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Lens of Tokyo -東京恋図 
with Leica SL2-S
Vol.1  ライカ バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.

Photo & text by 南雲暁彦

今やカメラメーカー各社でハイエンド機の標準ズームという⽴ち位置のF2.8/24-70mmという⼤⼝径ズームレンズだが、とうとう、ライカブランドからLマウントで登場した。ライカSL2-Sがフルサイズミラーレス2400万画素という最もハイレベルな激戦区に投⼊された事を考えるとこのラインナップ補完は必然だったとも⾔えるだろう。

さてこのレンズ、まずはいろいろなものを撮ってみて光学性能は⾮常に優れているのがわかった。どこが、ということではなく須くバランスがよい。ズームレンズだから便利なのは当然として、そのズームレンズとしてのネガが感じられない、全域で⾼画質である。

それならば何を撮っても機材に⾜を引っ張られることはなく作品制作に集中できる、という事なので、最近のFavorite workである「Lens of Tokyo」の続編を撮影することにした。カメラはライカSL2-Sである。


⼤事なことは感性を邪魔しないこと。

午後の⽇差しの中で勝鬨橋を撮影した。
周辺解像⼒の低いレンズや歪曲の⼤きいレンズ、フリンジが出てしまうレンズでは最も撮影を避けたい被写体である。


僕が表現したいのは、今の東京が作り出す新しい原⾵景になり得るその表情だ。太陽の位置が低くなり、⾃らの影をまとってコントラストが増しエッジのきいた勝鬨橋、⻘空をキャンパスに躍動感を持って頭上に広がるその姿を、あくまでリアルに美しく写し撮りたかったのだ。そしてそれはご覧のとおりバリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.によって⾒事に昇華されたと⾔える。

鉄⾻の⽴体感、緻密なボルトの再現⼒、影の中のディティール、広がる空や雲の距離感、その全てを意識せずに⼀枚の写真として受け⼊れさせるリアリティ。思った通りだ、このレンズはバランスがいい。

ライカSL2-S の特性でもあるが、「エッジの⽴ちまくったシャープさ」とか「⾒た⽬より鮮やかな⻘空」、とかそういう演出はない、⽬の前の東京の空や建造物に僕が感じた⾊と線が極リアルな写真として表現される。それでいい、というかこれは素晴らしいことだ。
歪曲やフリンジと同じように、この時の作家の感情に対して過剰な演出もいらない物なのだ。

⾼性能ズームじゃなくては撮れない⼀瞬がある。

この写真は⼩さな⽔⾯の写り込みを利⽤して撮影した作品だ。写り込みだけでも⾯⽩いポイントなのだが、⿃が⽔を飲みに来るのを狙って⼀緒に映り込ませることでよりシズル感のあるシーンを狙うことにした。


こういう⾃分の好きなアングルを⾒つけた時は「絶対に物にしたい」と思うのがフォトグラファーの⼼情で、ズームだから良い画質が出ないと諦めて「また今度」と思っても、もうその瞬間は⼆度と訪れないのを知っている。

またこのように⼩さな⽔鏡を利⽤していて⾃らが動いて画⾓を調整する事が出来ないシチュエーションの場合、欲しい画⾓に対してはレンズを交換するかズームレンズで調整するか、という事になるが、もちろんシームレスに画⾓を調整できるズームレンズが圧倒的リアルタイムに感性についてくる。

だからこの⼀期⼀会に対峙する時、フォトグラファーには明るい開放の⾼画質なズームレンズが必要なのだ。このバリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH. はまさにそういうレンズだと⾔える。

画して、僕が思い描いた瞬間をしっかり物にすることが出来た。

「⼀瞬⾵が⽌み⽔⾯が整う。刹那、現れた⼆つの世界に⿃が⽻ばたいていく。」

短いシャッターチャンスの中で⾼画質、⾼機動⼒を発揮できるこのレンズは、まさにプロの標準レンズだなと思ったそんな1枚である。

またこのレンズはライカSL2-S に装着した時の重量バランスがすごく良い、ちょうど重⼼が真ん中にくるような感じでフロントヘビーにもリアヘビーにもならない。上記のシーンのような三脚も使えず、⽔⾯ギリギリに構える時にもそれはとても重要な事で、画⾯の安定や疲労度の軽減に⼤きく影響してくる。

さらに防塵・防滴性能は安⼼感を与え、フォーカス切り替えなどのスイッチが無いミニマルなデザインもそこに⽔がかかったら、という⼼配を無くし、やはり僕が求めるシンプルな撮影スタイルに貢献している。

AF は素早く精度も⾼いので切り替えることも少ないし、ライカSL2-Sのファームアップで⼈物の認識などにも対応したので、基本的に僕は切り替えて使うことはなかった。また純正のメタルフードは軽く堅牢でこれも撮影に安⼼感と⼀体感をもたらしてくれる。

LEICA Maestro III とのコンビネーションで⽣まれる絶妙なコントラスト


ライカSL2-Sの得意な⼣景、夜景の撮影にも連れて⾏った。「Lens of Tokyo」で撮影した時はまだこのレンズは発売されていなかったので、ここの繊細かつダイナミックな東京の⾵景でも使ってみたくなったのだ。

