My Leica Story
ー HIRO EDWARD SATO ー
ライカ大丸心斎橋店およびライカ岩田屋福岡店では、国内外問わず、ポートレートをはじめコンサートからスポーツまで幅広い分野での撮影を行う写真家HIRO EDWARD SATOさんの写真展『YU HAYAMI IN MONOCHROME AND COLOR』を開催中(会期は2023年11月2日まで)。
展示された作品は、ライカM11とライカM11モノクロームで撮り下ろされたもの。使用したレンズは現行品だけでなく、1950年代の物もあるとのこと。そこでHIROさんとライカとの関係や、ライカの印象についてお話をうかがいました。
text: ガンダーラ井上
――本日は、お忙しいところありがとうございます。今回の展示は早見優さんを被写体に、アーティスティックな雰囲気のポートレートをカラーとモノクロを織り交ぜて撮影されています。このことに加え、車好きを唸らせるような選定のクラシックカーも登場していますね。
©HIRO EDWRD SATO
「ロデオドライブのショップオーナーである原さんに往年の名車をご用意していただきました。このオースチン・ヒーリーは原さんが生まれた1956年に製造されたものです。だから、それを撮影するレンズも同年代のものを探そうと思い、手に入れたのがエルマリートM f2.8/90mmです。たまたますごく綺麗なものを見つけたので最高じゃないかと思って即決しました。製造年はピッタリ1956年がよかったのですが1959年製造のものです」
――クラシックカーもライカも、製造年と自分の生まれた年を重ね合わせることができるのが面白いですよね。
自分の生まれ年のライカレンズも入手
「そのあと自分の生まれ年の1970年代初頭に製造されたエルマリートM f2.8/90mm も手に入れたのですが、50年も経っているのにこんなに綺麗ですからね。すごいですよね」
――おお、カナダ製造のブラック鏡筒が精悍な印象で格好いいですね! でも、どうして2本目を入手されたのでしょう? 焦点距離もf値もレンズマウントも同じですが‥。
1950年代と1970年代製造のエルマリート90mm
「1959年製の古いタイプは少しレンズの全長が長いので、この年代の方が小さくていいなと思って。90mmって使いやすい画角ですよね」
――それは視覚が鍛錬されている方の発言かなと思います。なかなか90mmって手に入れても頻繁に使うレンズではないという印象があります。ライカM型の光学式ファインダーはレンズを交換しても倍率は固定されているので、90mmの撮影フレームがすごく小さいので撮影時にもどかしさを感じます。
ビゾフレックスで中望遠レンズを使いこなす
「フィルム時代には使いにくい焦点距離だったのかもしれないですが、外付け電子ビューファインダーのビゾフレックスがあるじゃないですか。これがあるから90mmはアリだなと思ったんです。それまで僕はライカでは50mmばかりだったので、90mmはビゾフレックスを使うようになってからです」
――入手された2本の90mmは、どちらもフィルムしかなかった時代のレンズですが、電子ビューファインダーのビゾフレックスと併用することで実戦に投入できるようになったということですね。
「それに、今ならライカのレンズとしては穴場的な値段で手に入れられます(笑)」
仕事カメラとしてのライカの使い方
――仕事の撮影でライカを使われることもあるのですか?
「基本ポートレートはライカで撮っています。他社のカメラはどちらかと言えば映像制作です」
――動画も制作さているのですね。
「静止画の撮影では、コンサートの撮影などでパシャパシャ撮らなければいけないときは他社のカメラを使うことが多いです」
――AFのスピードと連写性能で勝負でということですね。
「そうです。だけど、ゆったりと動きの少ないコンサートもあるので、その場合は135mmとか75mm、今だったら90mmを使ってライカで撮ることもあります。そういうセットで撮影していると、こいつ何をやっているんだ?という感じで珍しがられますけどね」
――M型ライカに小ぶりな中望遠レンズの組み合わせは、仕事のカメラマンとしてはかなり軽装備に見られますよね。
「でも、ポートレートを撮る時も、いろんな芸能人に面白いカメラですねと興味を持ってもらえて、『それ、フィルムカメラですか』とか聞かれることもあるので、話すきっかけができて、友達になりやすいんですよ。だからライカは友達を作るツールでもあります(笑)」
初めてのライカと、デジタルのライカ
――ライカとの出会いは1990年代で、ライカM6を使われていたそうですね。デジタルのライカは?
