My Leica Story
ー コムロミホ ー



ライカ松坂屋名古屋店、ライカそごう横浜店、ライカ阪急うめだ店では、コムロミホさんの写真展示「猫のよう」を開催中(会期は2022年11月10日まで)。展示作品は、M型ライカの最新機種「ライカM11」を携えて尾道を旅する中で撮られたもの。被写体との一期一会の出会いや、ライカの使い心地についてお話をしていただきました。

text:ガンダーラ井上




――本日は、お忙しいところありがとうございます。さっそくですが写真展のタイトルを「猫のよう」とされた理由について教えてください。

「今回の撮影地である尾道は、猫に対して皆が優しくて猫が住みやすい環境です。ふらりとやってきた私が尾道をさまよっていると、いろんな方が声をかけてくれて親切にしてくれ、またおいでと言ってくれました。まるで自分が猫になった気分で街を撮れたので、このタイトルにしました」

――尾道の人は、猫だけでなくコムロさんにも優しかったのですね。どんな人との出会いがあったのでしょう?

「初日は絵になりづらい感じの曇天でした。困ったなと思いながら展望台で天気が良くなるのを待っていたのですが、そこで地元の風景をずっと撮影し続けている方に声をかけてもらいました。その方は大判フィルムの4×5のカメラで撮影されているそうで、島を案内してあげるとのこと。そこでその方の家まで行かせてもらい、彼のお母さんを撮影させてもらいました」

©コムロミホ


――それでこの写真が撮れたのですね。いきなり4×5判カメラを使っている人から声をかけられるとは、初日からすごい巡り合いです。

「島の人と一緒に歩くと、声をかけて撮影させてもらうのもスムーズでした。2日目に尾道の街並みを撮影していたら、画家だという人に声をかけられました。尾道で人を撮りたいなら俺が教えてあげると。『こうやって声をかけるんだ』と通りがかりの人に話しかけ、『いいからお前はそれを撮れ!』みたいな感じで(笑)」

――お節介だけど、ありがたいですね。その出会いがなければ撮れなかった写真もあったと思います。

「3日目は、猫の道に向かいました。そこでは猫の道を作ったという方に出会いました。たくさんの猫の面倒を見ながら、猫と共に尾道を盛り上げているそうです。魅力的な猫の道にはいろんな方が集まります。今回はリュック一つで半年旅している女の子と、古い街が好きだという男の子と仲良くなって、写真を撮らせてもらいました。このような思いがけない素敵な出会いがあるのがスナップ撮影の面白さです」

ライカを持つことで生まれる、思いがけない出会い

――そうやって話しかけてもらえる最初のきっかけは何だったのでしょう?

「それってライカですよね?と声をかけてもらって、そこから全部の話が広がったのです。4×5判カメラの方もそこから話が盛り上がって家に行かせてもらい、島の全部を案内してもらいました。画家の方からは『ライカで何を撮っているんだ』と声をかけられ、猫の道の方も『あ、ライカ。いいカメラを使っているね』と話が盛り上がって。すごく不思議ですが、たぶん私がライカではないカメラを持っていたら、こういう出会いはなかったかもしれないです」

ライカの赤い丸印が、幸運を呼び込む?


――一般的にはライカの知名度はそれほど高くないし目立たないカメラなのに、よく見つけて声をかけてもらえましたよね。

「海外でもライカを持って撮影していると『Hi!それライカだよね!』みたいに声をかけられて、写真を撮って後で送ってあげたらその人はAP通信のカメラマンだったこともありました。ライカは、すごい出会いを作ってくれるカメラで、スナップをしているといろんなシャッターチャンスに巡り合えるんです」

――今回展示されている写真を拝見して、被写体との出会いを求めていろいろな場所を歩き回ったことが伝わってきました。このようなタイプの撮影旅行でのコムロさん流の機材選びのルールはありますか?

「機動力を上げて街を歩きたいと思っているので、たくさん機材を持たないことです。今回はライカM11と広角のアポ・ズミクロンMf2/35mm ASPH.と標準のアポ・ズミクロンf2/50mm ASPH.の組み合わせでした。機動力を生かしながら撮影するのにライカのMシステムがいいと思うのは、レンズがすごく小さいことです。実際に私がスナップするときに持ち運んでいるのは、とても小さなカメラバッグです」

――もしかして、いま肩から下げている小さなポシェットのようなバッグですか?

