LEICA SUMMILUX-M f1.4/50

Impression Report by Leica Store Staff

クラシックシリーズレンズの5本目として2025年3月に発売された「ライカ ズミルックス M f1.4/50」は、貴婦人という愛称で呼ばれている初期モデルのようなデザインでありながら、レンズ構成は2代目のものと同様、最短撮影距離は70cmと、今までの復刻レンズとは趣の異なるレンズとなっています。

一般的に50mmのレンズは「標準レンズ」と言われる事もあってか、レンズ交換式カメラを買う時に初めの1本として選ぶ方もいますし、1度は手にした事のある焦点距離ではないでしょうか。私も初めてレンズ交換式のフィルムカメラを購入した時はf1.4の50mmレンズを選びました。 その後、ライカのM型を初めて購入した際はズミルックス35mmの描写に憧れていた事もあってか、「M型の標準はなんとなく35mm」と思い、球面のズミルックス35mmを購入したのですが、後に2代目のズミルックス50mmを購入してからは買っては売ってを繰り返し、気づいてみれば50mmのレンズを4回も購入していました。50mmのレンズは特にバリエーションも多いため、一度手にすると他の50mmレンズもどうしても気になってしまいます。

先日、「ライカ Q3モノクローム」の記事でも触れたのですが、10年近く前に球面の35mmと50mmのズミルックスを持ってベネチアへ旅行に行ったことがあり、今回その復刻シリーズとなる2本のレンズを使用する機会を得たため、まずは「ライカ ズミルックス M f1.4/50」のレビューをご紹介したいと思います。
撮影にあたり、ボディは「ライカ M11モノクローム」を使用しています。

F1.4・1/1000秒・ISO125・-1.3EV
F1.4・1/1000秒・ISO125・-1.3EV

旅行2日目の朝、霧雨の中このレンズを持って撮影に出かけました。

島の最東端を目標に「何となくこっちかな?」と、直感を頼りに迷路のような細い路地を歩いていると、橋の手前の街灯に2羽の鳩が止まっていたので、ピントを合わせて開放で数枚撮影しました。
ピント面は柔らかさを含みつつもしっかりと写っているのですが、前後のアウトフォーカスの部分との分離があまり強調されないためか、全体的に柔らかい印象になりました。個人的に前ボケの柔らかさにオールドレンズらしさを感じます。

F1.4・1/250秒・ISO125・-0.3EVF1.4・1/250秒・ISO125・-0.3EV

こちらも細い路地での1枚。横道から帽子をかぶった男性が出てきたので開放で撮影しました。

私は普段ストリートスナップを撮る際に前ボケを意識することは殆どなく、撮影した写真を見返しても前ボケに目が行くことはないのですが、1枚目の写真同様、この写真もピントを合わせた部分よりも手前の柔らかいボケに目が行きました。強めの収差を感じさせるこのレンズの前ボケは、f0.95のノクティルックスとは違う「ドリーミーな雰囲気」を写真に足してくれるように思えました。ノクティルックスが夢の中を切り撮ったような描写と評されているのを聞いたことがありますが、そういった表現と比較するのであれば、こちらのレンズで撮影した写真は、古い記憶を思い出そうとしたとき頭の中に思い浮かぶイメージを切り撮った描写のように感じました。
個人的に好みの描写なのですが、その描写に気づいたのは自宅のモニターで写真を開いてからだったので、滞在中にもっと前ボケを意識した構図で撮れば良かったと、写真を見返して後悔しました。

Mモノクローム・ズミルックスMf1.4/50 F1.4・1/2000秒・ISO400・+0.3EVMモノクローム・ズミルックスMf1.4/50
F1.4・1/2000秒・ISO400・+0.3EV

Mモノクローム・ズミルックスMf1.4/50 F1.4・1/60秒・ISO400・-0.3EVMモノクローム・ズミルックスMf1.4/50
F1.4・1/60秒・ISO400・-0.3EV

上の2枚の写真は初代のMモノクロームと2代目のズミルックス50mmの組み合わせで、10年近く前に撮影したものです。
機材もシチュエーションも違いますし、コーティング等も違うでしょうから厳密な比較にはなりませんが、いずれも現行レンズにはない柔らかさを感じます。同じレンズ構成でありながら前ボケの描写が違うようにも思えますが、今回の復刻レンズの表現はより素晴らしいと感じました。
また、これはボディ側の話になりますが、個人的には6000万画素の現行モデルで撮影した写真のほうが奥行き等の立体感があるように見えます。

