My Leica Story
ー 照屋寛倖 ー

ライカ松坂屋名古屋店では、美容師・フォトグラファー 照屋寛倖さんの写真展「纏う」を開催中(会期は2026年10月18日まで)。
ご自身が運営する美容室「in chelsea」に併設されたフォトアトリエでの撮影を中心に制作された一連の写真は、ライカとライカレンズによるもの。そこで、照屋さんとカメラ、そしてライカとの関係についてお聞きしました。

text: ガンダーラ井上


――本日は、お忙しいところありがとうございます。照屋さんの本業はサロン2店舗を展開しながら第一線で活躍されている美容師とのことですが、写真とどのような関わり方をされているのか教えてください。

ヘアスタイリングと写真との関係

「写真に取り組み始めたきっかけは、ホームページに載せる集客用のヘアカタログのようなものから始めました。それが面白くて業界で昔から開催されているヘアスタイリングに関するフォトコンテストにも挑戦したいと思うようになり、そのあたりから写真にどんどんハマっていくようになりました」

©Hiroyuki Teruya
©Hiroyuki Teruya

――美容師さんの技とアイデアが注ぎ込まれたヘアスタイリングの作品は、仕上がった次の瞬間にお客さんと共にサロンの外に出て行ってしまいます。それは何らかの形で定着しなければ記録に残らないし、プレゼンテーションしていくという意味でも写真が必要だったのですね。ところで美容の学校では写真の授業というのはあるのでしょうか?

「いや、全くなかったですね。美容師になって10年は写真を撮ることもなかったです。2010年頃に独立してから集客も考えなければいけないと思い、ちょうどSNSが流行り出した頃でもあったので、これは写真をやらなきゃいけないという気持ち、使命感がスタートでした」

――そのタイミングであれば、機材はデジタル一眼レフですか?

「最初は国産デジタル一眼レフのエントリーモデルとショートズームの組み合わせでした。写真を撮ってコンテストに出品するというのは美容業界で有名になりたかったからです。小さな店で有名になるには、コンテストで結果を出すのが一番だと思って撮り始めました。そこにのめり込んで結果が出るようになって、さらに撮り続けている感じです」

――コンテストで勝つにはスタイリングのトレンドの掴み方や技術など美容師としての素養もありますが、それがちゃんと写真になっているのも重要ですよね?

「そこはすごく重要だったので、当初はプロのカメラマンの人に自分の作品を撮ってもらっていました。その現場で撮影の様子を見て学ぶ部分もありました。自分が思ったようなイメージどおりの写真を撮ってくれるカメラマンを探すのも大変だったので、自分でやれるのではないかと思ったタイミングで挑戦してみたら結構いいのが撮れて『あ、やれるんじゃない?』という気づきがあり、そこからは自分で撮っています」

©Hiroyuki Teruya
©Hiroyuki Teruya

――こちらはコマーシャルフォト的なクオリティで、しかも広告写真であればクライアントが尻込みしてしまいそうな先鋭的でアグレッシブなイメージです。花を使ったメイクも照屋さんご自身がされているのですか?

「花はメイクアップアーティストで、ヘアの部分と全体のアートディレクションは僕がやっています。花びらは1枚1枚、まつ毛のエクステなどに使うメイクアップ用のノリでつけていましたね。この写真は毒っぽい感じを狙っています。インパクトが強いので大丈夫かなとも思いましたけれど、このビジュアルを今回のメインに据えました」

――撮影はご自身のフォトスタジオとのことですが、使用された機材は?

「このカットではライカSL2-Sにライカ ノクティルックスM f1.2/35 ASPH.で撮っています」

――よく観察すると、大口径レンズ特有のピントの浅さの中でバシッとピントが来ている部分はモデルさんの目ではなく髪の毛で繊細なニュアンスです。このあたりに照屋さんのヘアスタイリストとしての視点を感じさせる写真です。

モノクロ化することで表出するイメージ

©Hiroyuki Teruya
©Hiroyuki Teruya

――こちらの機材も同じですか?

「同じですね。ライカSL-2Sとライカ ノクティルックスM f1.2/35 ASPH.で撮っています。この写真はちょっと不思議な感じに髪を見せたくて、この場で髪をバツバツッ!と切って、まだ髪が床に落ちずにふわっと乗っている状態で撮りました」

――言ってみれば料理人が食材に包丁を入れた瞬間みたいなものですね!これはプロの美容師さんならではの写真になっていると思います。

「はい、そこが写せたらいいなと思って撮っています。切っているのはウィッグなので、まったく躊躇なくハサミを入れています。最初はカラーで行くつもりでしたが、もうちょっとムード感が欲しいと思ってモノクロにしてみたらすごくハマったのでモノクロにしました」

あえてピントを合わせるという行為から離れる

©Hiroyuki Teruya
©Hiroyuki Teruya

――この写真はスタジオでのフォトセッションであるにもかかわらず、ストリートスナップのような臨場感があります。

「撮影機材はライカSL2-Sにライカ ズミクロンM f2/35 ASPH.で、初めてズミクロンを買って撮ったときのものです。それまでマニュアルフォーカスで撮影をした経験がなかったのですが、この時初めて撮ってみたら、ピントがどこに合っているのかわからないような写真になりました。そういう写真が撮れることを、このとき初めて知ることになりました」

――AFのレンズであれば、必ずどこかにピントが合ってしまいますが、MFではピントが合っていないこともあります。

「ピントを合わせるという行為を、逆にやらない方が写真にムードが出るということに気づいて、この撮影をきっかけとして逆にピントが合っていない方がいいのではないか?と思える写真にチャレンジするようになりました」

今回の撮影に使用したカメラとレンズ
今回の撮影に使用したカメラとレンズ

M型ライカでの撮影にもチャレンジ

――今回の展示でM型ライカを使った作品もありますか?

