My Leica Story
ー 西田 航 ー



ライカプロフェッショナルストア東京では、写真家西田航さんの写真展“GAZE”を開催中(会期は2023年8月29日まで)。
本写真展では、被写体を建築物や自然の風景などに絞り込み、そこに存在する様々な表情を浮き立たせた“GAZE”というテーマで展開される作品15点を展示しています。これらの作品を撮影するのに使用されたのはライカMシステムとのこと。そこで作品制作とライカとの関係や、ライカのボディとレンズの印象についてお話をうかがいました。

text: ガンダーラ井上




――本日は、お忙しいところありがとうございます。今回の写真展のタイトルに加え、写真集でも使用されている“GAZE”というタイトルについて教えてください。

「“GAZE”とは、視点とか視線という意味の英語です。私が生きていることの延長線上に“見つめる”という行為があり、それを“GAZE”という言葉に置き換えています。2年半ほど前に“GAZE“というテーマで撮影を始めて、3ヶ月に1冊のペースで写真集の形で展開し、現在ではvol.8まで発刊しています」

――その写真集と連動するかたちで今回の展示も行われているのですね?

「vol.8に関しては、すべてライカで撮り下ろして、アスペクト比も2:3で構成するというコンセプトで制作しました。カメラはカラー作品に関してはライカM11で、モノクローム作品はライカM10モノクロームを使って撮影しました」

今回の撮影に使ったM型ライカ2機種


――ライカM11は60M、ライカM10モノクロームは40Mのイメージセンサーを搭載することでディテールまで高精細に再現できるモデルですね。レンズに関しては、アポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH. とアポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH. を主力で使われたとお聞きしています。

「それに加えて広さが必要であればエルマリートM f2.8/28mm ASPH. を、暗い環境ではズミルックスM f1.4/35mm ASPH. で少しシャッター速度をかせぐ感じで使っています」

圧倒的な、有無を言わせない解像感


――その中でも、これは抜きん出て細かいところまでよく写っている! と感じたのがアポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH. で撮られた作品でした。

@Wataru Nishida


「尋常じゃないですよね。特にガラスのようなモチーフなどは高精細に感じます。写真展を訪問してくださった方々にそういう体感をしていただきたいという思いが、今回の展示にはあります。ライカってどこがいいの?と批判的に考えている方の意見を覆したいと言ってはおこがましいですが、圧倒的な有無を言わせない解像感を、実際のプリントで見ていただきたいです」

――この写真で描き出されている線の細さ、高解像感は自分の目で見えている以上に写っている!という感じですよね。

「そうだと思います。最近では“見せない写真”と“見せる写真”を自分の中で明快にしているのですが、今回の展示では、“より見えている写真”をコンセプトに15点選んでいます。だからこそアポ・ズミクロンを中心にレンズを選んでいます」

――――この渋谷川の写真では、特に暗部のグラデーションの濃密さが抜きん出ています。こちらもアポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH. ですね。

@Wataru Nishida


「そうです。この写真はちょっとシャープネスを抑えて、印刷した時にちょうど良くなるようなデータの追い込みをしています」

――変にストラクチャーを目立たせず、トーンで見せていくところを狙っているのですね。

「その通りです。それでもカメラとレンズのレベルが高いので、結局グラデーションやトーンで見せることができます。アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH. とライカM11の組み合わせではメリハリをわざと弱めても画としてちゃんと成立するので、明瞭度を高めずにグラデーションの面で高精細感を見せたいというコンセプトで仕上げた作品です」

中判フィルム機で始まったカメラ遍歴


――ここで時を戻して、カメラの遍歴をお聞きしたいと思います。西田さんは大学在学中からロックバンドのCDジャケット写真などを撮影されていたとのことですが、まだフィルムの時代ですか?

「18歳からスタートして、ソニーミュージックさんとのご縁があって撮影させていただいていました。その当時は6×6判のフィルム機であるハッセルブラッドが中心でした」

――ハッセルブラッドといえばコマーシャルフォトの定番機材でした。しかもCDジャケットといえば正方形なので6×6判は相性抜群ですよね。

「そうですね。あとは雑誌の場合では6×7判のマミヤRZ67も使っていました。商業写真を25年ぐらいやっていたので35ミリ判はキヤノンの一眼レフで、そのうちデジタルにシフトしていったという流れです」

――ちょうど20世紀の終わり頃からプロとしてのキャリアをスタートされたということであれば、フィルムからデジタルに転換していく潮目の時期かと思います。ちなみにフィルムはポジで撮影されていましたか?


