Mレンズの実力

LEICA APO-SUMMICRON-M f2.0/75mm ASPH.

From Leica Style Magazine Vol. 18

75mmという焦点距離は、これだけ引きの構図でも絞りを開ければボケを活かした立体感のある描写にできる。
ライカM (Typ 240)・f2.0・1/1000秒・ISO 200・WBオート・RAW


LEICA APO-SUMMICRON-M f2.0/75mm ASPH.
表現を広げてくれる絶妙な画角

フォトグラファー 河田一規


M型ライカ用の75mmレンズといえば1980年に登場したズミルックスM f1.4/75mmが長らくラインナップされていたが、2005年に製造が終了。それと入れ替わるように登場したのが今回試用したアポ・ズミクロンM f2/75mm ASPH.である。

製造が終了したズミルックス75mmは自分も愛用しているが、絞り開放時の独特な柔らかさを持った描写から、絞り込むほどシャープさがぐんぐんと加速していくという性格なのに対し、アポ・ズミクロン75mmは絞り開放からすでにシャープかつキレのいい写りを見せてくれるのが特徴だ。光学系は5群7枚構成で、フォーカシングは全体繰り出し式だが、フォーカス位置に応じて最後群の1群2枚のみが独自の動きをするフローティング機構付き。これにより、無限遠に比べて画質が落ちやすい最短撮影距離付近でも高い解像性能を実現している。レンズ名に「アポ」が付いていることからも分かるとおり、一部のレンズに異常分散ガラスを採用することで色収差もかなり良好に補正されている。

実際に使ってみると、75mmという焦点距離がM型ライカにとっては非常に「絶妙」であることが分かる。M型ライカ用中望遠レンズは昔から90mmが王道的な存在として認められてきたが、ご存じの通りレンズの焦点距離に関係なく常にファインダー倍率が一定のM型ライカでは、90mmレンズだと視野枠が小さすぎ、人によっては使いにくいと感じるはず。ところが75mmレンズであれば、それほど視野枠は小さくないので、レンジファインダーが十分に実用的になる。ボディがライカM (Typ240)の場合、90mmレンズを装着したときはどうしてもライブビューに切り替えたくなるが、75mmならレンジファインダーのままで撮影しようという気になるのだ。



ライカM・f2.0・1/1000秒・ISO 200・WBオート・RAW


また、75mmという焦点距離で得られる画角もかなり奥深い。焦点距離的には中望遠ということになるが、体感的には「望遠というよりは画角の狭い標準レンズ」という印象で、90mmに比べると被写体を選ばず何でも撮れる。もちろん、90mmに比べると引き寄せ効果や、前景と背景の距離感が圧縮される効果は控えめなのだが、それと引き替えに得られるこのオールマイティさは絶大な魅力だ。従来あったズミルックス75mmに比べると開放f値は1段暗いが、鏡胴はそのぶん小型軽量に作られているので携帯性がよく、ずっと持ち出しやすい。また、絞り開放時のピント合わせもズミルックス75mmほどシビアではなく、より気軽に使えるのもいい。




高性能な大口径短望遠

アポクロマートレンズと非球面レンズを採用することで、少ないレンズ枚数で各種収差を効果的に低減している。さらに最後群をフローティングとすることで、撮影距離に関係なく高画質を維持している。75㎜という焦点距離はスナップからポートレート、風景まで幅広く適応する。

絞り開放からハイレベルな解像性能。絞り値を問わず、周辺部での画質乱れがほとんど起こらないことも驚きだ。


ライカ アポ・ズミクロンM f2.0/75mm ASPH.
ブラック




TECHNICAL DATA アポ・ズミクロンM f2.0/75mm ASPH.

画角

画角(対角線、水平、垂直) 35mm判(24×36mm)  32°、27°、18°

光学系

レンズ構成 5群 7枚
非球面レンズ 1枚
入射瞳位置(第1面からの距離) 30.1mm

撮影設定

撮影距離 0.7〜∞
目盛り メートル及びフィート表示
最短撮影範囲/最大撮影倍率 35mm判  約169×257mm / 1:7

絞り

設定方式 クリックストップにより設定(1/2 ステップ)
最小絞り F16
絞り枚数 9枚

その他

レンズマウント ライカMバヨネット、デジタルMカメラ識別用6ビット・コード付き
フィルターマウント 内側にねじ込み式フィルター用のねじ、非回転式 、フィルターサイズ E49
本体仕上げ ブラッククローム仕上げ

寸法・質量

先端からバヨネットフランジまでの長さ 約 66.8mm
最大径 約 58mm
重量 約 430g

フォトグラファー 河田 一規 (かわだ かずのり)

1961年横浜市生まれ。
小学3年生の頃、父親の二眼レフを持ち出し写真に目覚める。
10年間の会社勤めの後、写真家、齋藤康一氏に師事し、4年間の助手生活を経てフリーに。
雑誌等の人物撮影、カメラ雑誌での新機種インプレッション記事やハウツー記事の執筆、カメラ教室の講師等を担当している。