Everyday Carry
日々のルーティーンにライカを
ー 花澄 ー


花澄の“Everyday Carry”



わたしには2つの転機がある。
ひとつは、「コロナ以前、コロナ以降。」

初めてライカを手にした2018年から今年で6年。緊急事態で人と会えなくなり、出かけられなくなった時、わたしはたった一人、Leica M10-Pとオールドレンズでセルフポートレートを撮りはじめた。




Leica M10-P Summarit f1.5/50mm
写真集「Scent of a… 」より「gift」




Leica M10-P Summilux M f1.4/35mm (2nd)
写真集「Scent of a…」より「肖像画」



元々印象派の絵画が好きで、解像度というよりは柔らかい描写が好き。
限られた自室の中で、ペンライトやサンキャッチャーなど身近なものを駆使しながら、まるで絵を描くように、いろんなシチュエーションで作品を編み出していった。




Leica M10-P Tele-Elmarit f2.8/90mm(1st)
写真集「Scent of a…」より


レンズも画角ごとに揃え、ガチャガチャと替えながら選んでいる。ふわっと画が閃いたら撮影スタートだ。FOTOSアプリを使って携帯でライブビューを見ながら検証し、どのレンズにするか決め、何時間もかけてシャッターを切る。これはたぶん、ほかで聞いたことがないわたし独自のルーティーンだ。ピントもマニュアルなのでなかなか合わず、光と表情と構図と、全てが揃うのに1枚につき2、3時間はかかる。1日で撮れればいい方で、完成しないこともある。枚数に制限がないからこそ為せる技で、デジタルの恩恵を最大限に得ていると思う。その場で確認できるから、体力さえあれば叶う。なにを差し置いてもこの愛機とオールドレンズたちの描写には代え難いのだから仕方がない。道具としてのライカに、心底惚れ込んでいると思う。




Leica M10-P Summilux M f1.4/35mm (2nd)
写真集「Scent of a…」より



わたしは俳優・ナレーターでもあるのだが、コロナの時期はその仕事も途絶え、表現の場自体が制限される中、ただひたすら純粋に、芸術として写真と向き合った。エンタメが責められがちな風潮の中で、自分の存在意義を確認していくような作業だった。誰の目も介さず、身ひとつでストイックに紡ぎ出す、世界一ピュアな空間だった、といま振り返っても思う。




Leica M10-P Summilux M f1.4/35mm (2nd)
写真集「Scent of a…」より


当時はまさかこんなに長引くとは思っておらず、いつしか作品は撮り貯まり、最終的には写真集と個展を開催するまでに至った。今では10本ほどのオールドレンズと日々を過ごしている。




ある日の撮影風景。
光や影を使った習作や遊びは常にしている。


そして、コロナ禍も落ち着き、世の中がまた動き出した頃、また転機が訪れた。

「タンバール以前、タンバール以後。」
これは一生忘れられないだろう。またひとつ、大きく世界が変わった。



オールドレンズの本はたくさん持っていて、ネットで作例もたくさん見てきたけれど、やっぱり最後の砦としてタンバールだけは通らないといけないような気がしていた。あれだけは、別格にファンタジックで異質だ。確かめてみないと!




Leica M10-P Thambar M f2.2/90mm
写真展「世界に、なにを見よう」より


Leica M10-P Thambar M f2.2/90mm
写真展「世界に、なにを見よう」より




結果、好むテイストは変わっていないのだが、写し出される世界がぐっと印象派にまた近づいた。今までのどんなレンズよりも感動した。これはどえらいものを、宝物を手に入れたと思った。一瞬で恋をした。





撮影風景。ヴィンテージランプの影模様を背中に投影した。



わたしが手にしたのは復刻版のタンバールだったので、オールドレンズとはいえ、本来の性能を100%発揮できる。ファンタジックなポヤポヤを想像していたけれど、ピント面は驚くほどシャープで、これは意外なポイントだった。夢のようだけれど優しいだけではない。90mmと画角も狭くなるため、ピント面がシビアな分、なにを写すかという思考がより鮮明に浮かび上がってくる。エッセンスだけを抽出するイメージだ。そこが印象派と共通していて、思考とも重なる。

そしてそれを外に持ち出したとき、また世界が違って見えた。

さて、ここで話を戻すと、Everyday Carry、日々のルーティンはと聞かれて、どっちを書こう?と最初は迷った。わたしには大きく2つの道がある。セルフとそれ以外。ちがう話のようだけれどどちらも日常だし、まず使い方が特殊なのだから仕方がない。どちらも同じようにわたしのスタイルなのだ。