「フィルムでは、自分自身でカラープロセッサーを使って手焼きをしていました」

――カラーネガフィルムで撮ってプリント納品されていたのですね。

「そうです。時にはわざとポジフィルムで撮ってネガ現像の処理をするクロスプロセスをするような時代でした」

――CDジャケットのビジュアルやロック系音楽誌の表紙や巻頭カラーページといえば、超現実的な色彩やコントラストを狙ったクロスプロセスが人気でしたよね!

撮影後のプロセスに夢を感じてデジタルに移行


「アーティスト系の写真では、かなり流行っていました。それからデジタル暗室という単語が出てきて取り組んでみたら、こんなにすごいことはないと衝撃を受けました。自分でカラーペーパーにプリント作業していたことに比べて、生産性の高さを考えるとデジタル暗室には夢しかなくて、すぐにデジタルに移行していきました」

――そうすると21世紀の初頭からフルサイズのデジタル一眼レフの旗艦機を次々と使われてきたという感じですね。

「はい。連写速度より画素数の多さに重きを置いたモデル選んで使っていました」

――その流れの中で、どんなタイミングでライカと出逢われたのでしょう?


「本当にごく最近なのですが、最初に手にしたライカはAPS-CサイズのライカCLでした。まだデジタル一眼レフの全盛期でしたのでコンパクトかつ優秀なミラーレス機を自分の作品用に探していて、そのときファインダーの優秀さを基準に選んでいくとライカが浮かび上がってきたのです。その前段階でライカSLも視野に入れていたのですが、サイズ感的に外れていました」

――自分の個人的な作品撮りでの機動力を鑑みるとフルサイズのライカSLはちょっと大きいと感じられたのですね。

「そうですね。ライカSLのファインダーの良さは知っていたので、ライカCLを手に入れて、やはりライカはすごいと思いました。そこからライカの世界に入ってライカTLレンズを使っていたのですが、あるタイミングからライカのMレンズってどうなんだろう?と思ったのです」

――――そこで気になったレンズは?

1本のレンズから本格的にライカに目覚める


「アポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH. でした。このレンズで完全にライカに惚れ込むというか、驚きを禁じ得なくなり、本格的にライカを使い始める入り口になりました」

――その時のボディはM型ライカですか?

「いえ、まだAPS-CサイズのライカCLでした。それでフルサイズの他社のミラーレス機に装着してみました。本当はカバーガラスの厚さの関係で本来の性能は引き出せていないかもしれませんが、僕が見る限り凄かったのです。このレンズの実力を体感するならM型のボディが必要だろうということでライカM10を購入しました。そこで本当のライカMシステムに出会ったという感じで、そこからは早かったですね」

――――展示されている作品の中で、アポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH.で撮られたものとしてはRed dotと名付けられた連作があります。

「今回は、ライカで展示できるということで、モノトーンの中に赤があるというシチュエーションを探して撮り歩いていました」

@Wataru Nishida


――――主題のモチーフが、あえてアウトフォーカスになっていますね。抽象的に描かれた赤い点。これは何でしょう?

「展示している動線の次のカットを見ていくと分かるようにしていますが、これは消火栓のランプをクローズアップで撮影したものです」

@Wataru Nishida


「この消火栓を見つけて、わざと日暮を待ってから撮影しました。シャドウ部の耐性、表現力というのがライカの強みなので、それがどこまで出るかなというのにトライしてみたのです」

@Wataru Nishida


――このプリントはローキーの画面構成で、近づいて見れば見るほどディテールが出てきます。

「ありますね。AとBの間にA‘があるという感じで」

――撮影に三脚などは使っていますか?

「これは手持ちでISOも6400あたりです。絞りは開放ですね。このカットでは暗い中でのグラデーション、ロートーンをどこまで出せるかというチャレンジをしています。フィルムもいいですが僕はデジタルに夢を持っていて、フィルムであれば自分のスキルではここまでの表現ができなかったと思います」

――このプリントをモニター画面のイメージと一致させるのは大変だったのでは?

