ライカM EV1の魅力

part3 - 伝統の器、新たなまなざし -

ライカM EV1の魅力


part1では、ライカ ノクティルックスM f1.2/35 ASPH.の描写を通してEVFがもたらす世界を体感しました。
part2では、レンジファインダーという“窓”に対する、EVFという“キャンバス”の思想を考察してみました。
では、その思想は実際の撮影においてどのような意味を持つのでしょうか。M型が紡いできた技術進化の歴史を踏まえつつ、考えてみたいと思います。


Leica Summicron-M 50 f2 ISO200, 0EV, f2, 1/3000/ライカM EV1
Leica Summicron-M 50 f2 ISO200, 0EV, f2, 1/3000



変わらない操作、深化する制御

ライカM EV1は従来のM型とほとんど変わらないフォルムを持っています。手に取れば、両端の丸みが特徴的なデザイン、指先に収まる操作系がそのままあり、より軽量化されたボディ故に構えたときの負担は驚くほど少ないです。 しかし、ひとたびファインダーを覗くと、そこに広がるのはまったく異なる世界。同じかたちのまま、視界だけが更新されているのです。 M EV1の魅力は、単にEVFを搭載した点にあるわけではないように思います。これまでのMデジタルが積み重ねてきた操作思想を、無理なく受け継いでいること。その自然さが、今回の試写で強く感じたポイントです。

ライカM EV1


再考 ― Mという輪郭のなかで

絞りはレンズ側のリングで決める。
シャッタースピードは物理ダイヤルで選ぶ。
被写界深度を優先するのか、被写体の動きを止めるのか。
その判断は、これまでのMと同じ身体感覚の延長線上にあるのです。

大きく異なる点は、EVFによってその結果を事前に確かめられることでしょう。露出や階調、ピントの山を追い込みながら整えてゆく感覚は、レンジファインダーでは成し得なかったものです。構築という姿勢が、より確かに像へと反映されていくように感じられます。

ライカM EV1


ISO感度はメニュー画面での設定になりましたが、普段の撮影ではAutoのままで不自由なく使えるでしょう。撮って出しの色合いやコントラストは完成度が高く、わずかな露出調整だけで整う事が多いです。事実、掲載している作例全て、殆ど手を加えておりません。

ビゾフレックス2というアクセサリーによる拡張機能ではなく、EVFだけに割り切る設計思想。フレームセレクターレバーを模したファンクションキーや、まるで測距窓のようなセルフタイマーランプなど、伝統を重んじたデザイン。ミニマリズムを尊重するライカらしさは、ライカM EV1にも息づいています。

Leica Summilux-M 28 f1.4 ISO64, -0.7EV, f1.4, 1/1000ライカM EV1
Leica Summilux-M 28 f1.4 ISO64, -0.7EV, f1.4, 1/1000


光学史を湛える器

球面から非球面へ、新種ガラスの登場、フローティング機構の搭載―― レンズは「如何に諸収差を抑え込み、高解像度な画を結ぶか」という命題のもと、戦前から今日にかけて絶え間なく進化してきました。 私達は潤いを帯びた古典レンズの描写も、鋭利なピントと高コントラストで驚かせてくれる現代レンズの性能も、目的に合わせて選び取る事ができます。百年を超える光学の営為、その積層の果てにある像を、直に見つめることができるのです。手に馴染んだM型のかたちのままに。それは、光学史そのものを掌の中で検証し得るという事なのです。

Leica
Leica Thambar-M 90 f2.2 ISO64, 1.3EV, f2.2, 1/500


数値では測れない価値

現代のデジタルカメラは、既に高い水準に達しています。解像力やダイナミックレンジ、高感度耐性。日常的な撮影でそれらを感受しきるのは簡単ではないでしょう。そう考えると、性能差だけでカメラを選ぶ時代ではなくなりつつあるのかもしれません。


Carl Zeiss Jena Herar 3.5cm f3.5 ISO3200, 0EV, f3.5, 1/40
Carl Zeiss Jena Herar 3.5cm f3.5 ISO3200, 0EV, f3.5, 1/40

では、何が決め手になるのでしょう。設計思想やメーカーの哲学に、どれだけ共鳴するか。そして何よりも、自分自身がそのカメラに“納得”できるかどうかではないでしょうか。

もちろん、画素数や設定出来る項目の数、重さや大きさは、カメラを選ぶ上でとても重要な事です。しかし最終的に残るのは、「このカメラで撮りたい」と思える感覚だと思うのです。

Leitz Elmarit 90 f2.8 ISO200, 0EV, f2.8, 1/750/ライカM EV1
Leitz Elmarit 90 f2.8 ISO200, 0EV, f2.8, 1/750

ライカM EV1は、従来のM型とほとんど変わらないフォルムと操作感を保ちながら、視座だけが変更されました。軽量な筐体の中に最新の技術を収めつつ、M型に慣れ親しんだ身体感覚を裏切りません。 それはスペックの向上というよりも、思想の拡張、解釈の更新と呼ぶほうが近いのかもしれません。


総括 ― 成熟の時代に、何を選ぶか

part1では、大口径レンズの開放を実用へと引き上げる精度を確かめ、part2では“窓”から“キャンバス”へと移ろう視座の変化を辿りました。そしてpart3では、長い歴史をもつM型の文脈の中で、ライカM EV1がどのような意味を持ち得るのかを探ってきました。 そこに共通しているのは、“納得”という感覚のように思うのです。

Leica Thambar-M 90 f2.2 ISO64, 1.3EV, f2.2, 1/500/ライカM EV1
Leica Thambar-M 90 f2.2 ISO64, 1.3EV, f2.2, 1/500

露出を決め、
ピントを合わせ、
構図を整える。

そのひとつひとつを自分の目で確かめながら、ここぞというときにシャッターを切る。やはりM型という系譜は、あまりにも基本的な所作の中に、写真という営みの本質が宿っていることを思い出させてくれます。

Carl Zeiss Jena Tele-Tessar K 18cm f6.3 ISO250, 0EV, f6.3, 1/500/ライカM EV1
Carl Zeiss Jena Tele-Tessar K 18cm f6.3 ISO250, 0EV, f6.3, 1/500

レンジファインダーのMが「瞬間を信じるカメラ」だとするなら、ライカM EV1は「判断を重ねていくカメラ」と言えるのかもしれません。性能は既に十分成熟しています。だからこそ問われるのは、どの思想に身を置くか、どんな姿勢で撮影に臨むかという選択なのではないでしょうか。そしてその選択の果てに撮られた一葉が、人の琴線に触れるのならば、これほど素晴らしいことはありません。

Leica Noctilux-M 35 f1.2 ISO100, 0EV, f1.2, 1/160/ライカM EV1
Leica Noctilux-M 35 f1.2 ISO100, 0EV, f1.2, 1/160

ライカM EV1は、長い歴史を刻んできたM型の系譜に加わった、ひとつの新たな選択肢です。それは枠組みからはみ出す革新ではなく、伝統の輪郭を守りながら、現代的な視界をもたらす進化と言えます。

その進化が、撮影者にとっての“納得”へと繋がるのであれば――
そのまなざしに、自らの感覚が重なるのであれば――
それこそが、ライカM EV1の持つ価値なのだと思うのです。

道具が使い手にもたらしてくれるインスピレーションは、計り知れないものがあります。道具は単なる機械ではなく、世界の見え方そのものを、静かに、ゆるやかに、変えていく存在になるのかもしれません。






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