Mレンズの実力
LEICA APO-SUMMICRON-M f2.0/90mm ASPH.
From Leica Style Magazine Vol.15
居酒屋さんの看板の上に置かれた招き猫を撮影したが、90mmという焦点距離なら背景の光点ボケがこれだけ効果的に活かせる。
ライカM (Typ240)・f2.0・1/45秒・ISO 1600・WBオート・RAW
LEICA APO-SUMMICRON-M f2.0/90mm ASPH.
高い光学性能を持った贅沢な1本
フォトグラファー 河田一規
ライカ アポ・ズミクロンM f2.0/90mm ASPH.は、1998年に登場した大口径中望遠レンズ。特徴は、F2クラスの中望遠レンズとしてはかなりシンプルな5群5枚というレンズ構成になっていることだ。「レンズ構成枚数は多いほど高性能」と思い込んでいる人もいるが、実はそうではない。レンズ枚数が増えれば増えるほど光と接するレンズ面が多くなり、その際レンズ表面で必ず起きてしまう反射による透過率の低下が避けられないからである。
もちろん、最新のコーティングを施せば透過率の低下は最小限に抑えられるが、それでもできるならばレンズ構成枚数は少ない方が有利というわけ。ただし、やみくもにレンズ構成枚数を少なくしてしまうと各種収差を十分に補正することができず、別の問題が顕著化してしまうのも事実だ。そこで、アポ・ズミクロンM f2.0/90mm ASPH.では、5枚のレンズのうち、2枚に高屈折率レンズ、2枚に異常部分分散レンズを採用することで、少ないレンズ構成枚数ながら各種収差を十分に補正することに成功している。
つまり贅沢な硝材を惜しみなく投入することで、レンズ構成をシンプル化しているのだ。こういう設計手法はコストで汲々としているメーカーではなかなか実現できず、ある意味、ライカだからこそ実現できたレンズといえる。
光学的なもうひとつの特徴は、中望遠レンズであるにもかかわらずアスフェリカル、つまり非球面レンズを採用したことだ。今でも単焦点中望遠レンズへの非球面レンズ採用は非常に珍しいが、このこともレンズ構成のシンプル化に寄与していることは間違いなく、ライカの光学設計技術の高さがうかがい知れる。
実際に使ってみると、大口径レンズならではの線の細い、非常に繊細でシャープな描写を堪能できる。15年ほど前の設計なので最新とはいえないわけだが、それでも解像感や合焦部分における像の立ち上がりの鋭さに不満はない。また、中望遠レンズで重要なボケ描写も素晴らしく、周辺部分でもボケ像が圧縮されず、ナチュラルにアウトフォーカスしていく様は官能的でもある。
ライカM[typ240]・f8・1/3000秒・ISO3200・WBオート・RAWライカM (Typ240)・f2.0・1/1000秒・ISO 200・WBオート・RAW
実用的な意味では、ライカMの登場により大口径レンズや望遠レンズの使い勝手が大きく向上したことも、本レンズの価値を引き上げたと思う。ライカMで実用化されたライブビューを活用することによって、ボケ具合を確認しつつより正確にピントを合わせることが出来るようになったからだ。フィルム時代から銘レンズと評されてきた本レンズだが、ライカMとのペアリングにより、また新しい時代を築いていくことになるだろう。
1本で多彩なシーンに対応
同クラスとして初めてアポクロマートレンズと非球面レンズを採用。絞り開放でもきわめて鮮やかで高解像の描写ができるほか、周辺光量の低下も最小限に抑制する。90mmレンズとしては明るいタイプなので、遠距離からのスナップなどの光量の少ないシーンでも、シャッタースピードを比較的速くしてブレを極力抑えることができる。非球面レンズの採用によって、絞り開放でも画面中央部と周辺部の解像力の差は最小限に抑えられている。レンズ性能的にはF5.6でほぼマックスに達する。
アポ・ズミクロンM f2.0/90mm ASPH.
ブラック
TECHNICAL DATA ライカ アポ・ズミクロンM f2.0/90mm ASPH.
画角
| 画角(対角線、水平、垂直) | 35mm判(24×36mm) 27°、23°、15° |
|---|
光学系
| レンズ構成 | 5群5枚 |
|---|---|
| 非球面レンズ | 1枚 |
| 入射瞳位置(第1面からの距離) | 58.6mm |
撮影設定
| 撮影距離 | 1 ~ ∞ |
|---|---|
| 目盛り | メートル及びフィート表示 |
| 最短撮影範囲/最大撮影倍率 | 35mm判 約220×330mm / 1:9 |
絞り
| 設定方式 | クリックストップにより設定 (1/2 ステップ) |
|---|---|
| 最小絞り | F16 |
| 絞り枚数 | 11枚 |
その他
| レンズマウント | すばやい着脱が可能なライカMバヨネット、デジタルMカメラ識別6ビット・コード付き |
|---|---|
| フィルターマウント | 内側にねじ込み式フィルター用のねじ、非回転式、フィルターサイズ E55 |
| レンズフード | ねじ込み式 (付属) |
| 本体仕上げ | ブラックアルマイト仕上げ |
寸法・質量
| 先端からバヨネットフランジまでの長さ | 約 78mm(レンズフード装着時) |
|---|---|
| 最大径 | 約 64mm |
| 質量 | 約 500g |

フォトグラファー 河田 一規 (かわだ かずのり)
1961年横浜市生まれ。
小学3年生の頃、父親の二眼レフを持ち出し写真に目覚める。
10年間の会社勤めの後、写真家、齋藤康一氏に師事し、4年間の助手生活を経てフリーに。
雑誌等の人物撮影、カメラ雑誌での新機種インプレッション記事やハウツー記事の執筆、カメラ教室の講師等を担当している。