Everyday Carry
日々のルーティーンにライカを
ー コハラタケル ー


©Takeru Kohara     コハラタケル氏の “Everyday Carry” 


毎日、持ち歩いても苦にならないカメラ。僕が理想としているカメラだ。

家から歩いて1〜2分の距離にあるコンビニへ行くときもカメラを持って行く。別に決定的瞬間を逃さないようにしているわけではない。自分にとってカメラはお守りであり、カメラを持っていると、どこを歩いても大丈夫だという安心感がある。いろんなカメラを使うけれど、最近は「ライカQ3」を持ち歩くことが多い。



昔からひとりで歩くのが好きだった。朝も昼も夜も。少しでも歩くチャンスがあれば、積極的に歩く。もちろん移動手段として車を使うこともあれば自転車を使うこともある。でも、写真を撮るのではあれば、やっぱり歩くのが一番だなといつも思う。



車や自転車だと、どうしても写真を撮る場所が点(出発地)と点(目的地)になりがちだ。僕は線のほうが良い。目的地はあくまでひとつのゴールに過ぎず、道中にこそ自分が求めているものがあるのではないかと思っている。



建築業の職人をやっていた頃は夜勤があることが普通だった。現場ではいろんなことがある。予定されていた時刻よりも早めに終わることもあれば残業することも。夜勤で早く終わった場合は夜中の3時ぐらいに終わることがある。電車もバスも動いていない。そんなときは1時間以上かけて、2〜3駅歩くことが多かった。



誰もいない静かな東京の街を歩くのは気分が良い。仕事の撮影でも夜中に出発することがある。カメラを持って暗い街を見ていると昔の自分を思い出すときがある。



散歩しながら撮影するときは、どちらか片方の手をカメラに触れて歩いていることが多い。電源は基本的に入れっぱなし。撮りたいと思ったときにすぐに撮れるようにしておく。狙って撮るというよりは、身体が反応したら撮るようにしている。



自宅のパソコンで作業しているときも同じだ。寝ているときは防湿庫に入れているが、それ以外のときは手が届く範囲に「ライカQ3」を置いている。
ケーブルに洋服に残飯。考える間も無く「なんか良いな」と思ったらシャッターを切る。



「ライカQ2」のときからマクロ機能を愛用しているが、「ライカQ3」になってからはよりマクロでの撮影をするようになった。「ライカQ2」までは「デジタルズーム」(クロップ)が75mmまでだったのに対し、「ライカQ3」では90mmまで可能になった。

自炊をするときはいろんな食材を使うのだが、そのなかでもタマネギは好んで使うことが多い。見慣れた食材だけれど、90mmのクロップで撮影すると、肉眼では気づかない世界を見せてくれる。



28mm〜90mm、そしてマクロまで。1台あればなんでも撮れる。もしも旅行先に1台しかカメラを持って行くことができないと言われれば、間違いなく「ライカQ3」を選択する。



僕は昔から28mmという画角が好きだ。東京の街を28mmでスナップすると、自分が意図していないものが写り込んでくる。

幼少期。母親がコンパクトカメラを使って撮影した写真にも背景にはいろんなものが写り込んでいた。人によっては写真に入れたくないと思うかもしれないが、僕は意図していないものが写り込むことこそが写真らしくて好きだ。



「いってらっしゃい」
妻が出かけるとき、僕が出かけるとき。エレベーターに乗って顔が見えなくなるまで。そんなに長い時間ではないし、なにかドラマティックなことが起こるわけでもないけれど、お互いを確認する。

妻を撮る。妻はなにかリアクションをするわけでもなく、そこにいる。僕は当たり前のようにシャッターを切る。



ご飯を食べる。メイクをする。一緒にエレベーターに乗る。

どんなときもカメラを離さない。



手を繋ぐときは左手で繋ぐようにしている。そうじゃないと右手でシャッターを切れないから。妻と話しながらも、目は撮りたいものを探している。我ながらひどい夫だなと思う。それでも撮ることをやめるわけにはいかない。



子どもの頃、まわりの大人たちが自分の悩みに気づいてくれなかったという体験をした。そのときの気持ちが今でも残っているのか、散歩しながら写真を撮るときは人が注目しないモノや置いて行かれてしまった存在をついつい撮ってしまう。撮るときに過去の自分の気持ちと重ねる。



ふらっと出かけて撮影するときは、とにかく余計なことを考えたくない。僕は「ライカQ3」の写りも好きだけど、ライカのカメラに共通しているメニュー画面のシンプルさが大好きだ。僕にとっては初めてのライカだった「ライカQ2」を購入したときもほぼ迷わず、すぐに撮影に取り掛かることができた。

デザインもメニュー画面も。シンプルだからこそ撮影に集中できる。「ライカQ3」は家から出かけるとき、カメラを「よっこいしょ」と持ち上げる感覚がない。

スマートフォンに財布と鍵、そして「ライカQ3」。

歩く場所は近所で良い。今日も誰かが忘れたものを撮りに行く。


使用機材:ライカQ3




写真家 コハラタケル Takeru Kohara

1984年生まれ、長崎県出身。
建築業を経てフリーのライターとして経験を積み、その後フォトグラファーに転身。SNSを含むweb媒体での広告写真を中心に活動する傍ら、山本文緒 『自転しながら公転する』島本理生 『あなたの愛人の名前は』文庫版など書籍カバーにも写真が採用されている。2023年にはライカギャラリー東京・京都にて写真展「撮縁」を開催。

https://www.instagram.com/takerukohara_sono1