ライカSLレンズの威力
バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.
写真家 河田 一規
この度、コンパクトで軽量な最新のSLレンズ「バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.」がラインアップに加わり、ますます注目が高まるライカSLシステム。
人気のある標準ズームの「バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.」と近い焦点距離をカバーするこのレンズ、実際のところはどうなんだろう?と思いつつもまだ手に取ったことがない方も多いのではないかと思います。
そこで今回は、ライカMレンズの連載記事も執筆するなど、ライカに関する知識の深い写真家の河田一規氏に、バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.を試写していただき、そのインプレッションをご紹介いたします。
ライカからLマウントとしては久々のズームレンズが登場した。それが今回試用したバリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.だ。
ライカ製のLマウントズームレンズは、標準ズームのバリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.と、望遠ズームのアポ・バリオ・エルマリートSL f2.8-4/90-280mmの2本が2015年に発表された後、広角ズームのスーパー・バリオ・エルマーSL f3.5-4.5/16-35mm ASPH.が2018年5月に発売されており、今回のバリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.は、それらに続くSLレンズとしては4本目のズームとなる。
と、ここで誰もが気になるのが「すでに24-90mmという標準ズームがあるのに、なぜまた標準ズーム?」ということだろう。テレ側の焦点距離や開放F値に若干の違いはあるものの、大口径標準ズームというくくりでは明確にスペックが被る2本であることは確かに否めない。そこで、今回は先輩レンズのバリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.と同時に使い比べすることで、新しいバリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.の立ち位置を探ってみたい。
ライカSL2に装着したときのサイズ感は非常にバランスが良い。
まずは両レンズのスペック的な違いから。はじめにバリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.だが、ボクは個人的にこのレンズのコンセプトをかなり気に入っていた。大口径標準ズームと言えばどのメーカーも判を押したように24-70mmF2.8という決まり切ったスペックなのに対し、F値は変化するもののテレ側の焦点距離を90mmまで伸ばすことで標準ズームの利便性を上げるという考え方は他のメーカーにはないものだし、さすがライカはちょっと違うぜ!という納得感があった。想定ユーザー層が第一線のプロ向けということもあってか、サイズがちょっと大きく、重めであることは正直感じていたが、それを納得させるだけの描写性能やスムースなAF作動感を実現していたのも事実だ。
一方、新しく発売されたバリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.のスペック的な特徴は、やはりバリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.に比べて一回り、いや二回り近くダウンサイジングされて小型軽量化されていることだ。テレ側の焦点距離が異なるので同列に語ることはできないものの、両レンズを並べて見ると、その体格差は明らかだ。24-90mmとは逆に焦点距離的なスペックが平凡化されて、よくある24-70mmF2.8という仕様になってしまったのは個人的には残念な気もするが、この機動性が高そうなサイズ感に魅力を感じる人も多いはずだ。
バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.とのサイズ感の違いは結構ある。
テレ端までズームしたところ。
バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.は前枠にレンズ銘がなく、鏡筒側に記される。
フードはどちらも逆付けが可能。バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.用フードは基部のみ金属製でフード本体は樹脂性だが、
バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.用フードは総金属製だ。
次に描写傾向を比べてみた。チャート撮影で比べたわけではないので厳密ではないが、遠景の描写比較などで見る限り、絶対的な解像力の違いはほぼ無いようだ。今回はライカSL2で比べているが、どちらのレンズも4730万画素に解像負けしている印象はまったくなく、将来的により高画素なボディが出てきても問題なく対応できそうだ。
一方で、コントラスト再現では両レンズで違いが出た。バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.よりもバリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.の方がコントラストが少しだけ高く、ややメリハリが強くなる傾向があるのだ。これに関してはトーン再現の好みもあるのでどちらの方が優れているとは言いにくいが、トーン再現の柔らかいバリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.の方が個人的には好みだった。あと、誤解しないで欲しいのはコントラストの高い低いはあくまでも2本を比べたときの違いであって、バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.が低コントラストというわけでは決してないということ。現代の基準で見ても十分にコントラストの再現性は高いが、その上で強いて比べれば・・・という話である。
(上)バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.
