My Leica Story
ー 写真家 佐藤健寿 ー  Part 1




民族から宇宙まで、幅広いテーマで世界各地を撮影するフォトグラファーの佐藤健寿さん。2021年12月に、過去20年にわたる旅の道程を振り返る写真集『世界』を上梓する。この写真集に連動する写真展『世界 MICROCOSM』が、ライカギャラリー東京、ライカギャラリー京都、ライカGINZA SIXで開催中だ。そこでライカと佐藤さんとの関わりや作品作りについて、インタビューさせていただいた。

text:ガンダーラ井上


3会場で同時に開催中の写真展

――本日は、お忙しいところありがとうございます。さっそくですがライカの3会場での展示について、佐藤さんから解説をお願いします。

ライカギャラリー東京は『#places』=場所、ライカGINZA SIXは『#landscapes』=風景、ライカギャラリー京都は『#people』=人物というタイトルで展示させていただいています。

ライカギャラリー東京では、僕がこれまで撮ってきたなかで自分のテイストに一番忠実なものから気に入っている作品を選んでいます。ライカGINZA SIXに関しては、逆に今まで自分が出してこなかったタイプの風景写真です。風景ですが地名すらないような場所の写真がほとんどで、人に何がいいのか説明するのが難しいけれど自分がすごく好きな写真で構成していて、今回の展示において、自分の中では一番実験的なものでもあります。ライカギャラリー京都に関しては、これまで出会ってきた様々なシチュエーションでの人物写真を集めていますが、そこに“普通の人”はいないと思います(笑)。

――写真展を拝見して、いつも佐藤さんの写真はモチーフ自体がぶっ飛んでいるので、それに驚いてしまうところで止まっていたと痛感しました。じっくりプリントと向き合っていくと1点1点の写真のクオリティーがすごく高く、もっと早く気づいていれば良かったと思いました。

「そう言っていただけるとありがたいです(笑)。」

 

北朝鮮、平壌市内の地下鉄。これらの駅はもともと核戦争に備えたシェルターとして造られた。
©Kenji Sato


――この北朝鮮で撮影された写真、本当にすごいですね。こんな世界があるんだと驚くほかないです。色のトーンや全体の空気感にも震えます。これはライカで撮られていますか?


「この時は、ライカM9とライカM10を持って行きました。レンズは確かズミルックス35mmだったと思います」


――それはある意味で特殊というかマニアックというか、一般的には普通のプロ機材として認識されないカメラですよね。


「そうですね。全部の写真がそうだとも言えますが、ライカM9やライカM10で撮った北朝鮮のような国では、大きなカメラを持っていると皆に不必要な緊張を与えてしまいます。そのときライカの控えめさが相手を警戒させないと実感しました。それは内戦中のイエメンでも同じで、そのような場所に大きなカメラを持って入っていくと『ジャーナリストだ!』という風になってしまいます」


 


――政治的なメッセージ込みで撮影しようという意図がなくても、そう思われて標的にされる危険性があるのですね。

ライカは余計な情動を煽らないカメラ



「その点ではライカ、特にM型ライカは余計な情動を煽りません。それ以外にも、変な話ですが中東やアフリカでは国産一眼などの方が日本製家電のようによく知られているので泥棒に狙われやすい。そういう意味でも正直なところライカは安心ですよね」


――それは知る人ぞ知るブランドならではのエピソードですね(笑)。周囲の雰囲気を荒立てないことだけでなく、ご自身にとってもメリットがありますか?


「ライカが軽いことがいいと皆さん語っていると思いますが、僕の場合は本当に軽さによって得られるメリットが大きいのでかなり重視しています。旅の場合、撮影場所は目的地だけでなく、常に撮影のチャンスがあるからです。たとえば交通網の未発達な海外では特に、狭いバスなどに乗ってその土地の人々と一緒に移動をしなければならない場合もあります。そのときに大きな一眼カメラを持っていると周囲の好奇の目を集めてしまう。でも、そんな移動中こそ面白い瞬間があったりもします。そんなとき、いい画を撮るにはコンパクトなM型ライカは本当にベストで、混み合っているバスの中で首にかけていても問題ありません。ずっと手元に置いておけて、どのシチュエーションでも邪魔にならない。それが旅の中では本当に重要なのです」


 

愛用中のライカM10-Pサファリとアポ・ズミクロンMf2/50mm ASPH.


――そうやって世界中で撮影をしてきた佐藤さんが、写真に取り組み始めたきっかけについて教えてください。

「本格的に自分が意識してカメラを取り扱うようになったのは、日本の美術大学に行ってからです」

――大学の授業で写真のカリキュラムがあって、そこでカメラを手にした?

「写真の授業があるのでフィルムの一眼レフを買いましたが、僕は写真専攻ではありませんでした。音を入力してMIDI変換で映像を動かすなど、どちらかといえばメディアアート寄りの表現を専攻していました」

――そうすると、本格的に写真に取り組んだのはその後アメリカに留学された時からですか?


