Mレンズの実力
LEICA NOCTILUX-M f1.25/75mm ASPH.
From Leica Style Magazine Vol. 29
アウトフォーカス描写はクセがなくとてもナチュラルな印象。合焦部のシャープさは絞り開放とは思えないほど鋭い。
ライカM(Typ240)・f1.25・1/180秒・ISO800・WBオート・RAW
LEICA NOCTILUX-M f1.25/75mm ASPH.
甘美なアウトフォーカス描写を楽しめる「特別」なレンズ
フォトグラファー 河田一規
数あるライカレンズの中でも「ノクティルックス」というレンズ銘が持つ言葉の響きは特別だ。筆者などは「ノクティルックス」と聞いただけで、幽玄なボケ味の中に超繊細なピントが立ち上がる、あの独特の描写がパブロフの犬のように条件反射的に頭の中に浮かび上がってきてしまう。そんなノクティルックスは代々50mmだけの展開だったが、新たに75mmが登場した。開放値はf1.25で、現行ノクティルックス50mmのf0.95に比べると少しだけ暗いものの、焦点距離が長いぶんノクティルックス50mmより被写界深度は浅くなる。
実際にM型ライカに装着して使ってみると、これがまた驚くほどスリリングだ。何がスリリングかというと、深度の浅さからフォーカシングが非常にシビアで、ピントを合わせるときには息を止めて目を大きく見開き、最大限の集中力が必要とされるのがとてもスリリングなのである。
しかし、そうやって苦労してピントを合わせた代償として得られるのは、まさしくこのレンズでしか得られない、特別なノクティルックスワールドである。決して楽に写真を撮らせてくれるレンズではないけれど、苦労しても使いこなしたいと思わせてくれる強力なオーラがあるし、何よりもM型ライカの精密感溢れる距離計と真剣に対峙するのはとても楽しい作業だ。
もちろん、撮影の目的や種類によってはもう少し楽に撮りたいときもあるだろう。その場合、ライカM(Typ 240)以降のM型であればライブビューに切り換えて拡大表示を使うと随分楽になる。また、このレンズが得意とするポートレートで使うのなら、マウントアダプターを介してライカSLと組み合わせるのもいい。世界最高レベルの解像性能を持つライカSLのEVFならピントはより楽に合わせられるし、決して軽くはないレンズとのホールディングバランスも優れている。
ライカM(Typ240)・f1.25・1/60秒・ISO1250・WBオート・RAW
実際にライカSLに装着してアップから全身ショットまで相当数のポートレートを撮ってみたが、ピントを外してしまったカットはほとんどなく、撮影そのものも非常にテンポ良く楽しく行えた。ノクティルックス75mmとライカSLの組み合わせはライカのwebサイトにも「パーフェクトマッチ」というコピーがあることからもわかるとおり、本当に相性がいいのだ。
M型ライカ、ライカSLのどちらで使ってもそれぞれ良さのあるノクティルックス 75mmだが、ポートレート以外のスナップで使う場合はライカSLではなくM型ライカと組み合わせる方が個人的には楽しいと思う。前述したとおりピント合わせは大変だし、レンジファインダーの常でボケの様子もまったく確認できないが、それ故に思わぬ結果を得られるレンジファインダーの撮影は「ライカ冥利につきる」と思うのだ。この場合、接眼部に取り付ける純正アクセサリーのマグニファイヤーを使えばファインダー倍率が上がり、レンジファインダーならではの愉悦をキープしたままピントの合焦率も上げられるのでお勧めである。
低光量下でも威力を発揮する超大口径レンズ
50mmにしか存在しなかったノクティルックスとしては初の75mm。レンズ構成は6群9枚で、そのうち後方の2群3枚は撮影距離にかかわらず画質を維持できるようフローティングする仕組みになっている。取り外し式の三脚座が付属する。
f1.25という大口径にもかかわらず、絞り開放からMTF曲線は優秀で、画面中央部はもちろん、周辺部でも解像は高い。
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TECHNICAL DATA ライカ ノクティルックス M f1.25/75mm ASPH.
画角
画角(対角線、水平、垂直) | 35mm 判(24 × 36mm) ( 32°、27°、18°) |
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光学系
レンズ構成 | 6群9枚 |
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撮影設定
撮影距離 | 0.85m〜∞ |
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目盛り | メートル及びフィート表示 |
最大撮影倍率 | 35mm判 約212 × 318mm/1:8.8 |
絞り
設定方式 | クリックストップ (1/2 ステップ) |
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最小絞り | F16 |
絞り枚数 | 11枚 |
その他
レンズマウント | すばやい着脱が可能なライカMバヨネット、 デジタルMカメラ識別6ビット・コード付 |
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フィルターサイズ | E67 |
レンズフード | ねじ込み式の金属製レンズフードを付属 |
本体仕上げ | ブラック |
寸法・質量
先端からバヨネットフランジ までの長さ |
約91mm |
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最大径 | 約74mm |
重量 | 約1055g |
フォトグラファー 河田 一規 (かわだ かずのり)
1961年横浜市生まれ。
小学3年生の頃、父親の二眼レフを持ち出し写真に目覚める。
10年間の会社勤めの後、写真家、齋藤康一氏に師事し、4年間の助手生活を経てフリーに。
雑誌等の人物撮影、カメラ雑誌での新機種インプレッション記事やハウツー記事の執筆、カメラ教室の講師等を担当している。