「プリンターのプロファイルが非常に優秀になっているので、モニターで追い込んでいけば大丈夫です。いいカメラといいレンズを使うことで、楽をさせていただけていると思います。いい素材、肉も魚もそうですけれど生で食べられるもの、生のデータが良いものであれば、結果どのような処理をしても良いものに仕上がるのだなと思います」


ライカでしか得られない撮影体験の価値


――ライカとそれ以外のカメラとの違いはどこにあるのでしょう?

「M型ライカを手に取って、光学式ファインダーの中の二重像が合致した瞬間に、まさにピントが合っていて撮ることができる。それはスマートフォンでは得ることのできない体験で、これが写真を撮るということなのだと実感します。光学式レンジファインダーをちゃんとここまできっちりと引き継いで作り続けているメーカーは、もはやライカしかないので、この体験価値は大きいですよね」

――光学式のレンジファインダーでピント合わせをするのは苦になりませんか?

「むしろ、そのためにM型ライカを使いたいし、極論を言えばピントなんて厳密に合わなくてもいいと思ってしまうほど撮影することが楽しいです(笑)」

――ライブビューの電子画像はあまり使わないですか?

「距離計の連動しない近接領域では、さすがにライブビューとフォーカスピーキングで撮影しています」

――西田さんが今後欲しいライカについて教えてください。

「やはりハイブリッドファインダーを搭載したM型ライカですね。どうやって切り替えるかは別にして、30cmまで寄れるレンズを作ってきているからにはM型ライカ1台で完結したいですよね。そういう方向で来るのではと思っています」

――最短で70cm程度までしか距離計が連動しない光学式のレンジファインダーと、それを補うEVFが合体したM型ライカが実現したらすごいことですね。


「ライカM型の次機種が登場するのと同時にアポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH. もリプレースされて、最短撮影距離が40cmまで寄れるようになるのがリアルな路線なのかなと。そのタイミングがハイブリッドファインダー搭載機の登場する時期かなと思います。もちろん、これは完全に個人的な妄想で話をしております(笑)」

――光学式レンジファインダーのアイピースを覗き込んで、何らかの操作をするとEVFの画像にも切り替わる。ひとつのファインダーでシームレスにピント合わせができるようになって欲しいということですね。

「EVFをアクセサリーシューに装着するのもいいのですが、内蔵したら面白いと思います。M型ライカでは無理なので、そういう場合にはライカSLシステムで撮ってくださいという回答もありだとは思います」

――本日は現在進行形のライカMシステムの有用性から大胆な未来予想まで、いろいろなお話を聞けて興味深かったです。どうもありがとうございました。

「こちらこそ、どうもありがとうございました」




写真展 概要

タイトル: GAZE
期間  : 2023年6月1日(木)- 8月29日(火)
会場  : ライカプロフェッショナルストア東京
      東京都中央区銀座6-4-1 東海堂銀座ビル2階 Tel. 03-6215-7074
展示内容: “視線”を意味する“GAZE”をテーマに撮り下ろした作品15点

>>写真展詳細は こちら




西田航写真集「GAZE」

西田航氏の視線が織りなす写真作品群は3ヶ月ごとに新刊を発行し、そのたびに熱狂的な人気で即座に完売する写真集GAZE。今回の写真展「GAZE」に合わせてライカプロフェッショナルストア東京にて販売が開始された最新巻"GAZE vol.8"も、すぐに完売。
しかしファンの声に応え7月に増刷し、ライカプロフェッショナルストア東京と西田航氏のオンラインストアにて再販予定。

公式オンラインストア https://watarunishida-store.com/




西田航 / WATARU NISHIDA プロフィール

鹿児島県出身の写真家。ラ・サール高校卒業後に上京し、早稲田大学へ進学。在学中より広告写真やポートレートなどの商業作品を手がけ、現在は日本の写真文化への貢献を理念とし、写真活動に取り組んでいる。 被写体を建築物や自然の風景などに絞り込み、そこに存在する様々な表情を浮き立たせる作品を特徴とする。個人作品は「GAZE」というテーマで展開されており、自身の作品集「COLOR OF シリーズ」では、都市の建物や街並みを独特の視点で色彩豊かに捉えた写真を発表している。
近年では、YouTubeの配信も積極的に行い登録者は70,000名を超え、写真展や講演会に出演し写真を愛する多くの人々に写真の魅力を伝えている。

公式サイト  https://www.watarock.com
公式YouTube https://www.youtube.com/@WataruNishida