(下)バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.
35mm位置での比較。絞りはどちらも開放。解像力の差はほぼ感じられない。どちらも絞り開放からシャープな描写を楽しめる。
(上)バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.
(下)バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.
70mm位置での比較。絞りはどちらも開放。こちらも解像差はほとんど無いが、コントラストの付き方は24-70mmの方がややメリハリが強い。
(上)バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.
(下)バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.
24mm位置での比較。絞りはどちらもF11。強い光源がフレームインしている割にはどちらもゴーストの発生は少ない。
24-90mmは光源の近くにゴーストが現れているが、24-70mmは光源から離れたところに現れる。
どちらかと言えば24-70mmの方がゴーストは目立たない。
操作性に関しては、これはやはり小型軽量なバリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.の方が運搬時、撮影時共に使い勝手は良好だ。ボクは標準ズームに関しては速写性の観点からボディに付けたままバッグに入れることが多いのだけど、バリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.だと大き過ぎてレンズを外さないといけないことが多いのに対し、バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.はそれほど大きなバッグでなくてもレンズを装着したまま難なく収納できる。
また、撮影時のハンドリングについてもバリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.のサイズ感は手に余ることなく無理なく撮影を進められる。ズームリングの回転方向が他のSLレンズと逆なのはちょっと感心しないけど、それ以外は問題なくスムースに扱えた。ライカらしい金属を多用した鏡筒のクオリティに関してもバリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.に負けてはおらず、同等と感じた。
というわけで、当初は使い道がかぶるのでは?と思っていた2本のバリオ・エルマリートだが、実はそれぞれ性格が微妙に異なるように思う。先に発売されたバリオ・エルマリートSL f2.8-4/24-90mm ASPH.はやや大きくて重いものの、あらゆるシーンに対応できる懐の広い描写特性とテレ側が90mmまであることの優位性が特徴なのに対し、新しいバリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.は画質をキープしたまま、より気軽に持ち出しやすいサイズ感を実現している。どっちが良いというよりは、自分が使う撮影シーンに合わせて選ぶべき2本であり、どちらを選んだとしても後悔することは無いと思う。もちろん、両方手に入れて使い分けるというのも大いにアリだ。
スカッ!とヌケのいいクリアな描写を楽しめる。
解像性能は十分に高く、ライカSL2の4730万画素でもまだレンズ性能に余裕を感じる。
24-90mmに比べると小型軽量なので歩きながらのスナップにも持ち出しやすい。
歪曲収差は非常によく補正されており、直線が真っ直ぐに再現された。
24mmのワイド側でやや引き気味の構図でもF2.8なら背景を結構ボケさせることができる。
高めのコントラストで切れ込みのいい写りがこのレンズの特徴だと思う。
70mm時の最短撮影距離は38cmで、ここまで寄れる。ボケ味は柔らかく気になる二線ボケもない。
軸上色収差もよく補正されていて、細かいモノの輪郭も色付き無くクリアに描写される。
幅広い撮影シーンで活躍するライカSLレンズ
「ライカ バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.」は、ルポルタージュをはじめ旅先やスタジオでの撮影、建築物、風景、ポートレートの撮影、さらにはクローズアップ撮影から動画撮影まで、さまざまな撮影シーンで活躍するズームレンズです。幅広い焦点距離とズーム全域で開放値F2.8という明るさが特長で、まさにオールマイティなレンズといえます。コストパフォーマンスにも優れており、ライカSLシステムにステップアップする際の最初の1本としても最適です。
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河田 一規 (かわだ かずのり)
1961年横浜市生まれ。
小学3年生の頃、父親の二眼レフを持ち出し写真に目覚める。
10年間の会社勤めの後、写真家、齋藤康一氏に師事し、4年間の助手生活を経てフリーに。
雑誌等の人物撮影、カメラ雑誌での新機種インプレッション記事やハウツー記事の執筆、カメラ教室の講師等を担当している。