Lens of Tokyo -東京恋図 
with Leica SL2-S
Vol.3   ムービーシューティング

Photo & text by 南雲暁彦

答えは自分の感性が導き出す。 


最初にこの映像を見ていただければと思う。

これを踏まえた上で、僕が持った感想をもとにライカSL2-Sの動画性能を作品と文章で表現していきたい。 


プロダクトの謳い文句で「スペックでは表せない魅力」とよく言われることがあるが、人が感じ取ることができる豊かでアナログな感性が数字や文字で簡単に動かせたり表せたりするわけがないだろう、といつも思っている。とは言え、「なんかいいんだよねえ、」で済ませる気もない。 

スペックの数字や文字による性能表記は、それはそれで仕事をする時に必要な情報だが、人の心を動かすのはそれを駆使して作り上げた写真や映像であり、音であり、綴られた文章のような作品だ。「美しい」「素晴らしい」という言葉はそれらが導き出した称賛の吐息である。

ことカメラにおいて、いつの時代もその性能を証明するのはスペックではなく、写真家がとった1枚の写真だった。それは写真家がカメラを使いこなし、カメラはそれに応えて生まれる。そういったものだと思う。今そのカメラは映像表現をもおこなうものへと進化した。

 

何を美しいと思うのかを認識して撮っていく。


このブルーが美しいコブラのテールが空気の層と一体化していくカットは、動画を設計していて最初に頭に浮かんだシーンで、今でも一番好きなシークエンスでもある。

ライカ
SL2-Sは動画と静止画の両方をこなすマルチロール機である。基本が写真機で、動画も撮れますよ、というおまけ的な動画機能ではない。動画、静止画が独立して設定画面を持ち、その切り替えも即座に行えるシステムを持っていることからもそれが伺える。 

このカメラで写真作品を作っていて、すごく気にいったのはやはりライカのレンズとライカ・マエストロⅢが作りだす絶妙なトーンだった。それを活かした動画作品を作ろうと思って撮ったのが本作である。高い解像度を持ちつつ極素直にアウトフォーカスへ繋がるレンズの描写は豊かな空気感を生み出し、しっかりとシャドーを締めて、見たいところを浮き彫りにするライカ・マエストロⅢがその豊かな情報を美しいグラデーションに昇華させていく。僕が感じたのはそういう画作りだ。
 


映像的な表現はレンズが生み出してきた。


眩しさが伝わってくる光のフォルム 


この時使ったレンズは、スーパー・バリオ・エルマーSL f3.5-4.5/16-35mm ASPH.。レンズに太陽を入れてフレアーが入るのを狙ったカットだ。人の目では見ることのできないレンズが導く光のフォルム、これが綺麗に決まった時にレンズが生み出していくこのような映像にはやはり魅力があると思った。これはスペック表には現れない撮影者が導き出す性能だ。
 

他にも、35mm50mm75mm90mmのプライムレンズと24-90mm90-280mmのズームレンズも同時に使用したが、すごく性能が揃っている事に感心してしまった。それは描写性能だけではなく、プライムレンズは67mm、ズームレンズは82mmとフィルター径が統一されていることもあり、おかげで握ったときの感覚も近いのもありがたい。
 

「交換レンズの描写が揃っている」というのはカットごとの繋がりの良さを作り出す。これは一本の動画に映像的統一感を持たせたまま色々な表現を紡いでいけるということだ。アポ・ズミクロンは全て開放がF2に揃っているのもいい。これがレンズ毎に色やコントラストやボケ味が違ってしまうと、見ていてその作品の世界観や時間の流れを阻害する事になり、つまり編集での調整が大変になる。
 

レンズを並べるとみんな同じような形と大きさなので、リアキャップに焦点距離を書いたテープを貼って使っていた。そうしないとアシスタントにレンズをリクエストしても中々当たりが来ない(笑)。ただ、実際に覗いて撮っているときには何ミリかどうかはどうでも良く、自分の欲しい画角になっているのかだけが重要なので、いちいち形や大きさやリングの操作性が変わるのは煩わしい。

撮影に集中する為にカメラも含めてシステムはシンプルなものがいいと思っている。 

ライカ・マエストロⅢの濃厚な画を活かす。



ライカSL2-Sは、もちろんカラーグレーディングを前提としたLogでの撮影にも対応している。最初の設計でそのワークフローも考えたが、現場のテスト撮影でこの美しいブルーの映像を見た時に、カメラが作り出す画をベースにして行こうと決めた。静止画の時もそうだったが、思い描いていた画が一発で出てしまったのだ。いや少し上回っていたかもしれない。
 

再三書いているが、ライカ・マエストロⅢの作り出す画は大胆だ。ライカSL2-Sの広いダイナミックレンジと全画面で高画質を叩き出すSLレンズが作る、余裕のあるデータを容赦無く一つの映像美にまとめあげる。シャドーはギリギリまで締め、ハイライトもしっかり立てる。そうするとその画面の本質的な部分がグッと前に出てくるのだ。
 

「そう、僕が見せたいのはこのブルーなのだ」
 

写真も映像も、僕は単純にリアルな写実的なものは好まない。創るからにはそこに映像としての美しさを加味し、人を魅了することが仕事だと思っている。
 


ライカSL2-S ムービーの真骨頂 



目の前の世界を美しく昇華させていく、そんな気持ちにライカSL2-Sはついてくる。

トワイライトから夜のシーンの撮影でライカ
SL2-Sはその真骨頂を迎える。このカメラはマルチロール機だと書いたが、35mmフルサイズ24メガピクセルの裏面照射センサーが選ばれたのはここに理由があるのだ。高画素機と比べて1段分のノイズ耐性と言われるが、実際はそんなものでは済まないほどの差が映像となって現れる。


この時間の風景がここまで美しく動画で撮影できる。 


マジックアワーは写真だけのものではなくなった、そう思った。シャドーの浮かない引き締まったこの夕景が取れるのは素晴らしい。 

動画の撮影は、シャッタースピードを1/30秒以下に出来ないので、静止画のように三脚を使ってスローシャッターを切り高感度ノイズを回避するということができない。レンズの明るさは動画も静止画も同条件だから、そこから先の露出は感度で稼ぐしか無いのだ。つまり、動画撮影においてライカSL2-Sのスペックである「すぐれた高感度特性」は、最も顕著に映像に現れるというわけだ。
 

完全に陽が落ちた時間帯にラストシーンの撮影を行った。


メーターの光、ボディのつや、僕が思う夜の車の美しさが見事に映像化されていく。 


マルチロール機の意味 


Lens of Tokyo -
東京恋図のメイキングムービーも、暗いシーンはすべてライカSL2-Sで撮影している。合わせてこちらもご覧になっていただければより説得力は増すだろう。

ライカSL2-Sはマルチロール機だ。それは動画、静止画という単純な話ではなく、実はその二つを基盤にマルチに活躍する性能を持っている。 

プライベートな作品作りもバリバリの仕事も、スタジオワークもフィールドも、昼も夜も、あらゆるシチュエーションでメイン機種となり得る現代のリファレンス機だと僕は思う。



やはりフォトグラファーとして言葉はこのぐらいにして
この月を見て欲しい、それが答えだ。


フォトグラファー

南雲 暁彦

1970 年 神奈川県出身 幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。日本大学芸術学部写真学科卒業。凸版印刷株式会社、ビジュアルクリエイティブ部所属 チーフフォトグラファー。世界中300を超える都市での撮影実績を持ち、風景から人物、スチルライフとフィールドは選ばない。近著「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」。APA会員。長岡造形大学、多摩美術大学非常勤講師。