「デジタルは最初に出たライカM8から使っていますよ。ライカM8、ライカM9、それからライカM(Typ240)。だけどTyp240で満足してしまって、その後はライカM11まで買い替えていなかったです」
――デジタル初号機のライカM8は、使いこなしが難しいカメラでした。
「化繊の服がモアレを起こしてしまって撮れないとかね。UV/IRフィルターを全部のレンズにつけなきゃいけないとか。でもライカが好きな人は不完全であることも好きみたいだから、ハレーションを起こしていてもオールドレンズの良さだとか評価して、自分も含めポジティブですよね。だからライカM11がこんなにパーフェクトになってびっくりしました」
常用の標準レンズは新型のズミルックス
――お気に入りといえば、新型のズミルックスM f1.4/50mm ASPH.を絶賛されていましたね。
最近のお気に入りはズミルックス50mm
「この50mmは特別です。45cmまで寄れるので子供とかを撮るのに近寄れます。新しいズミルックスM f1.4/50mm ASPH.はホールド感がいいですよね。すこし直径が大きくなったので長さと太さのバランスが良くて持ちやすいです。アポ・ズミクロンM f2/50mm ASPH.は細身なので、僕にはズミルックスM f1.4/50mm ASPH.の方が使いやすいんです」
――では、そのズミルックスで撮影された作品を見ていきましょう。焦点距離は50mmですが、これはピントの深度が浅いこともあって望遠レンズっぽく見えます。
©HIRO EDWRD SATO
「スタジオ撮影とは違って、屋外の撮影では1段絞ることもありますけれど基本的には絞り開放で撮っています。絞り開放付近でのレンズの描写力がライカの良さなのかなと思っています」
―― 一方で、歩道橋の作品は広角っぽい感じがします。写真学校の1年生は50mmの標準レンズ1本だけで望遠っぽい写真と広角っぽい両方を課題で撮ってきなさいと言われて悩むそうですが、この2枚はできている!と思いました。50mmレンズを使いこなすというのはこういうことなのかと。
©HIRO EDWRD SATO
「あまり意識したことはないですけれど、言われてみればそうですね。結局、レンズを変えるのではなくて自分が動けばいいだけなんです」
ライカM11モノクロームの実力
――モノクロームの作品で使用したライカM11モノクロームはどうでしたか?
「とてもいいですね。仕事ではモノクロの依頼はほとんどないのですけれどすごく好きです」
――展示作品はカラーとモノクロームが混在していても何の違和感もなく馴染んでいて、どちらかが強いということがない印象です。
「それがライカの良さですよね。画像も、それほど触っていないです。基本的にあまりいじらず、ほんの少しだけですね」
©HIRO EDWRD SATO
――他のデジタルカメラで撮ったモノクロームの感じと違って、ライカのモノクローム撮影専用機の出してくる画像は柔らかい印象があります。
「実際に比べてみると、ライカM11で撮影したカラーの画像をモノクロ変換すると硬い印象です。モノクローム撮影専用機であるライカM11モノクロームで撮影した画像はグラデーションが綺麗ですね。だから仕事でももっとモノクロの依頼をしてほしいですよね。あまりないからこそオシャレなのにね。クライアントも、もうちょっと個性を持った方がいいんだけど(笑)。だからモノクロの良さを広めたいですよね」
――HIROさんは20世紀の終わりごろから数々のカメラを使ってこられていますが、ライカとそれ以外のカメラの違いはどこにあると思われていますか?
