Everyday Carry
日々のルーティーンにライカを
ー 小林 祐輔 ー

小林祐輔氏の “Everyday Carry“



朝目覚めた時の光の入り方、窓を開けた時の風の匂い。そんな、なんでもない日常の始まりが好きだ。



仕事に行く時は、大体毎日カメラを持ち歩いている。朝の気分でデジタルにするかフィルムにするか、50mmにするか35mmにするか、あるいは21mmにするかを決める。ボディもレンズもその日、朝決めた1つずつしか持ち歩かない。何かを撮りたくて持ち歩くのではなく、自分が今使いたい1つを選択し持ち歩く。その日の服装を決めるように。




カメラは僕にとって日常的な自分の視点を切り撮る道具だと感じている。




職場と自宅の往復しかしていない時期に、フッと歩いて職場まで出かけた。片道1時間。毎日通っているはずの道には発見がたくさんあった。意味があってその場に置かれたものたちが、役割を無くしても町に佇んでいた。置かれた当初は「異物」として意味があったが、年月が経つにつれ私たち自身が「当たり前」として日常にしてしまった。役割を無くした異物たちは形を変えて尚も残っているが、町に住んでいる人たちは「当たり前」と化した「異物」たちに何の違和感も感じていない。




「この異物だったものたちが朽ち果てて消え去っても、誰も何も感じないのかもしれない」そう思ってからは、異物である彼らを見つけてはシャッターを切っている。いつかなくなってしまう前に記憶だけではなく記録として残していきたいと思っている。だからこそストリートスナップのようにして被写体を見つけるが、その被写体をポートレートのように一番よく見える画角でシャッターを切る。




そんな日が習慣になり、今は日常になっている。




写真を撮る中で陰影を大切にしている。もちろん光も大切だが、私は影のデザインに重点を置いている。影の形、色味、深さなどその日によって美しさが異なる。その日にしか感じられない陰影を見つけては嬉しくなり、またシャッターを切る。




もう一つ大切にしているのは、その空間の余韻だ。寂しさ、楽しさ、悲しさ、侘しさ、嬉しさなど空間にはその余韻が残っているように感じる。その時の空間に残された色々な余韻を記録に収めていきたい。




写真を見ていただいて、私の写真は多くの人が「良い」と感じる写真ではないと思う。でもそれで良い。今の私は「今」これが撮りたいと思っている。一つひとつ大切なエピソードがある。その記憶との対話写真なのである。










フィルムを使ってもデジタルを使っても、私は同じくらいシャッターを切る。大切に使いすぎない。だからと言って無駄にも撮らない。撮りたいものを撮りたいように写すために、フィルムでもデジタルでも1枚1枚その日に出会えた感謝を持って押したい時に躊躇わず、今後もシャッターを切り続けたい。

使用機材:Leica M10・Leica M9・Leica M6
Summilux M f1.4/50mm・Summilux M f1.4/35mm(復刻)・Noctilux M f1.0/50mm・Super Angulon f3.4/21mm




小林 祐輔 Yusuke Kobayashi

1986年生まれ
保育士として9年勤務したのち、大学の友人と会社を設立し小規模保育園を2園運営しながら専門学校の非常勤講師や歌遊び作家としても活躍2023年より京都芸術大学大学院(通信)に通いながら芸術専攻でデザイン思考を主軸とした修士課程に進んでいる
写真家としても「余白」や「余韻」などをテーマに写真作品を撮り続け、個展やグループ展を開催している

https://kobayashi938.stores.jp/
Instagram: @ysk.711