Everyday Carry
日々のルーティーンにライカを
ー bird and insect 阿部大輔 ー
©Daisuke Abe 阿部大輔氏の “Everyday Carry”
東京に出てきてから15年。
すっかり慣れきった雑感。
見たことはないのだろうけれど、どこかで見たことのあるものばかり。
今更惹かれるものもないが、けれど目を凝らせば凝らすほど、
知らない景色が見えてくる。
そんな街のような気がしている。
かつて、会社員としてアパレルメーカーで働いていた頃、
生活の楽しみといえば、写真を撮ることだけだった。
休みの日にはカメラを持ち、1日中、東京の街を歩き回った。
その頃から、根本的に撮りたい写真は変わっていないのかもしれない。
「ライカSL2 シルバー」と、「ノクティルックスM f1.2/50mm ASPH.」を携えて、
私はもう一度、東京を見る。
東京にはさまざまな光が溢れている。
それらの光を人工的に作り出そうとするのはきっと難しいだろう。
街には多くの反射物、そして、決して同じになることのない「動き」が行き交っている。
そういった様々な要素から作り出される光景は、きっと二度と目にすることがない瞬間になっていくのだと思う。
カメラを持たずに外に出ているときに、とても美しい瞬間を見つけることがある。
その様子をカメラに収めたくなり、同じ時間、同じようなタイミングで、再び同じ場所を訪れても、記憶にある光景には二度と巡りあえない。
写真という行為は一期一会で、一度撮り逃してしまえば、それが例え数分前のことだったとしても、覚えている記憶や感動はすでに消え去っているのだ。
今回の撮影で使用したレンズは、ずっと気になっていた「ノクティルックスM f1.2/50mm ASPH.」。
1966年から1975年にかけて製造されたM型レンズの復刻版だ。
F0.95でも、F1でもなく、浅くなりすぎないその開放値、またボケに現れる絶妙なざわつきが自分の好きなイメージを生み出してくれる。
「ライカSL2」との組み合わせにより、いつも愛用している「ライカM10」にはないシャッタースピード、ISO感度が日中の撮影でもNDを使わずとも開放値で撮影できる点で、より自分のスナップ撮影を手軽にしてくれた。
また、広いダイナミックレンジで、明暗の階調を幅広く描けることで、「ライカM10」よりもさらに深みのある画に仕上げることができる。
前回のEveryday Carryでも、どんなものにでも存在する美しさを題材としている。
東京という自分の住み慣れた街の中でも、特別ではない一片がとても魅力的に感じる時がある。
身の回りにある普段では気がつくことのできない美しさ。
それはもしかすると、自分だけしか満足できない価値なのかもしれない。
それでも、私は写真という行為を通じて、それを誰かにも知ってほしいし、自分自身が見ていたいのだ。
目の前にあるものが、どんな風に見えているのかではなく、
「どんな風に見てみたいか」が、写真を撮りたいという動機になり、自分らしい写真表現に繋っていくのだと思う。
仕事とはまた違った視点で写真を撮る。
その創作活動は、もしかしたら何の意味も持たないのかもしれないし、どこにも繋がらないかもしれない。
けれど、だからこそ何にも捉われず、自由の身のまま、表現を続けることができる。
誰の要望にも左右されず、自分が好き勝手に見てきた光が、これらの写真には写っている。
東京という街に改めて向き合ってみたが、結局見つけたいものは何も変わらず、これが私の撮りたい写真、見たい光景だったのだ。
「そこに在るということ」
特別な何かがあるわけではない。
きっと、どこにでもあるかもしれなかった、一片なのだと思う。
けれど、その時、その場所にいたことで、
そこでしか見れなかった一瞬が生まれ、
そこでしか撮れなかった写真が生まれた。
そこにはきっと、私の知らない過去があり、
光が、時間が、誰かが、何かが、存在しては消えていったのだと思う。
その繰り返しが日常であり、
そんな中に生まれた瞬間を、私はとても尊く感じているのだ。
使用機材:
ライカSL2 シルバー
ノクティルックスM f1.2/50mm ASPH. ブラック
ライカSL2 シルバー + ノクティルックスM f1.2/50mm ASPH. ブラック + L用Mレンズアダプター ブラック セット
阿部大輔
bird and insect Cinematographer / Photographer
1989年生まれ。
上智大学を卒業後 アパレルメーカーに7年間勤務。
2018年 趣味としていた写真を仕事にすべく、bird and insectに加入。
言葉にできない感情を、写真や映像で表現したい。