Leica M10-P Thambar M f2.2/90mm


今秋、わたしははじめて芸術祭に参加するため、全国のあちこちの開催地を巡っている。

タンバールを持ってはじめて海に出会った。これがあのタンバールなのか、と思った。まるでモネのよう。瀬戸内の海を眺めながら、シャッターを切る手が止まらなかった。




Leica M10-P Thambar M f2.2/90mm



Leica M10-P Thambar M f2.2/90mm


世界を描き直すレンズだと思った。




Leica M10-P Thambar M f2.2/90mm


タンバールを持って、山と出会い直した。
これもなんて豊かなんだろうと思った。




Leica M10-P Thambar M f2.2/90mm


ちょっとしたススキにも感動した。
タンバールを通すと、こんな風に見えるのか。

これはきっと、雪景色も素晴らしいに違いない!と想像し、人生ではじめて冬の北海道にも訪れた。




Leica M10-P Thambar M f2.2/90mm
写真展「世界に、なにを見よう」より
メインビジュアル 組写真


あまりの迫力にことばを失った。
この写真が撮れたとき、また個展を開きたいと思った。そして新宿北村写真機店にてこの2月、2度目となる約1ヶ月に渡る個展を開催した。




Leica M10-P Thambar M f2.2/90mm
写真展「世界に、なにを見よう」より
メインビジュアル 組写真


1度目と違ったのは2つの大きな道が融合できたこと。世界になにを見ようか、という視点は、セルフポートレートでの自分になにを見出そうか、という視座と重なり、今まで箱庭で生み出してきた世界とひとつの糸となって、「ああ、今なら組める」と明確に思った。


Leica M10-P Summilux M f1.4/35mm (2nd)
写真展「世界に、なにを見よう」より


Leica M10-P Summarit f1.5/50mm
写真展「世界に、なにを見よう」より




Leica M10-P Summilux M f1.4/35mm (2nd)
「世界に、なにを見よう」より



Leica M10-P Thambar M f2.2/90mm
「世界に、なにを見よう」より


Leica M10-P Thambar M f2.2/90mm
「世界に、なにを見よう」より


Leica M10-P Elmar f3.5/65mm
「世界に、なにを見よう」より


Leica M10-P Thambar M f2.2/90mm
「世界に、なにを見よう」より


Leica M10-P Elmar f3.5/65mm
「世界に、なにを見よう」より


Leica M10-P Thambar M f2.2/90mm
「世界に、なにを見よう」より


Leica M10-P Thambar M f2.2/90mm
「世界に、なにを見よう」より


Leica M10-P Thambar M f2.2/90mm
「世界に、なにを見よう」より


等しく存在する世界の中で、なにを掬い上げていこうかという視座は、わたしの人生そのものであり、これから生み出すすべてのものは、ここに基づいていくのだろう。

世界は、美しい。そして、人生は美しい。


Leica M10-P Thambar M f2.2/90mm
亀山トリエンナーレ「君恋し」より


いまわたしは、この10月に開催される亀山トリエンナーレの準備中で、東海道の宿場町に住まったであろう、想像の女性の恋物語を写真で綴っている。芸術祭とあっていわゆる純粋な写真展ではないので、文化財の日本家屋の空間を活かしたインスタレーションと格闘している。これを乗り越えたとき、またひとつ表現の世界が広がるのだろうと期待している。

最高の相棒と、ひとつひとつ時間をかけながら産み落としていく作業は、インスタントな世の中とは逆行しているけれど、手間の中にこそ愛情が宿り、価値が生まれるのだと信じている。



使用機材
Leica M10-P・Summarit f1.5/50mm・Summilux M f1.4/35mm (2nd)・Tele-Elmarit f2.8/90mm(1st)・Thambar M f2.2/90mm・Elmar f3.5/65mm





花澄 / kazumi プロフィール

俳優・ナレーターとして舞台・映画・ドラマ・CM・ラジオ等で活動する傍ら写真家としてもデビュー。印象派のような優しいタッチで世界の本質的な美しさを描く。コロナ禍を機にセルフポートレートにも取り組んでいる。写真集「Scent of a...」(2022)を刊行。

2018.11「LOVE 駈込み訴え展」/2019.8「大和川酒造店の風景展」/2022.9「Scent of a...」新
宿北村写真機店/2024.2「世界に、なにを見よう」新宿北村写真機店/2024.5 JPS展 奨励賞受
賞/2024.10 亀山トリエンナーレ出展予定

「百合の雨音」金子修介監督 主演/「相棒21」第13話椿二輪メインゲスト/「ゴールド・ボ
ーイ」金子修介監督 打越遙役/東京FM「SUNDAY'S POST」レギュラーナレーション ほか

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亀山トリエンナーレ2024 亀山市内一帯にて10/27-11/16 10:00-17:00(最終日は16:30まで) 入場無料 (旧舘家のみ500円)
花澄作品「君恋し」写真/インスタレーション 於 旧田中家邸宅(関宿)公式HP https://kameyamatriennale.com