果たして、ここでもバリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH. の過不⾜のない性能が発揮された。
夜景の撮影というのはいかに⾃然に、それでも光をコントロールする「写真ならではの、⼈の⽬を超えた表現をするか」にかかっている。ここが昼間のスナップとは違うところだ。
ただしCG みたいにあざとい綺麗さはその場のリアル感を損なうし、逆にリアルすぎるとその時の記憶が華やかにならない。リアルのちょっと先、後で⾒たときに「そうそうそうだったよね、綺麗だった〜。いいカメラで撮るとやっぱり違うね」ぐらいな感じがいい。

ではそれはどうやってなされるか。まずはフォトグラファーがちゃんと美しい場⾯を美しいアングルで切り取る。その上で、⼈の⽬では追いきれない暗がりの街のディティールや、デリケートな空のグラデーションや⾊彩を少しだけ強調した絵作りを⾏う。

フォトグラファーがやるのはアングルとフォーカスと露出の制御で、実際の⾊の出⽅やコントラストのつき⽅と⾔った作品のテイストはレンズやセンサー、映像エンジンLEICA Maestro IIIによって基本が作られていく。

このLEICA Maestro III の絵作りは広いダイナミックレンジのデータを⼤胆に写真的な狭いダイナミックレンジに圧縮していくような感じがある。暗く締めるところはしっかり締めて、中間調はしっかりと⽴てる。そこに独特な写真的表現が⽣まれいく。実際はギリギリ潰れても⾶んでもいないデータなのだが「⾒たいのはここでしょ」と⾔わんばかりに⼤胆に主要被写体を浮き⽴たせてくるのだ。

そこで⼤事になってくるのは、そのもとになる光の情報量で、レンズの場合いかにしっかりディティールを解像し、グラデーションを残し、⾊を取り込んでいるか、総合して空間をちゃんと取り込んでいるかという事だ。シャープネスで作られたエッジや無理やり誇張された彩度やパースではない、この純粋で膨⼤な情報があってこそLEICA Maestro IIIは⼤胆にも豊かな「写真」を作り出していけるのではないだろうか。

単焦点のアポ・ズミクロンシリーズはもちろんそう⾔った意味で素晴らしい写真をもたらしてくれた。だがこのバリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH. も負けず劣らずの表現⼒を持っている。プライムレンズと全く同じとは⾔わないが、ズームレンズのみが可能にする微細なアングル設定と素直で確かな描写⼒、シンプルな操作性はフォトグラファーの創造⼒にしっかりとついてくる物だ。それをこの写真が証明してくれている。

以前ライカの開発者と対談したときに、「我々が求めているものはデジタルペインティングではなくフォトグラフィーなのです。」と⾔っていたのを思い出す。「最⾼のレンズが通してきた光をいかに素直にセンサーに導くか、それが⼤事なことです。」とも⾔っていた。まさにそういう事だと思う。

装着していることに迷いはない、そんな⼀本


バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH. を装着して⽇が⻄に傾く頃から夜にかけて歩きまくった。前述したがこのレンズ、ボディに装着した時の重量バランスがすごく良い。持って歩いている時もカメラを構えた時も重⼼がほぼ中央に来るので構えはピタッと決まるし振り回せる。またこうやってどんどん暗くなっていくシーンを⼿持ちで撮影していると1 段の絞りの明るさがかなり重要になってくるのだが、全域でf2.8 を使⽤出来るのはありがたい。おかげでボディ内⼿ぶれ補正だけでもブレることはなかった。この写真も歩き回ってアングルを探し⼿持ちで撮影した物だ。

また動画撮影においても重量バランスの良さはジンバルの調整を簡単にし、f2.8 固定はズーミングをしても露出が変わらないという利点が⽣まれることを記しておこう。

絞り開放から安⼼して使える描写⼒、豊かな空間表現、24mmでも歪曲は感じない、⼀昔前の⼤⼝径ズームとは隔世の感がある。明るさだけが売りだった時代はしっかりと過去になっていた。特にこのようなシーンでは広いダイナミックレンジを持ったライカSL2-S との相性は抜群である。

さて、今回の撮影もやはりレンズやカメラの存在を強く意識せず被写体に集中することができた。これはライカSLシステムを使っていていつも思う事であり、いい道具の証なのである。
   
今回紹介したこの4点の作品は、ライカ大丸東京店にて2021年9月4日より約半年間展示する事になった。 ライカSL2-Sとバリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.がどのように僕の撮影意欲を昇華させてくれたのか、是非プリントでその表現力をご覧になって頂きたい。


幅広い撮影シーンで活躍するライカSLレンズ

ライカ バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.」は、ルポルタージュをはじめ旅先やスタジオでの撮影、建築物、風景、ポートレートの撮影、さらにはクローズアップ撮影から動画撮影まで、さまざまな撮影シーンで活躍するズームレンズです。幅広い焦点距離とズーム全域で開放値F2.8という明るさが特長で、まさにオールマイティなレンズといえます。コストパフォーマンスにも優れており、ライカSLシステムにステップアップする際の最初の1本としても最適です。

 

ライカ バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH.商品ページはこちら


フォトグラファー

南雲 暁彦

1970 年 神奈川県出身 幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。日本大学芸術学部写真学科卒業。凸版印刷株式会社、ビジュアルクリエイティブ部所属 チーフフォトグラファー。世界中300を超える都市での撮影実績を持ち、風景から人物、スチルライフとフィールドは選ばない。近著「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意」。APA会員。長岡造形大学、多摩美術大学非常勤講師。