My Leica Story
ー コハラタケル ー




ライカギャラリー東京およびライカギャラリー京都では、コハラタケル写真展「撮縁(さつえん)」を開催中(会期は2023年8月27日まで)。
本写真展では、日常の世界観とリンクしたポートレート、そしてソーシャルメディアやウェブでの発信から著名作家の書籍カバーまで手掛ける写真家 コハラタケルさんが、新製品「ライカQ3」で撮り下ろしたスナップおよびポートレート作品(ライカギャラリー東京14点・ライカギャラリー京都15点)を展示しています。そこで作品制作とライカとの関係や、ライカQ3の使い心地についてお話をうかがいました。

text: ガンダーラ井上




――本日は、お忙しいところありがとうございます。今回の展示は発売されたばかりの新製品ライカQ3で撮り下ろされたとのことですが、コハラさんがライカを使い始めたのはいつ頃からでしょうか?

「僕の最初のライカは、実はライカQ2だったのです」

――前機種のライカQ2が発売されたのは2019年ですが、ライカを選んだ理由は?

「ライカを使い始める人たちって、ドラマがある人が多いなという印象があります。そこに行き着くまでの皆さんのエピソードが格好いいですよね。でも僕にはそういうのが全然なくて、ライカを使うのは60歳を超えた先のことかなと思っていました」

――いろいろなカメラ遍歴を経て、最終的に到達するブランドという印象だったのですね。でも、それよりも随分と早いタイミングでライカを使われるようになりました。どのような動機だったのでしょう?


「それまでメインで使用していたカメラは、動き回りながら撮ることも多かったのでAPS-Cフォーマットのミラーレス機でした。とはいえ仕事の撮影で使う場合、例えば暗部を持ち上げた際のノイズの出方などに微妙な部分あり、やっぱりフルサイズが欲しいという思いがありました」



仕事用のカメラとして選ばれたライカ


――仕事用のフルサイズカメラということであれば、国産メーカーから選ぶというのがプロの方々の一般的な行動パターンだと思います。コハラさんはそうされず、フルサイズですが28mmの広角レンズを固定装着したコンパクトカメラであるライカQ2を選んだのですね。

「もちろん国産メーカーも検討しましたが、ギリギリまで揺れ動いてライカQ2にしました。APS-Cフォーマット機を選んだ時もそうでしたが、決め手はボディの見た目でした」

――おお、それはスペック表で比較検討することのできない要素ですね。


「自分にとって結局はデザインの良さがすごく重要だったのです。仕事であれば正確に早く撮れてどんなシーンでもタフに対応できるカメラを買った方がいいのは頭の中ではわかっています。でも、何よりデザインがいい方がいいなと」



スペック表に出てこないライカの良さ


――オンラインでの発表会でも、ライカのデザインの良さに触れられていましたね。

「一般の人が見ても、写真を撮っている人が見ても、何か心惹かれるデザインがライカのボディとレンズにはあります。このカメラを持っている自分を想像するのが何かワクワクするとか、日常的に持っていたい、使ってみたいという気持ちにさせてくれるのがライカのデザインだと思います。とにかく僕はほぼ毎日カメラを持ち歩くので、そこが大きいのです」

――確かに、プロ仕様の高機能な国産システムカメラの見た目や大きさは、ちょっと散歩に行くから持って行こう。という気持ちにはさせてくれないですね。

「仕事に振り切れたほうが本当はいいと思うのですが、どうしても趣味で撮っている感覚と仕事での撮影の中間ぐらいを行けたらいいかなという思いがあって、ライカQ2を買いました」

――その後、ライカQシリーズだけでなくライカSLシステムとライカMシステムも使うようになったとお聞きしています。


「ライカQ2を使い始めてからはすっかりライカの魅力にハマってしまいました。すぐにライカM10-Rも購入し、その後、ライカSL2も購入しました。ライカSL2に関しては人物撮影するならそれほど画素数はいらないと考えてライカSL2-Sに変更しました。ライカM10-Rに関してはテザー撮影を優先してライカM11に変更しました。機材を買う場合の基準としては、基本的には仕事ベースなんです。仕事で使えるかどうかが基準になります」


――ライカM11は、マニュアルフォーカス専用のレンジファインダー機です。実戦投入されていると、何もかもこれだけで撮るにはちょっと厳しいなというシチュエーションもありますか?

