My Leica Story
ー 阿部大輔 ー



ライカGINZA SIX、大丸東京店、新宿伊勢丹店、そごう横浜店、阪急うめだ店では、写真や映像でイメージブランディングを行うクリエーターとして活躍されている阿部大輔さんの作品を展示中。

各ストアで展示されている作品は、2024年3月にライカギャラリー京都および銀座で開催された写真展『shape』にて発表されたもので、撮影はすべてライカSL3で行ったとのことです。そこで阿部さんにライカSL3の印象や、ライカで写真を撮ることについてお話をうかがいました。

text: ガンダーラ井上



――本日は、お忙しいところありがとうございます。阿部さんのポートフォリオを拝見して、スタジオでのモデル撮影や物撮りから自然光を生かした撮影まで、実にさまざまな条件で撮影をこなされているのに驚きました。しかも写真だけでなく動画も手がけているとのことですが、普段のお仕事での割合はどちらが多いのでしょう?

「個人的には写真を撮ることがアマチュア時代から好きなのですが、仕事としては映像制作の割合が多く、ムービーが主力で写真も撮るという感じです」

――写真も動画も同じ機材でお仕事されていますか?

「普段は別のものを使っています。映像は商用映画も撮れるようなスペックのREDやBlackmagic Design などのシネマ機材を使っていて、写真は結構いろいろな機種を使います。中判デジタルからフルサイズのミラーレス機まで案件にあわせて使っています」




©Daisuke Abe



――必要とされるアウトプットのイメージに対応して、それに適した機材を選択されるということですね。こちらの展示作品はライカSL3によるものですが、アスペクト比は2:3のライカ判ではなく、映画館のスクリーンみたいに横長ですね。

ライカ判から映画サイズに画面を切り出す


「2.35:1 なので映画のフォーマットです。展示ではマットをこのサイズに切ってもらって飾っています」

――アスペクト比に対する自由な発想は、動画を撮ることが多いことも影響していますか?

「あまり考えたことはないですが、この光景をより広く見せたいと思ったので横長にトリミングしました。レンズはスーパー・アポ・ズミクロンSL f2/21mm ASPH.です」

――世界初の21mmのアポクロマート補正レンズですね!難しい条件の被写体ですが画面周辺部まで破綻なく結像しているのが分かります。

「三脚を立てられない場所だったので手持ち撮影です。あまり感度を上げずに、絞りは開放のf2でシャッター速度は1/15秒だったと記憶しています。本当にぶれないのでびっくりしました」


ライカでしか出せないコントラスト感



©Daisuke Abe



――夜景に続いてこちらは高層建築群です。圧縮された遠近感と抑制の効いたパースペクティブは望遠レンズによる撮影ですね?

「はい、レンズはバリオ・エルマーSL f5-6.3/100-400mmでした。ライカSL3の6000万画素とのコンビネーションで驚くほど細部まで写っています。他のカメラで撮るともうすこしゆるく出てくるので、いま見返してみるとこのコントラスト感はライカでしか出せない気がします」




今回の撮影に使われたカメラとレンズ



――ライカといえばレンジファインダー機のMシステムの印象も強いですが、SLシステムは超広角から超望遠まで、交換レンズのレンジの広さによる万能性が魅力だと思います。こちらもレンズは100-400mmでしょうか?




©Daisuke Abe



「そうです。作品のテーマを『shape』とするなか、かたちとして動物を捉えたいという気持ちから“鳥のかたち”というテーマに挑戦したのですが、ほとんど撮ったことのない被写体だったので難しかったですね」

――この作品、アンリ・マティスの切り絵の青に近い感じで色面と構図が素晴らしい写真です。

「自分でも、よく押さえられたなと思います(笑)」

――ちなみに、これは連写モードではなくシングルショットですか?

「シングルだったと思います。実際の撮影フレームはもう少し大きいのですが、ライカSL3の6000万画素を活かしてトリミングしています。シャッタースピードは1/4000秒にして動体ブレを防ぎながら露出は決めていきました」

――右下に留まっている鳥の足元の物体はリアルな質感で、かたや飛んでいる鳥は影絵の世界、ふたつのテクスチャーが同居しているように見えます。

「何回も納得できるまで撮って、年末年始も撮りに行っていましたね。これは12月31日だったかもしれません」

――そうですか!そういえば12月から2月頃までの関東地方は、こういうクリスピーな空の色になりますよね。ロケ写のあとにはスタジオにも入られていますね。この写真で使ったレンズは何ミリでしょう?