F1.4・1/3200秒・ISO125・-0.7EVF1.4・1/3200秒・ISO125・-0.7EV

F1.4・1/3200秒・ISO125・+1.0EVF1.4・1/3200秒・ISO125・+1.0EV

島の東部を周ってから中心部のリアルト橋に着くと、仮面をつけてゴンドラに乗っている方達が目に留まりました。普段であればf5.6辺りまで絞って撮影するようなシーンだったのですが、あえて開放にしてゴンドラに乗っている人物にピントを合わせ、奥に見えるゴンドラやボートに重ならないタイミングを待ってシャッターを切ってみました。
現行レンズに比べ、やはりピント面の描写も柔らかく背景のボケとの分離が緩やかで、芯はありながらも「シャープに写っている」とまでは言えない描写なのですが、拡大して見たところ、独特な立体感を感じました。数多あるオールドレンズの中から復刻レンズとして選んだのはそういった描写特性からなのでしょうか。

F1.4・1/125秒・ISO2000・-0.7EVF1.4・1/125秒・ISO2000・-0.7EV

F1.4・1/125秒・ISO2500・-0.7EVF1.4・1/125秒・ISO2500・-0.7EV

15時過ぎに一度ホテルへ戻り仮眠をとってから、夜の撮影に出かけました。
島の中心部へ向かい運河沿いを歩いていたところ、対岸を速足で歩く女性を見かけたので、良さそうな背景の場所でカメラを構えて待ち、人物と背景の重なりを意識しながらシャッターを切りました。

私は平面的な構図の写真が好きで普段からこの様な写真を撮ることが多いのですが、手持ちの非球面レンズ採用のレンズで撮影した同じ構図の写真と比べると、「フィルムライク」とまではいきませんが、昔のデジカメで撮ったような、いわゆる「エモい」写真になったように感じました。

F1.4・1/160秒・ISO400・-1.7EVF1.4・1/160秒・ISO400・-1.7EV

F1.4・1/125秒・ISO2000・-1.3EVF1.4・1/125秒・ISO2000・-1.3EV

F1.4・1/160秒・ISO1600・-1.3EVF1.4・1/160秒・ISO1600・-1.3EV

ベネチアは観光客が多いためかレストランの数も多く、レストランの裏路地で椅子に座って休憩している方を多く見かけます。スマホが当たり前の今の時代は皆さん当然のように画面を見て時間を過ごしているようでしたが、携帯電話が普及する前は何もない狭い通路で何をして時間をつぶしていたのだろう?などと思いながら撮影した1枚です。

F1.4・1/250秒・ISO125F1.4・1/250秒・ISO125

F5.6・1/400秒・ISO125・-1.0EVF5.6・1/400秒・ISO125・-1.0EV

濃い霧に覆われた日の午前中、リアルト橋に近い市場を撮影していると、買い物を終えて水上バスを待っている方たちを見かけました。ここまで、レンズの特性が分かりやすい開放での撮影ばかりをしていたので、この時はf5.6まで絞って撮影をしました。絞ると当然シャープな描写になりますが、このレンズで絞って撮影した写真は硬さを感じません。
どのような作風に仕上げるかにもよりますが、少し柔らかめに写っているRAWデータの画像は編集アプリでの調整がしやすく、思いのほか編集に向いていると感じました。特にフィルム写真のように仕上げたい方にはメリットになると思います。

初期のズミルックスや、その前身と言われるスクリューマウントの50mmのズマリットは個性の強い描写が特徴でしたが、復刻された「ライカ ズミルックス M f1.4/50」は、そういった強い個性を感じさせない描写だと、今回の試写で感じました。こういうと特徴が無いレンズのように聞こえてしまいそうですが、「懐かしい雰囲気の写真が撮れるレンズ」「良い塩梅の写真が撮れるレンズ」、などと言えばよいでしょうか。「パッと見て好きな描写の写真が撮れるけど、描写の良さを言葉にするのが難しいレンズ」というのが正直な感想です。

以前2代目のズミルックス50mmを使用していた時は、ノクティルックスやアポ・ズミクロンの50mmに憧れていたこともあり、あまり個性を感じない描写に飽きてしまい1年半ほどで手放してしまったのですが、手持ちが非球面レンズ採用の現行レンズだけになった今改めてこのレンズを使った事で、印象的な前ボケや柔らかい描写等、現代のレンズにはない描写の良さを実感することが出来ました。今回撮影した写真を見返してみて「過去にこういう雰囲気で撮りたかったシーンもあったな」と感じたので、使っていたから分かることではありますが、購入する順番が逆だったのかもしれません。しばしば同じレンズを買い戻す方の話を耳にしますが、その気持ちが分かった気がします。

現代的な50mmの描写に憧れている方にはまずは現行のMレンズを手に入れることをお勧めしますが、現行の非球面の50mmレンズをお使いで50mmという焦点距離がお好きな方や、球面レンズで構成されている「ライカ ズミクロンM f2.0/50」をお考えの方にはこのレンズも候補にいれていただき、何故復刻レンズとして選ばれたのか、現行レンズとの違いを探ってみていただくのも面白いかもしれません。


Photo by Leica Camera Japan Staff




クラシックシリーズの明るい標準レンズ