ライカの良さはシンプルであること
「日本のカメラはメーカーによって出てくる色は多少違いますが、味がない。だから商業的には最高だけれど面白みがないですよね。普通にお金を作ってくれる機械という印象です。マニュアル露出で撮っているから、どんな最新機能が付いていても使ったことがないんですよ。ボタンもありすぎるほど多い。それに対してライカは最小限じゃないですか。シンプルイズザベスト。なおかつ小さいし、そのような意味では最高のカメラですよね」
――さらに、自分の同い年のレンズを最新のデジタル機で使うこともできます。
「そうですね。あとは高級感。ライカを知っている人なら絶対に声をかけてくれるじゃないですか。ライカぶら下げている人を見ると、センスいいなぁと思いますよね(笑)。ライカって、あんまりダサい人が持っていないんですよ」
――ライカを持っている人って、写真に対して真剣なんだろうなという感じがします。
ライカは不必要なカットを撮らせない
「ライカのカメラでファインダーを覗くときには、シャッターをやたらと押さない気がします。今のカメラはいくらでも連写ができるけれど、ライカではデジタルになったからといって無闇にシャッターを押さない。フィルム時代とあまり変わらないみたいな。だから自然とカット数も少なくなります」
――それはお仕事の場面でもそうですか?
「そう。オートフォーカスで撮っているとカシャカシャ撮れるからモデルも延々と動いている。だからずっと撮らないといけない。動画から切り抜いているのと同じで僕はああいうのはダメです。M型ライカで撮影すれば、そういう撮り方にはならない」
――M型のデジタルカメラは元々無駄な機能やボタンもないし、撮影現場でも無駄なカットを沢山作ってしまうこともないのですね。今後欲しいと思っているライカの機材はありますか?
大口径標準レンズ、ノクティルックスへの憧れ
「実際に仕事で使うのかと言えば使わないかもしれないけれど、Mレンズの大口径標準レンズのノクティルックスに興味がありますね」
――ライブパフォーマンスをHIROさんがノクティルックスの絞り開放で撮っている姿を想像するとゾクゾクしますね。ちなみにノクティルックスM50mmにはf0.95モデルと復刻されたクラシックタイプのf1.2がありますが、どちらが気になりますか?
「どちらにも興味ありますよね。どっちがいいのかな。f0.95のモデルは重そうだなというのはありますけれど凄いだろうなとは思うし、どちらも使ったことがないので興味があります。でも子育てが終わってからかな。とりあえず大学行かせないと。2人ともアメリカにいるので円安で学費も大変です(笑)」
――まずは子供の巣立ちを見届けてから、夢の大口径標準レンズへの道を進むということですね。今日はクラシカルな中望遠レンズの使いこなしから最新レンズの印象まで、実際の撮影で役立つお話が聞けて楽しかったです。どうもありがとうございました。
「こちらこそ、どうもありがとうございました」
写真展 概要
タイトル: YU HAYAMI IN MONOCHROME AND COLOR
期間 : 2023年7月1日(土)- 11月2日(木)
会場 : ライカ大丸心斎橋店
大阪府大阪市中央区心斎橋筋1-7-1大丸心斎橋店 本館6F Tel. 06-4256-1661
開館時間: 10:00-20:00
>>写真展詳細は こちら
期間 : 2023年8月1日(火)- 11月2日(木)
会場 : ライカ岩田屋福岡店
福岡県福岡市中央区天神2-5-35 岩田屋本店 新館B2階 Tel. 092-752-1280
開館時間: 10:00-20:00
>>写真展詳細は こちら
HIRO EDWARD SATO プロフィール
英国⽣まれ⽶国育ちの写真家・映像作家。
国内外問わず、ポートレイトをはじめ、コンサートからスポーツまで、幅広い分野で撮影を⾏う。ナチュラルかつ繊細に描写する写真を得意とし、広告、新聞、雑誌など多くの媒体で使⽤されている。
また近年では、ミュージック・ビデオやコマーシャル、⾃治体や企業プロモーション動画などの制作にも力を入れており、特にドローンを使った空撮映像を織り交ぜながら、独自の世界観を生み出しているのが特徴的。エンターテインメント業界で培った経験を生かしながら、常に視聴者の興味を引くような「遊び⼼」を意識した作品づくりを心がけている。
2022年まで、アトランタを中⼼にアメリカ各地で撮影活動を⾏っていたが、2022年より⽇本に拠点を移す。