Everyday Carry
日々のルーティーンにライカを
ー 池原 和 ー


池原 和氏の “Everyday Carry” 


私は普段、華道家 辻雄貴氏の作品を主に撮影している。作品撮影以外でカメラを持ち歩くのは、基本的に山の中が多い。いけばなの作品と向き合うためにも、素材となる植物たちがどのように山に生え息をしているのか、そして、その場所の空気感、温度、日のあたり方など、植物が大地から切り離される前の生命力と向き合い吸収することが必要だと思っている。
普段は「ライカSL2-S」を愛用している私だが、 今回は「ライカSL2」の描写性能も試してみたく、山の撮影と作品撮影に臨んでみた。




朝2時頃起床し、山へ入る支度をはじめる。前日1日中雨が降り、朝からは晴れる予報。月にかかる雲の様子や、窓から見える山雲の様子からみても、朝方霧が出ると分かった。
静岡を拠点にかまえているため、車を走らせれば1~2時間で山に到着する。条件が揃うと高確率で霧が発生する山があり、その場所へ向かうことにした。




霧により自然とボケていく樹々。近づくとはっきりと姿を現し、離れるとカタチが溶けていく。どの距離から狙おうか、車を降りて歩きながら散策する。ひんやりとした空気が肌を纏う。流れる霧により現れたり消えたりを繰り返す樹々の線。奥に行くと吸い込まれてしまうような、山の畏怖を感じる。




時間とともに霧は流れていく。山から山へと移る姿は、まるで生き物のようにも感じる。車で追いかけながら、行ったことのない場所へ自分も流れていく。撮りたいと思った時にはもう移動している。常に構えていないと逃してしまう姿に、どこか野生を感じる。




夢中で追いかけ一息つくころに、陽がのぼりはじめる。照らされる植物のシルエットやわずかに光る輪郭。霧がかる山の隙間からこぼれる光の線。陽が昇ると山の表情がガラリと変わる。どのように照らされると植物は喜ぶのかをファインダー越しに学ばせてもらう。

また、こうした景色はいけばなの背景として使用することもある。襖や屏風の表現に使用したり、海外でのパフォーマンスの際にスクリーンに映し出したりもする。そんなとき、高解像度で鮮明に残せる「ライカSL2」の性能は大変魅力的だ。 自然の恩恵から生まれる景色は、狙っても再び巡り会えない。だからこそ日本の山を切り取り、写真に残しておきたくなる。



さらに山の奥へと進んでいく。天に広がる葉の緑。木や岩に繁茂する苔の緑。まだ生えてきたばかりの杉や檜の緑。どれも同じ緑でもすべて異なるのだ。また、奥へ行けば行くほど、木のかたちが野生味を増していく。グネッと曲がり伸びていく枝。この枝が生けられたらどのような空間に変わるのか。そんな想像を膨らませる。



苔の細かな描写やしっとりとした質感まではっきりと捉えることができる「ライカSL2」。

いけばなの作品を撮る際、被写体だけを撮るのではなく、生けられた空間を撮影するため、被写体自体を大きく写さないことが多い。そのためわずかな枝の流れや質感、流木につく苔の細かな描写を逃さず映し出してくれることにより、空間に生命力が宿った写真が撮れる。何も無い空間は「無」ではない。生けられた植物の生命力が宿り、空間を変化 させていく。




また、後にトリミングしたものから植物の面白い表情を捉えることができる。檜の葉を写したのだが、まるで細胞分裂を繰り返しどこまでも広がろうとする生き物に見えてくる。
目の前に広がる世界から学ぶことはとても多いが、同じくらいミクロな世界に気付かされることも多い。




緑の色だけを抽象的に写してみたり、葉の静脈やグラデーションを写してみたりと、実験的に植物と向き合っていく。自分も知らなかった美しさや生命の魅力を、ライカのカメラをのぞくことで教えてもらう。山の生命力というものを、ファインダー越しに目から吸い込み、しっかりと体へ入れていく。




山から戻り、辻氏の作品撮影の準備をはじめていく。今回はいけばなの作品だけでなく、空間設計も辻氏が行ったギャラリーにて撮影する。背景にある襖は、以前「ライカSL2-S」で撮影した杉並木の写真をより抽象化して制作したものである。具象的な風景ではなく、どんな作品が前に来ても溶け込んでくれる、「花を待つ襖」のお題を受け制作をした。そこに山の緑が浮遊するように生けられ、空間に生命力を与えていく。



このギャラリーのマテリアルには、竹を縦にさき節のシルエットを活かした欄間や、栗や桜、杉檜などの木々を加工してできた算木の天井がある。植物にしか出せないカタチがある反面、人が手を加えることで引き出される植物の魅力もあるのだ。




ギャラリーには、庭の緑が映りこむ窓が広がっている。風景がつくる屏風の前に、緑がいけられる。外の緑と中の緑がつながることで、外と中の境界線が曖昧なものになっていくのを感じる。
建築にしても、花器にしても、人が作り出すモノと自然が調和してうまれる空間を捉えることは、とても面白い。その独特な雰囲気を写せるのも、ライカの魅力の一つだと思う。

いけばなの作品は永続的に存在することができない。制作しても1日で解体することも少なくは無い。いけばなの活動を共にし、制作から携わるため、生まれてくる作品への愛着も大きい。だからこそ作品一つ一つと向き合い、写真としてより美しい姿で残し続けていきたい。



使用機材
ライカSL2 ライカ スーパー・バリオ・エルマーSL f3.5-4.5/16–35mm ASPH. ライカ バリオ・エルマリートSL f2.8/24-70mm ASPH. ライカ アポ・ズミクロンSL f2/28mm ASPH. ライカ アポ・ズミクロンSL f2/50mm ASPH.





株式会社辻雄貴空間研究所 / 写真家

池原 和 Yamato Ikehara

華道家 辻雄貴が生み出すいけばなを軸とした多彩な表現と活動を自身も創作の過程に参加しながら、写真作品を撮り続けている。辻雄貴空間研究所のアートディレクターとしても、辻雄貴の世界観を拡げる表現を追求している。