「大学はサンフランシスコだったのですが、アメリカのどこかの州を自分で決めて撮影してきなさい。という課題が出て、最初に向かったのがエリア51と呼ばれる場所でした。それはネバダ州にあり、UFO基地と呼ばれる施設があって、その昔、ゴールドラッシュで栄えた後に廃墟化した街が沢山あります。ネバダ州にはラスベガスやエリア51、そして核爆弾の実験が行われていた場所もあって、アメリカの訳のわからなさが凝縮していてアメリカの中で一番好きな場所です」


ネバダ州の光景が写真の原点に

 

アメリカ、ネバダ州のデスバレー。ロードサイドのあちこちに灼熱の太陽でエンストした車が放棄されている。
© Kenji Sato


――この作品も撮影地がネバダですね。空のトーンが独特で、ライカM8もしくはライカM9で撮影されたのではないかと推測しています。

確かに、初期の作品なのでその通りです。今回の写真集にも10カットは廃車が出てくるくらい好きなモチーフで、いまだに廃車を見つけると撮ってしまいます。ネバダは自分の写真の原点のような場所ですね」

――荒涼とした大地に人間の文明の痕跡が取り残されていて、極めてアメリカンなモチーフですけれど無常観というか東洋思想の諦観みたいなものも感じます。ところでコダック製のCCDを搭載したライカM8やライカM9の人気が再燃しているようですが、過去に主力としていた機材は全部手元にありますか?

「割と僕はコレクション欲が全然ないんですよ。常に使うものしか手元に置きたくないタイプなので。だから、これはもう使わないかなと思ったら割とあっさり売って、違う何か欲しいものにすることもあります。手離れはいいタイプですね。それもライカから教わったことかもしれません」

 現在はライカSL2、ライカM10-Pサファリ、ライカQ-Pを常用。

手放すことの意義をライカから教わる


「オールドレンズを漁っていた時期に、よく通っていた中古カメラ店にある日、大量の希少レンズが入荷していたことがあって。どうしたのかと尋ねると遺品整理によるものだとのことでした。僕も実際に昔のノクティルックス50mmF1のE58タイプを使っていて、それは僕よりも生まれ年が早いレンズでした。このとき、こういう昔のレンズを今自分が”所有”しているというのは幻想だなと思ったんです」

――それはコレクター的な物欲から脱した、気付きの瞬間ですね。

「このレンズを棺桶に持って入れないけれども、僕が死んでもこのレンズは生き残っていく。そうしてまた別の誰かの手に渡ることになるんですよね。だから、僕がお金を払って中古カメラ店から一時的に借りている、という気持ちで使っています。ライカのレンズって、そのくらいのスパンで生き残るものです。中古カメラ店で大量のノクティルックスが出てくるのを見るにつけ、結局コレクションしても無常ですから、今自分が使うものだけを手元に置くことにしたんです。だからカメラやレンズに限らず物を集めることはほとんどしないですね。」 



――ちなみにM型ライカは、デジタルのM8が最初のカメラだったのですか?

「アメリカに住んでいたとき、フィルム機のライカM6に ズミクロンC f2/40mm を付けたものが中古で確か2500ドルほどで出ていて、それを無理して買ったのが最初です。その後2006年にライカM8が出て、その年に買いました。それで一気にオールドレンズが楽しくなって雑誌の仕事にも使っていました」

――その後はフルサイズのライカM9へと進んで‥。

「そこから先はライカM(Typ240)、ライカM10と順当に手にしました。ライカSLも発売日に買っています。それまで海外に行く時はM型が中心でしたが、どうしても望遠が必要な時や海外の祭りなど動きのある被写体には一眼が欲しいことがあり、そういう条件での撮影には他社の一眼とアウトフィットを組んでいましたが、ライカSLが出た瞬間、これで全部ライカに揃えられる!とすぐに手にしました」


ライカSLのタフネスを実感


――TV番組“クレイジージャーニー”で、ネバダ砂漠のど真ん中で行われるアートイベントを撮影している佐藤さんを拝見しました。砂塵舞う中でライカSLを首からぶら下げて、真っ白い自転車で疾走する姿はSFの世界のスーパーヒーローみたいで格好良かったです。

 

アメリカ、ネバダ州で行われるバーニングマンの参加者。
© Kenji Sato

「ライカSLのプロモーションで、カメラを水で丸洗いしている動画を見たんです。相当に防塵防滴が強いと聞いてはいたのですが『本当にできるのかな』とビクビクしながら現地に持っていきました。ネバダで行われたアートイベント“バーニングマン”の撮影では1日でカメラが砂だらけになってしまったので、キャンピングカーに戻って恐る恐る水で丸洗いしました。でも全然大丈夫で、それがすごく助かりました。90-280mmのズームレンズと組んだライカSLでなければ、こんな撮影はできなかったかなと思います」

――ライカSLに、Mシステムのレンズを装着することもありますか?

