Everyday Carry
日々のルーティーンにライカを
ー bird and insect 阿部大輔 ー
©Daisuke Abe 阿部大輔氏の “Everyday Carry”
この仕事を始めてから5年あまり、一人で旅に出るのは今回が初めてだった。
仕事に少し余裕が出てきて、写真を撮ることの本来の楽しみを
もう一度見つめ直せる機会になればと思っていた。
今回訪れたのは、北海道。
仕事で何度か来たことはあったが、
プライベートでは初めてのことだ。
滞在先は、上川町という北海道の中央に位置する山々に囲まれた町。
大雪山の麓にあり、豊かな森にも恵まれている。
また町からは、道北、道東などへのアクセスも良く、レンタカーがあれば、
いろんな場所へ行くことができる。
上川町を拠点として、愛用の「ライカM10」と共に旅に出た。
レンズはズミルックス。35mm、50mm、90mmの3本を用意。
開放値を好んで使用することが多い私にとって、
持ち運びやすく、扱いやすく、それでいて、しっかりと線を描いてくれるレンズだ。
新たに登場した「ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.」の近接撮影も気になるところ。
出発からあいにくの曇り空だったが、ライカは暗部の階調表現に非常に強い。
逆にいえば、わずかな光しかない環境下であっても、その明部の階調を豊かに描くことができるということだ。
晴れの日よりも天気の悪い日の方が、思ってもみない写真が撮影できることが、ライカの特長でもあるのかもしれない。
わずかに漏れて、どこかから届く光を捉えてくれる。
ライカを持ち始めた以前から、暗めの写真を好んで撮る私にとって、一番自然体でいられる写真を撮ることができるのが、このカメラなのだ。
遠景であろうと、近景であろうと、50mm 1本で撮影することが多い私は、
アングルを探るというよりも、その場で気がついたものを写真に収めているという感覚が強いかもしれない。
そういう意味でも、目で見た感覚をそのままに切り撮ることができる50mmは、
私の一番お気に入りのレンズだ。
今回の撮影で使用したレンズも、そのほとんどを50mmで撮影している。
持ち出したのは新型の「ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.」。ライブビュー使用時の最短距離が45cmとなっており、これまでのM型レンズでは表現しづらかった世界観を切り撮れるようになったことも、とても魅力的だった。
50mmの次に多く使用したのが「ズミルックスM f1.5/90mm ASPH.」だ。
圧縮効果により、撮影方法によっては、遠近感を消失させ、不思議な世界観を作り出すこともできる。
私にとって「美しさ」とは、「どんなものにもあるはずの対等な価値」なのだと思っている。
絶景と言われる場所だから、有名な建造物だから、という理由で美しさを感じるわけではない。
目に見えるもの、存在するもの全てが、輝ける瞬間を持っているはずなのだ。
そしてそれを見つけて切り撮っていくのが、スナップ写真の醍醐味でもある。
今回の旅で様々な場所を巡ったけれど、結局どこへ行っても、撮りたいと思う瞬間は常に同じだということに気がついた。
「美しい」と感じた瞬間にシャッターを切る…
特別なものが見たいわけではない。絶景を写真に収めたいわけでもない。
どんな場所、モノにでも、美しさは存在する。
それを日常的に見つけていくのが、自分にとっての写真の楽しみ方なのかもしれない。
自分の中に生まれたそんな気づきとともに、私は今回の旅を終えた。
ライカを持ち運ぶ楽しみが、またひとつ増えた。
「そこにあるということ」
特別な何かがあるわけではない。
きっと、どこにでもあるかもしれなかった、一片なのだと思う。
けれど、その時、その場所にいたことで、そこにしかなかった一瞬が生まれ、
そこでしか撮れなかった写真が生まれた。
そこにはきっと、私の知らない過去があり、
誰かが、何かが、そこにいて、そこにあったのだと思う。
その繰り返しが日常であり、
そんな中に生まれた瞬間を、私はとても尊く感じているのだ。
使用機材:
ズミルックスM f1.4/35mm ASPH.<NEW> ブラック
・ズミルックスM f1.4/35mm ASPH.<NEW> シルバー
ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.<NEW> ブラック
・ズミルックスM f1.4/50mm ASPH.<NEW> シルバー
ズミルックスM f1.5/90mm ASPH.
阿部大輔
bird and insect Cinematographer / Photographer
1989年生まれ。
上智大学を卒業後 アパレルメーカーに7年間勤務。
2018年 趣味としていた写真を仕事にすべく、bird and insectに加入。
言葉にできない感情を、写真や映像で表現したい。