ライカSL3をスタジオ撮影でも活用



©Daisuke Abe



「これはアポ・ズミクロンSL f2/75mm ASPH.だったと記憶しています。絞りは開放のf2で撮っています。茎の部分のグラデーションが綺麗に出ているので選びました」

――アウトフォーカス部分のボケの具合もきれいですね。ちなみに阿部さんはスタジオ内でも背面モニターではなくビューファインダーを覗いて撮りますか?

「はい。ビューファインダーの方がコンポジションを自分の中で組みやすいというのがあります」

――ちなみにファインダーを覗くのは右目と左目のどちらを使いますか?

「どちらもです。疲れたら交換するみたいな感じですね。出だしは右目から行くことが多いです」




©Daisuke Abe



――これは白い紙を撮った作品ですね。カメラやレンズにとって意地悪な被写体を選んでいます。紙に折り目や凹凸のニュアンスをつけて、デジタルカメラには難しい条件の被写体ですが、これはあえて?

「そうですね。紙を撮りたかったので、モノのスタイリングをしてくれる人にシワの加減を作ってもらっています」

――グラデーションが見事に出ていますし、白と黒の境界線を凝視してレンズの色収差を見つけてやろうとしても全然出ていないですね。これは何ミリで撮られていますか?

「アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH.だったと思います。紙を撮っているというより、全体の構図を見せたいという気持ちがありました」



微妙な色のニュアンスを描写



©Daisuke Abe



――この鏡の写真は、物撮りテクニックのムックの表紙のような凛々しさがありますね。これもスタイリストの方がセットしてくれたのですか?

「そうです。これを撮ったときはガラス側面の緑色のグラデーションが、パソコンに取り込んで現像してモニターで見た瞬間に、いい出方をしているなぁと思いました。そこにピントは来ていないのですが、絶妙な色の出方がライカっぽいと思いました。これはライカでブツ撮りしたいと思った1枚ですね」

――他のカメラだとどうなるのでしょう?





「ちょっと印象が固くなるというか、シャドウのグラデーションがライカのようにキレイに出てきません。そこが他のカメラであれば軽くなってしまう印象があります」

――ぱたっとシャドウに行ってしまうと。

「そうです。それに対してライカは本当に絶妙なところを描けると思います」



肉眼で捉えた印象をそのまま写し出す


――絶妙といえば、この写真の明暗の描き方は肉眼で見て、あ!と思った印象をうまく捉えていると思います。




©Daisuke Abe



「これは頭の中でずっとこういう写真が撮りたいと思っていて、それを見つけられたときの1枚です。手前がシャドウで少し奥に光が当たっていて欲しいなと」

――太陽が沈んで数秒間の光みたいな、ギリギリのタイミングなのかと思います。

「撮影の帰り道に見つけて撮りました。そういう光に敏感になって気づけるようになったのは、多分ライカを持ってからのような気がします。この光を描けるのはライカぐらいかなと思っていて、そういう光を捉えるのに適したカメラだと思います」




©Daisuke Abe



――この作品はキレッキレのコントラストが印象的です。よく見ると写り込んでいる車は商用車のハイエースのようですが都会的でオシャレな雰囲気です。

「あ、バレましたね。これも狙って入れたものです。こういうガラスをモチーフにしたら、ライカなら絶対良くなるという確信の元に撮っています」

――ガラスで囲まれた建造物から跳ね返ってきた光はなぜかコントラストが強くなりますよね。都市で生活している人がよく目にしている風景として馴染みがあるモチーフだと思いますが、あの強調されたコントラストがよく捉えられていると思います。結構な数を撮られましたか?

「いや、これは2、3枚で意外とすんなりいけました」

――ちなみにレンズは?