「そうです。カメラをぶら下げながら小さなバッグの中には交換レンズを入れておきます。機動力を上げるために、お財布も小さいものにしています。できればバッグすら持ち歩きたくないので、撮影の2日目はお財布とスマホはポケットに入れて、カメラだけを持って動き回っていました」

機材を厳選することで、撮影への集中を高める

――様々な可能性に気が散ってしまうと、『長玉が必要?それに魚眼もあったらいいかも。それより何よりズームなら即座に対応できるぞ』という感じで機材の量は増えていく傾向にあると思います。コムロさんとしては、そのような方向では機動力を削いでしまうという考え方ですね。

「スナップするときは、できるかぎり街に合わせた『しばり』というものを自分の中で持つようにしています。尾道の街並みを歩くときは、レンズは50ミリだけを持っていくと決めました。今回ライカM11には新しくjpgの設定でフィルムモードにモノクロHCが搭載されたので、設定もそれにしてカラーの目線は一切忘れてモノクロで50ミリという条件で撮影しています。そうすると、被写体へ近づくタイミングや街を見る視線に集中することができるのです。機材を少なくすることで頭の中をとてもシンプルな状態にすることができれば、シャッターチャンスに巡り合える。そういうことを大切にしています」

©コムロミホ


――こちらの黒猫ちゃんは、フィルムモードがモノクロHCでレンズはアポ・ズミクロンf2/50mm ASPH.絞りは開放。プリントを拝見しましたが、毛並みの描写に驚きました。

「そうなんですよ。額にアクリル板が入っていたので伝わりづらい部分もあったかと思いますが、凄いです。撮ったままのjpgの状態が美しいというのがライカのいいところで、実感したのは毛並みの柔らかさの再現力です。もう、撫でられるくらいの感じです」

――黒猫ちゃんって上手く撮るのが大変ですが、黒の中のトーンがよく出ています。

アポ・ズミクロンf2/50mm ASPH. の質感描写

「アポ・ズミクロンf2/50mm ASPH.は開放からシャープなレンズですが、不思議なのは、いわゆるデジタル的なシャープさにありがちな気持ち悪さが感じられないことです。目に写っている景色や猫の髭1本1本とか、被写体本来の美しさや質感そのままです。これは自分が目で見た質感にすごく近いのです」

©コムロミホ


――質感といえば、この写真のプリントを肉眼で見ると、手にしたスケッチブックの白い部分の存在感がすごいです。

「これは2日目に出会った画家の方の手元です。写真撮影された画像はデジタルデータですが、用紙にプリントしてみると開いたスケッチブックの部分が画用紙そのものとして感じられます。絞り開放f2で撮影しているので、ボケのグラデーションがあり、それも自然です。だからピントの合ったところが立体的に見えて、私が見せたかった部分に目が行くような写真にすることができています」

――私は「ここ」を見た。ということですね。

「そうですね。ボケを利用するにはピントを合わせる場所が必ず必要なので。ピントを合わせた場所が伝えたい部分なので、それを開放で撮影することでメリハリをつけて伝えられるというのが写真の面白いところです」

ライカM11の使い心地

撮影に使われた、シンプルなセット


――今回の撮影で使用した、ライカM11の印象について教えてください。

「一番役に立ったのは軽さです。いつも使っているライカM10-Rと全然違います」

――ライカM11のブラッククロームボディはアルミ素材を採用することで、バッテリー込みの重量はライカM10-Rより約145g軽量化されています。何の荷物も持たずほぼ手ぶらだとすると、カメラの重量を純粋に感じられますものね。

「こんなに軽いんだとびっくりしました。最初は軽すぎて電池が入っていないのではないかと思ったほどでした(笑)。見た目はあまり変わらないのに、すごい進化だと思います。電池も容量アップしているので助かりました。64GBの内蔵メモリーも嬉しいです。私は大雑把な性格なので予備のSDカードを忘れてしまう時もあるのですが、撮影中にSDが一杯になってしまった場合でも内臓メモリにすぐに切り替わってくれるのでチャンスを逃さず撮り続けられるなど、今回の撮影でもメリットを感じる場面がたくさんありました」

――RAW画像を3種類の画素数から選択して撮影できるトリプルレゾリューションに関してはいかがでしょうか?

「あまり画素数は下げることはせず、6000万画素で撮っています。ただ、今回はシャープに切り撮りたかったので使いませんでしたが、家族写真や妹の子供を撮って欲しいと頼まれる時など、連写の持続性を考えると画素数を小さく設定したほうがいい場面もあると思います。6000万画素にアドバンテージを感じたのが、35mmの広角レンズを使って縦位置で撮った引きの風景をモニターで拡大していくと、望遠レンズを使って横位置で撮った写真としても使えてしまうほどの解像度であることが分かったときでした。私はスナップではトリミングはしない主義ですが、用途によっては今までできなかったこともできるようになってくるのかなと思います」

©コムロミホ


――この写真で使われたレンズはアポ・ズミクロンMf2/35mm ASPH.ですね。とてつもなく細密に結像しているのに、ぱっと見て写真全体の印象に硬さがないですよね。そこも驚きです。

「私は目で見た感動を写真で表現したいので、できる限りシャープな絵作りが好きです。素直な描写が楽しめるセットにしたいと思っているので、ライカM11とアポ・ズミクロンの組み合わせは最強だと思います」

写真に大切なのは、撮ったときの感動

――ちなみに普段はRAWで撮影後に現像作業で追い込むのか、あるいはjpgである程度のイメージを作り上げてしまうのか、どちらの方が多いのでしょうか?

