかし、フランジバックの短いレンジファインダー用のf1.4/50mmは、一眼レフ用とは描写傾向が大きく異なり、特に絞り開放気味で撮影したときの像の立ち上がり方や立体感は独特のものがある。M型ライカユーザーならば、この一眼レフ用f1.4/50mmとの違いをぜひ体験して欲しい。強力な立体感の演出にきっと驚くはずだ。
F1.4/50mm レンズの歴史に残る傑作
絞り開放でも最短撮影距離でも高コントラスト・高解像度に描写する性能。その秘密は、フローティングエレメント、特殊な屈折率を有するレンズ、非球面レンズといった数々の技法にある。これらの特質は、最も自然な画角をもつハンディな万能タイプの50mm標準レンズが望まれるあらゆる撮影に適している。さらに、自然光撮影や被写界深度を浅くする撮影のほか、美術品撮影にも対応可能だ。
絞り開放でも画面のかなり周辺近くまで良好な解像を得られる。絞り開放から画面全体の均質感を上げるのは大口径レンズでは難しいことだが、このレンズはかなり成功している。
※ズミルックスM f1.4/50mm ASPH. は現在新しいバージョンを取り扱っております。
テクニカルデータを含む詳細はこちらよりご確認ください。
ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.<new> ブラック
ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.<new>シルバー
TECHNICAL DATA ライカ ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.
画角
画角(対角線、水平、垂直) | 35mm判(24×36mm) 47 °、40 °、27 °(35mm 判換算で約67mm) |
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光学系
レンズ構成 | 5群8枚 |
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非球面レンズ | 1枚 |
入射瞳位置(第1面からの距離) | 25.7mm |
撮影設定
撮影距離 | 0.7 〜 ∞ |
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目盛り | メートル及びフィート表示 |
最短撮影範囲/最大撮影倍率 | 35mm判 約271×407mm / 1:11.3 |
絞り
設定方式 | クリックストップにより設定 (1/2 ステップ) |
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最小絞り | F16 |
絞り枚数 | 9枚 |
その他
レンズマウント | すばやい着脱が可能なライカMバヨネット、デジタルMカメラ識別用6ビット・コード付き |
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フィルターマウント | 内側にねじ込み式フィルター用のねじ、非回転式 、フィルターサイズ E46 |
レンズフード | ねじ込み式 (付属) |
本体仕上げ | ブラックアルマイト仕上げ |
寸法・質量
先端からバヨネットフランジまでの長さ | 約 52.5mm(レンズフード装着時) |
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最大径 | 約 53.5mm |
質量 | 約 335g |
フォトグラファー 河田 一規 (かわだ かずのり)
1961年横浜市生まれ。
小学3年生の頃、父親の二眼レフを持ち出し写真に目覚める。
10年間の会社勤めの後、写真家、齋藤康一氏に師事し、4年間の助手生活を経てフリーに。
雑誌等の人物撮影、カメラ雑誌での新機種インプレッション記事やハウツー記事の執筆、カメラ教室の講師等を担当している。