「ライカM11は大好きなのですけれど、スピード感を求められる現場ではもどかしい部分もありますね。1台のカメラで対応するという意味で言えば、ライカQ3で理想的な撮影のテンポにかなり近づけたという手応えはあります」



ライカQ3の使い心地


――では、ライカQ3で撮影された展示中の作品を具体的に見ていきましょう。これは相当なハイアングルですが、およそ2mの高さから撮られたそうですね。


©Takeru Kohara


「ちょうど手を伸ばしてカメラにギリギリで届く高さで、ピントは人物のところに置いてあとはインターバルで撮影しました。ライカQ3はチルト式の液晶パネルになったということで最初からこの発想はありました。このように、手持ちだけでなく三脚を使った撮影など幅広い状況に対応できます」

――ケーブルレリーズではなく、インターバル撮影というのが新鮮です。

「僕はセルフポートレートを撮っていた時にインターバルでセットしていたので、馴染みのある撮影方法ではあります」

――ライカQ3のシャッターボタンにはネジが切ってありますが、あれはドレスアップパーツのレリーズボタン専用のようです。お持ちのレリーズは無駄になったのですね。

「用意したケーブルレリーズは、ライカM11で使っていますから大丈夫です(笑)」


© Sudo Kazuya© Sudo Kazuya© Sudo K©Takeru Kohara


――この写真の表現力に驚きました。ふわふわした犬の触感が伝わってくるようです。自然光で真上からのアングルですね。



絞り込んでも硬くならない描写


「そうです。意図的ではなかったのですがf16まで絞っているにも関わらず、この柔らかさが出るという描写は、ライカQ3がライカQ2から大きく変わった部分だと思います」

――ピントを深くしようとして絞る。そうすると一般的には描写も硬くなっていく傾向があります。

「そうです。ライカQ3は60MPもの高画素センサーになると聞いた時から画が硬くなってしまうんだろうなと思っていました。仕事で数本、他メーカーの新しいレンズを使ったことがあったのですが、確かにキレイだけれどちょっとカリカリした描写になってしまうというか、高画素機に合わせようとしてディテールを細かく見せるとなると、そのぶんオールドレンズに見られるような柔らかさは失われて行くのかなと思ったのです」


――過剰なまでに写りすぎた、硬い調子の写真が多いということですね。

「僕自身の好みとしては、仕事で人物撮影をメインとしていることもあり、
柔らかいほうがいいと思っています。そこを心配していたのですが、絞り込んでも柔らかさが残っているのは驚いた部分です。全く同じシチェーションでライカQ2とライカQ3で撮り比べてみたら、全然違う印象の描写になりました」


――この写真、犬の毛並みを感じます。

「手の質感と、あとは毛並みですよね」



絞りのセッティングは、開放に頼りきらない


――絞りを、開放で撮られる頻度はどのくらいでしょう?

「ぼけた表現というのは非現実的に見せることができるのでフォトジェニックで、ぱっと見た瞬間にキレイだなと思わせる雰囲気は出せるとは思いますが、写真は背景の情報込みで作るものだと思っています。やはり全部を見せたうえでの非現実性やフォトジェニックさが保たれている写真の方が僕は好きですね。そこは自分のこだわりでもあります」


© Sudo Kazuya© Sudo Kazuya© Sudo K©Takeru Kohara


「今回の展示で、このカットだけが唯一絞り開放で撮っています。暗所ではどうしてもISOを上げなければならないし、開放にしないと光量が足りなくなりますよね。それでもボケが強い雰囲気にしたくないと思っていて、ライカQ3であればこれくらいの距離感なら壁までも近いので開放にしつつも背景をちゃんと見せてくれるというのが好きなポイントです。もちろん50mmや75mm相当の画角にクロップして、背景からメインの被写体まである程度の距離をとればボケ感のある写真も作れます」



絞り開放でも優れた質感の描写をするレンズ


――光量の少ない室内のシチュエーションですが、衣服の布地や肌の質感が繊細に表現されていますね。

「ハイライトの出方が美しいと思っています。ライカQ3の画作りは単純にハイライトが強いのではなく、強いところはしっかり強く残しつつもなだらかな部分の階調も出ている描写になっていると思います」



クリップオンフラッシュで撮る



©Takeru Kohara


――この写真は、まるで往年のコンパクトカメラで内蔵フラッシュを焚いたような質感が印象的です。

「ライカQ3で、いろいろなタイプの写真を撮ることができることを伝えたいという思いで撮った写真です。クリップオンのフラッシュを使ってスナップしています」

――ちなみに、フラッシュはライカ純正でしょうか?