「やはり、撮ったときの感動を味わいたいという意味で、できる限りカメラの中で絵作りを決定するようにしています。私は、ライカを使っていて2つの感動があると思っています。まずシャッターを押したとき『いい写真が撮れた』という手応えの感動。それはM型ライカのレンジファインダーで、被写体と対話するように撮るということと結びついていると思います」

――ある意味でレンジファインダーは素通しですものね。

「そうですね。もう一つの感動は、撮った後で背面モニターを見たときですね。その感動を味わいたいので最終的な絵作りをある程度固めて設定してから撮影に臨むようにしています。だから、後からモノクロにしたり、カラーに変更したりするのではなく、どのような写真を撮りたいのかをその場で決めています。もちろんjpgだけでなくRAWでも記録していて、プリントするときは用紙に合わせてトーンを調整したりしています。ライカM11はダイナミックレンジが15stopなのでの情報量が結構あり、見た目の印象に近づけることもできます」

――様々な撮影のエピソードを通じて、ライカM11の進化のポイントが良く分かりました。レンジファインダーのM型ライカ全般に関して、気に入っているポイントについても教えてください。

M型ライカが好きな理由

「私が最初に買ったのはライカM9でした。それからライカM10、ライカM10-R、そして今回ライカM11と使ってきましたが、すべてのモデルで直感的な操作ができて、インターフェイスが統一されています。2009年に発売されたライカM9と同じようにライカM11を使うことができるのです。私は考え方をシンプルにしたいので、絞りがあり、シャッター速度があり、ISO感度がある。それだけで完結できると思っています。M型ライカはその操作系が一切変わっていない印象なので、どの機種を使っていても撮影にスムーズに入っていくことができますし、その場の露出感を考えることに集中できます。ダイヤルに「A」と書かれている部分はあまり使いません。自分でその場に合わせた露出の制御をして、すこしアンダー目に撮影するのが好きです」

――そうするとISOダイヤルも「A」は?

「使わないですね。今回はISO64を使用することが多かったです」

――展示されている写真は、カラーはISO64、モノクロはISO400で撮られています。まるで往年のコダクロームのカラーフィルムと高感度のモノクロフィルムの組み合わせのようですね。

「ISO64が私にとってはありがたいです。レンズを開放で撮るのが好きで、f2のレンズならf2で撮影したいんです。結構明るいシーンもありましたがISO64に設定すれば、どのシーンでもほぼ絞り開放で撮影ができるので、大体ISO64で撮っていました」

――なぜ絞りは開放なのでしょう?

「ライカレンズのいいところは、ボケの美しさもあると思います。絞り開放での立体感がすごいんですよね。ライカにハマった理由の一つがそれかもしれません。それに魅了されてからは絞りは開放が基本です」

――ライカカメラ社のレンズ設計責任者ピーター・カルベ氏も、ライカのレンズは開放で撮ってくださいと力説されていました。被写界深度調整が必要な場合には絞りなさいと。

「私も同感ですね」

――本日コムロさんは作品を展示中のライカそごう横浜店にて、素敵なトートバッグをお買い上げになりましたね。アンリ・カルティエ=ブレッソンの言葉として『ライカがあれば何でもできる』と英語でプリントしてあります。まさにコムロさんの考えも同じなのかな。と思いました。本日は、ライカの魅力や撮影に役立つお話をたくさんしていただき、ありがとうございました。

「こちらこそ、ありがとうございました」


Photo by T -Leica Store Sogo Yokohama Staff-



写真展 概要

作家:コムロミホ
タイトル: 猫のよう
会期:2022年5月14日(土)-11月10日(木)
会場:ライカ松坂屋名古屋店
   愛知県名古屋市中区栄3丁目16−1 松坂屋名古屋店 北館 3階 Tel. 052-264-2840
展示:旅先での一期一会を切り撮った作品13点 (モノクローム8点、カラー5点)

写真展詳細はこちら


コムロミホ

文化服装学院でファッションを学び、ファッションの道へ。
撮影現場でカメラに触れるうちにフォトグラフィーを志すことを決意。
アシスタントを経て、現在は広告や雑誌で活躍。街スナップをライフワークに旅を続けている。カメラに関する執筆や講師も行う。またYouTubeチャンネル「写真家夫婦上田家」「カメラのコムロ」でカメラや写真の情報を配信中。
カメラや写真が好きな人が集まるアトリエ「MONO GRAPHY Camera&Art」をオープン。