「バリオ・エルマーSL f5-6.3/100-400mmでした」

――バッキバキに結像しているのでアポの単焦点かと思いきやズームレンズでこの描写なのですね。ふたたびスタジオ撮影の作品に戻りましょう。こちらの作品は人物をモノクロで捉えています。



シャドウ部の豊かなトーンもライカの特長



©Daisuke Abe



「はい。コンテンポラリーダンスをしている知り合いに声をかけて、シンプルなライティングで撮影しました。レンズはアポ・ズミクロンSL f2/75mm ASPH.で、アポ・ズミクロンSL f2/35mm ASPH.も使いましたが、本当に枚数を撮りました」

――この肉体とポージング、すごいですね。

「ちょっとピントが甘いですが、かたちという意図どおりの写真が撮れた1枚です。この瞬間はこれしかなくて、何回かやってもらったのですが再現できず、このカットを採用しました」

――ロケ撮影のランドスケープも数多く撮られていますね。この作品は日本画の遠近法のお手本のような写真だと感じました。画面の分割も日本画っぽくて素敵です。ひと連なりのトーンがキレイに出ていますが使われたレンズは何ですか?




©Daisuke Abe



「バリオ・エルマーSL f5-6.3/100-400mmです。山の上の部分をどこまで入れるかにこだわって撮り続けていました。まず引きの絵を90mmのレンズで撮っていて、撮影を続けているうちにディテールを切り撮りたくなって撮影場所を変えずにレンズを交換していきました」

――M型ライカの場合には実用性のある焦点距離に制限がありますが、SLシステムであれば長焦点のレンズも充実していて自由度が高いですね。今回の作品制作でライカSL3をお使いになられてどのような印象でしたか?



作品撮りにも仕事にも使えるSLシステム




「自分の置かれている環境下では、いろいろなジャンルの撮影や仕事がありますが、その中でも対応できるカメラだと思います。6000万画素というスペックや手ぶれ補正機能が大きいですし、ライカSL3から採用された液晶モニターのチルト機能も便利です。スタジオだけでなくフィールドでの撮影も多いので、さらに使いやすいカメラになったと思います」

――ライカSL3に限らず、ライカのカメラは日本のカメラのように物理スイッチがあらゆるところにあるのではなくシンプルですが、使い勝手はどうでしたか?





「個人的な性格の問題もあるかもしれませんが、あれだけの数のボタンがあっても、ほぼ使わないですよね。結局必要なのは絞り、シャッター速度、ISO感度ぐらいで、色温度もそんなに頻繁には変更しません。そうすると、それほど必要ないので、そういう意味では潔くていいなと思います。使っていて物理スイッチが足りないと感じることはなかったです」

これから使ってみたいライカについて


――ライカSL3のほかに欲しいライカはありますか?

「個人的な機材としてはライカMモノクロームが欲しいと思っています。ライカSL3を個人的に使うとすればライカMシステムの単焦点レンズも欲しいですね」




現在の愛機はライカM10とズマリット5cmf1.5



――具体的に狙っているレンズは何でしょう?

今は復刻版のノクティルックスM f1.2/50mm ASPH.が欲しいと思っているところです。でも最新のズミルックスM f1.4/50mm ASPH.の限定バージョンとしてローレットが昔の雰囲気になったものが出たとしたら、ちょっとノクティルックスを考え直そうかなという感じです。それをひっそりと期待しているところです。

――レンズのルックスとしては1960年代風がお好みなのですね。





「文字が赤で、その感じもいいなと思っていて。そういう意味ではライカを使う楽しみにはコレクション的な部分もありますよね」

――持っていて楽しくなるような物品であれば、撮れる写真もポジティブな方向に変わってくるということですよね。本日は写真とカメラ・レンズとの関連性が見えてくるエキサイティングなお話から個人的なライカへの感情まで、いろいろお聞きできて楽しかったです。どうもありがとうございました。

「こちらこそ、ありがとうございました」



写真展・写真展示概要

タイトル:shape
期間:2024年7月13日(土)- 11月7日(木)

会場  : ライカGINZA SIX    >>写真展詳細はこちら
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阿部大輔 / Daisuke Abe プロフィール

1989年生まれ。 上智大学を卒業後 アパレルメーカーに7年間勤務。
2018年 bird and insectに加入。
言葉にできない感情を、写真や映像で表現したい。

公式サイト:https://bird-and-insect.com/works/member/daisuke-abe

Instagram:@daisuke.abe_

X:@avedaisuke