「製造が終了して随分と時間の経ったライカSF20という外付けフラッシュを使っています。コンパクトなのにチャージも早く、光の回り方が独特なので大好きですね。デザインもライカQ3と統一感があります」

――製造された年代に開きがあっても、カメラとフラッシュを組み合わせた際の違和感がない。この一貫性がライカのデザイン流儀ですね。



クローズアップの領域も手軽に撮れる



©Takeru Kohara


――こちらは、落ち着いた雰囲気の静物画です。マクロ域での撮影でしょうか?

「マクロに入れるギリギリのところだったかもしれません。この写真ではあまりクロップしていませんが、90mm相当のクロップで撮るマクロは楽しいですね。ライカQ3であれば、それが1台でできてしまうのが一般のユーザーにも魅力的な部分だと思います」



仕事でのライカ、これからのライカ


――では、仕事目線でのライカQ3の評価ポイントは?

「プロ視点では撮影しながらモニターで確認できるテザー撮影に対応していることに加えて、DNGの記録サイズが画質の劣化なしに変更できるのもメリットとして大きいです」

――ライカM11で搭載された、60MP/36MP/18MPから選べるトリプルレゾリューションテクノロジーがライカQ3にも搭載されています。

「人物撮影をして、最終的に出す媒体が印刷したとしてもA4かA3サイズなら36Mにしてデータ量を抑えることができます。
本当にまだこれからではあるのですが、僕としてはなるべくライカQ3だけで仕事をやっていけたらいいなと思っています」


――これからのライカに期待することがあれば教えてください。

「M型ライカの二重像をあわせてピント操作する撮影体験は、他のカメラではなかなか得られないものです。そこはもちろん残しておいて欲しいのですが、夢としてはあのライカM型のボディとレンズでオートフォーカスを使ってバンバン撮りたいなぁと。ライカが好きな人たちに怒られそうですけれど、ぜひ作って欲しいです(笑)」

――現在のライカMシステムのサイズ感を保ったままオートフォーカス化するのは技術的なハードルがかなり高いのではないかと思います。その要望に対する一つの回答がライカQシリーズであるとも解釈できそうです。


「あとは、ライカQシリーズの50mmレンズ版ですね。28mmともう1台は50mmの2台持ちで。そうしたら夢が広がります」

――違う焦点距離のレンズが固定装着されたカメラが2台あれば、持ち替えた時点で自分の視点の切り替えが明確になりそうです。

「そうなんですよ。切り替えって結構難しいじゃないですか。28mmと50mmの両方を使う場合、構図の切り撮り方が難しくなってくるんですよね。そういう場合に2台あれば意識の切り替えができます」

――その2台があれば、たいがいの仕事がこなせてしまえそうですか?

「現在、僕がやっている仕事の範囲であれば、十分可能です。
だから、ライカQシリーズの50mmレンズバージョンは、僕にとって夢のアイテムですね」


――コハラさんの熱いご意見がこの記事経由でドイツに伝わり、もしかしたら製品として世の中に出てくる日が来るかもしれませんね。本日はコハラさんならではの視点からのお話がたくさん聞けて楽しかったです。どうもありがとうございました

「こちらこそ、ありがとうございました」




写真展 概要

タイトル: 撮縁(さつえん)
期間  : 2023年5月27日(土)- 8月27日(日)
会場  : ライカギャラリー東京 (ライカ銀座店2F)
      東京都中央区銀座6-4-1 2F Tel. 03-6215-7070
    : ライカギャラリー京都 (ライカ京都店2F)
      京都府京都市東山区祇園町南側570-120 2F Tel. 075-532-0320
展示内容: コハラタケルによる「ライカQ3」での撮りおろしスナップおよびポートレート作品
      ライカギャラリー東京:14点 / ライカギャラリー京都:15点

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コハラタケル / Takeru Kohara プロフィール

1984年生まれ、長崎県出身。建築業を経てフリーランスのライターとして経験を積み、その後フォトグラファーに転身。
#なんでもないただの道が好き を発案するなど、日常の世界観とリンクしたエモーショナルでチャーミングなポートレートでも知られる。 SNSを含むweb媒体での広告写真を中心に活動する傍ら、山本文緒 『自転しながら公転する』や、島本理生 『あなたの愛人の名前は』(文庫版)など、書籍カバーにも写真が採用されている。

https://www.instagram.com/takerukohara_sono1