はい、今回ライカM11モノクロームで初めて撮影しましたが、思っていたより使いやすかったです。この花の写真はライカM11モノクロームですね。

©Hiroyuki Teruya
©Hiroyuki Teruya

――漆黒の背景に浮かぶ花の縁から雫のようなものが滴っていますが、これは?

「実は、リップグロスなんです。このかたちになるのは一瞬なので、メイクアップの方にグロスを垂らしてもらって、ひたすら連写をしてセレクトした1枚ですね」

――静かな雰囲気ですが、現場は忙しかったということですね。花弁の縁、境界線へ見るものの視線が吸い込まれていく不思議な雰囲気の写真です。

「初めて人以外の被写体を撮ったので、面白かったですね。レンズはライカ ノクティルックスM f1.2/35 ASPH.でしたが、ノクティルックスはとてもいいレンズだと思います」

共有したい世界観を写真で伝える

©Hiroyuki Teruya
©Hiroyuki Teruya

――こちらはスケルトンの椅子とモデルさんの頚椎から胸椎まで浮き上がった骨の対比が印象的な写真です。

「サロンのビジュアル用に撮影したもので、ライカ ズミクロンM f2/35 ASPH.で撮っています。ちょっと不思議なポージングと、あえて顔を写さない雰囲気が気に入っています。髪型そのものというより、僕たちが好きなものや訴えかけたい雰囲気を感じていただいてサロンに来て欲しいという気持ちで撮っています」

――ヘアスタイリングをしていくにあたり、注意を向けているジャンルはどのようなものでしょう?

「ヘアメイクそのものというよりは、結構ファッション系のクリエイターが作っているものやビジュアルからインスパイアされることが多いと思います」

©Hiroyuki Teruya
©Hiroyuki Teruya

――こちらの写真も雰囲気抜群ですね。かなり計算されたライティングのように感じます。

「スタジオっぽいですけれど、実はロケで撮りました。これは、ライカ ズミクロンM f2/35 ASPH.ですね。背景に黒布を持ってもらって日陰で直射が入らない感じの順光で撮っていますが、すごくいい感じに撮れました」

――チークの色と肌の質感の人間らしさが印象的です。モデルさんの肌にファンデーションを漆喰の壁のように塗り込んだ写真とは真逆のアプローチですね。

「そうです。あえて肌の質感を残して表現してみました」

――そのままの自分を覆い隠すことなく多様性を受容するトレンドと合流していく写真表現は、“あるがままを捉える”という意味でライカが得意としてきたジャンルなのかもしれないですね。ライカは、他のカメラとどこが違うと感じますか?

「マニュアルフォーカスという手法そのものに加えて、ライカMレンズの持つ質感描写は“レンズによってこんなに変わるんだ”という気づきがありました。ですからレンズの個性を知れた部分が大きいです。私はモノクロームだけでなく黒の占める割合の多い写真が好きですが、ライカのカメラとレンズで撮る影の描写、黒の描写が好きです。いろんな美容師さんとセッションすることが多くて、その作品の撮影をすることも多いのですが、ライカに変えてから『黒がいい感じになりましたね』と言われます。

これから欲しいライカのこと

――照屋さんは今後も自分の表現物としてヘアスタイリングの写真を撮り続けられると思いますが、これからプラスしたらご自身の作品をより良くしてくれそうな機材はありますか?

「やっぱり、ライカM11が欲しいです。レンズはライカ ズミルックス M f1.4/50 ASPH.ですね」

――M型ライカのようなレンジファインダーカメラの光学式フレームでは構図を厳密に組むことが難しい部分があるので、マニュアルフォーカスレンズで“ピントは厳密に合わせなくてもいいんだ!”と感じたような気づきをモチーフの配置に関して与えてくれるかもしれないですね。

「実機をお借りして撮影した時は、すごく楽しかったですね。思ったより撮れるなと。あとはLマウントのズーム、ライカ バリオ・エルマリートSL f2.8/28-70 ASPH.が欲しいのですけれど、とても人気があって簡単に手に入らないんです。ズームで小型軽量なので欲しいですね」

――写りを妥協せずにコンパクト化を実現したズームレンズは、スタジオの外に出て撮影していくときの機動力を高めてくれそうですね。新たな機材が、照屋さんの写真表現をさらに拡張してくれそうな予感がします。本日は興味深いお話をいただき、どうもありがとうございました。

「こちらこそ、どうもありがとうございました」

写真展概要

タイトル: 纏う
期間  : 2026年6月16日(火) - 10月18日(日)
会場  : ライカ松坂屋名古屋店
愛知県名古屋市中区栄3-16-1松坂屋名古屋店 北館3階
Tel.050-5785-4466
営業時間: 10:00 – 20:00

>>写真展詳細はこちら



照屋寛倖 / Hiroyuki Teruya プロフィール

愛知県一宮市出身。
北名古屋市にて美容室「in chelsea」「SUU」の2店舗を展開する。
in chelseaにはフォトアトリエを併設し、美容師としての活動と並行してフォトグラファーとしても作品制作を行う。
サロンワークから派生する感覚を軸に、人物の存在や空気感をすくい取る表現を追求している。
美容師としては、美容界のアカデミー賞と言われる、【JHA】 Japan Hairdressing Awardsにてグランプリを受賞。
デザイン性と感性の両面から高い評価を受けている。
2025年にはサロン創立15周年を記念し、名古屋市千種文化小劇場にて単独ヘアショー「棘」を開催。
空間・音・光・人を横断した表現で、独自の世界観を提示した。
現在は、美容と写真という二つの領域を横断しながら、日常と創造の境界を探る活動を続けている。