「この溶岩口の写真は、ライカSLとMレンズのズミルックスf1.4/35mmの組み合わせです」

 

エチオピア北部にあるエルタ・アレと呼ばれるマグマが湧き上がる溶岩湖。かつては海底だった場所であり、世界一海抜が低い溶岩湖。
© Kenji Sato

――このようなシチュエーションで、望遠ではなく35ミリの広角で撮るということは、かなり周囲は危険な状態ですよね?

「溶け出している溶岩から2m程度の場所ですね。柵などは全くないんです。だから危ないんですが、ある意味ではそれが売りという場所でもある。僕が行った翌年にも噴火したそうです」

――すごい写真が撮れそうですが、運不運が試される場所なんですね。

「そうですね。溶岩の面は常に10mくらい上下していて、僕が行ったときには吹きこぼれそうな感じでした。足元もうねっていますし火の粉も飛んできます。この時は動画も撮りたかったのでライカSLで撮影しています」

――この状況で、スチルだけでなく動画も撮るんですか?

「あくまでメインは写真です。動画の用途は、写真展とか、イベントで喋るときにカット編集した素材を流したりするのに使います」

――この場所には、もしかしたら自分自身が彼岸に連れ去られてしまうかもしれない凄みを感じます。そのようなリスクがあるような場所を選んで、次々と世界のどこかに存在する撮影地に行こうとする佐藤さんの原動力はどこにあると思いますか?


写真を撮り続けさせる、内的な動機




「第一に自分が見たい、目撃者になりたいということに尽きると思います。今は経験を重ねて自分の写真の技術が追いついてきたので、それを本にしたり展示したり人に見せたいという気持ちも出てきてはいます。でも、どちらかといえばいまだに僕は自分が第一に見たいという気持ちが強いし、その方が欲求として間違いが無いと思っています。これを誰かに見せたら面白がるだろうという姿勢でやっていたら、動機が自分の外側にあるから多分飽きてしまうと思うんです。どこまで行っても自分が北朝鮮を見たいとか、そういう衝動に基づいてやっている。だから、僕は割と飽きっぽい方ですけれど長くできているのだと思います」

――カメラを持って世界中を駆け巡る目撃者というキャラクターは佐藤さんそのものですね。佐藤さんとライカとの関係や、ライカレンズで撮る理由をもっと詳しくお聞きしたいのですが、まだ大丈夫でしょうか?

「もちろんまだ大丈夫です。続けましょう」


My Leica Story -佐藤健寿-(Part 2)に続く

Photo By Y


写真展 概要

ライカギャラリー東京 (ライカ銀座店2F)

タイトル: 世界 MICROCOSM #places 
住所: 東京都中央区銀座6-4-1 Tel. 03-6215-7070
期間: 2021年8月26日(木) - 2022年1月25日(火)まで
展示内容: 世界各国のさまざまな場所や人工物に焦点を当てた作品14点


ライカギャラリー京都 (ライカ京都店2F)

タイトル:世界 MICROCOSM #people 
住所: 京都市東山区祇園町南側570-120 Tel. 075-532-0320
期間: 2021年8月28日(土) - 2022年2月3日(木)まで
展示内容:世界各地で生きる人々を捉えた作品15点


ライカGINZA SIX

タイトル: 世界 MICROCOSM #landscapes 
住所:東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 5F Tel. 03-6263-9935
期間:2021年8月26日(木) - 2022年1月12日(水)まで
展示内容:独自のユニークな視点で自然風景を切り撮った作品13点


究極の「旅」写真集『世界 MICROCOSM』会場限定特装版 ご予約受付中

写真展と同名を冠した、佐藤健寿の最新作となる写真集『世界 MICROCOSM』が12月15日より発売予定。

通常版とは異なる表紙で完全限定版となる<会場限定特装版>を、ライカギャラリー東京、ライカギャラリー京都およびライカGINZA SIXにてご予約受付中。


写真集『世界 MICROCOSM』

朝日新聞出版 / 608ページ
判型:B5 変型・上製・特殊装丁・箱仕様
会場限定特装版  予価18,000円(税込価格19,800円)
※会場限定特装版は通常版とは異なる表紙の完全限定版。
著者直筆サイン、通し番号が入るほか、特典として「世界」大型ポストカード三枚と「世界」ステッカーが付属する予定です。
数量限定、なくなり次第販売終了予定。



フォトグラファー

佐藤健寿

民族から宇宙まで幅広いテーマで世界各地を撮影。写真集『奇界遺産』シリーズは写真集として異例のベストセラーに。TBS系TV番組『クレイジージャーニー』他、メディアへの出演多数。
http://instagram.com/x51