My Leica Story
ー ジョヴァンニ・ピリアルヴ ー

ライカストア5会場(大丸東京・伊勢丹新宿・そごう横浜・阪急うめだ・松坂屋名古屋)では、写真家 ジョヴァンニ・ピリアルヴさんの作品群「光らないものたち」を展示中(期間は2026年6月15日まで)。
都市や風景、日常の中に漂う人の気配を主なテーマとし、時間の重なりや、目立たずそこにあり続ける存在に静かに目を向けた一連の作品を撮影したカメラはライカだったとのこと。そこで、ジョバンニさんとライカとの関係ついてお聞きしました。

text: ガンダーラ井上


――本日は、お忙しいところありがとうございます。ジョヴァンニさんの展示を拝見して、ユニークな視点によって普通は撮る対象にされないようなモチーフに目を向けていることに興味を持ちました。今回の展示タイトルは『光らないものたち』ですが、どのような動機で一連の写真を撮っていますか?

観光客ではなく生活者として日本を撮る

「私は日本に来て20年になりますが、出身はイタリアです。私の故郷はサルデーニャ島ですが、ローマ時代以前の3000年ほど前の遺跡がたくさんあり、子供の頃から普通に接してきました。大学はフィレンツェだったので改めて故郷の島を見ることができるようになりました。そのような感じで日本や東京のことも見ているのだと思います。外国人が日本の写真を撮るモチーフとして流行っているのはブレードランナーのようなサイバーパンク的なイメージですが、実際に生活してみると少しはそのようなこともあるけれど、本当に生き生きしているところは下町かなと思ったのです」

――日本語で“鄙(ひな)びた”という言葉がありますが、それはある種の懐かしさや素朴さを表していて、鄙びた風景などといった使い方をします。それを日常の中からうまく拾い上げているという印象がありました。

「そのとおりです。タイトルの意図が通じてよかったです(笑)。そこにあるのは悲しさではないのです。もちろん時間が経っているからちょっと錆びているようなところはありますが、『これはもうなくなってしまうのだろうか、どうしよう』ということではなく、あるうちは大事にしましょうという気持ちがあります」

©Giovanni Piliarvu
©Giovanni Piliarvu

――瞬間的にジョヴァンニさんが反応して撮っているという感じがしたのがこのカットです。光がキレイですね。

「これは大阪に行って、あまり観光では行かないような古い商店街で半日くらい過ごして、本当に面白かった。私にとっては変わった風景だけど、そこにいる人にとっては普通の空間なのです」

――大阪にはまだこんな場所がありますよね。そして、これは浅草ですね。

©Giovanni Piliarvu
©Giovanni Piliarvu

「ここにはいっぱい通っています(笑)」

――僕も浅草に暮らしていたことがあるのでよくわかる場所ですが、ヴィム・ヴェンダース監督の映画“パーフェクト・デイズ”のロケ地にもなりましたね。

「友達が日本に来るとき、ここを案内すると面白がってもらえます。地下街に通じる狭い階段の途中に床屋さんがあって、この人が髪の毛を切ってからお店から出てきたところを狙った。格好いいけれど現代の洋服とはちょっと違う、昭和のスタイル。羨ましいですね。私がこの顔でやったらコスプレになっちゃうから(笑)」

――いやいや、やり続けていれば大丈夫だと思います。こんな感じの服は、観音様の裏手なんかにまだ売っていたりしますよ。こちらの写真はお店屋さんですね。

ライカによって切り撮られる日常の営み

©Giovanni Piliarvu
©Giovanni Piliarvu

「こういうシーンが好き。ずっと続いている小さな店で、年をとった人が買い物をしている。何十年も続いている日常だけれど、雰囲気がある。東京駅の大丸では、商店街のシリーズを展示しています」

――あのプリントは、すこしローキーにして商店街のアーケードの光を感じさせるものでした。カメラはライカM10とお聞きしました。レンズは?

「35mmのズミクロンです」

今回の撮影に使用したカメラとレンズ
今回の撮影に使用したカメラとレンズ

――非球面レンズになる前のタイプのカナダ製のズミクロン35mmですね。

「今回の展示はこのレンズで撮ったものが多いです。あとは50mmと75mmのアポズミクロン。でも50mmはそれほど慣れていないからあまり使っていないです。35mmは完璧で、1本だけ選ぶなら35mm。その次はストリートスナップなら28mm、ポートレートだったら75mm。この3本があればだいたい撮れます」

憧れの存在だったM型ライカを手に入れる

――ジョヴァンニさんの叔父さんがカメラ屋さんで、お母さんの一眼レフを7歳の頃から使っていたということですが、ライカを手にしたのはいつ頃ですか?

「昔からライカを買いたい気持ちはあったけれど、実際に手にしたのは4年前。デジタルカメラに切り替わっていく時点でフィルムカメラが安くなったので他社メーカーなどを買っていたけれど、ライカは安くならなかったからね。でもレンジファインダーカメラが欲しくなってライカMマウントのミノルタCLEを手に入れました。周囲にライカを持っている人が結構いて、その後ライカM10と35mmを買いました。それからずっとこのコンビネーションで持ち歩いています。イタリアの雑誌に記事を書いているので、風景のメインショットがありドキュメンタリーという感じで撮影していきます」

――そこにいる人を主役として、状況と人を同じ画面に収めようとすると35mmの画角が一番いいということですね。ドキュメンタリーといえば、このおばちゃんがいい感じです。撮影場所は大阪ですよね?

©Giovanni Piliarvu
©Giovanni Piliarvu

「これは東京の池袋なんです」

――こういう場所って大阪かと思っていたら池袋ですか!

「彼女は面白かったね。いろいろしゃべって半日くらいそこにいた。彼女についての1日を、こういう日本もあると記事に書きました。今もたまに行っています。レンズは35mmで撮ることが多いけれど、この日は28mmレンズ1本だけ持っていこうと思っていたのでレンズは28mmです」

スナップシューターとしてのM型ライカ

――ジョヴァンニさんの写真の中には、街路などを背景にしてその手前を人が動いているシリーズがありますね。

©Giovanni Piliarvu
©Giovanni Piliarvu

「これは大阪の新世界だけど、彼女はこのシャッターの閉まっているところに住んでいると思う」

――これら一連の作画を拝見しますと、アニメの背景と動く人物の関係のようにも見えてきます。

「自分は子供の頃は日本のアニメよりイタリアやアメリカのコミックスを読んでいて、そこからの影響は受けていると思う。自分でも描いていたことがあるので線をまっすぐにして構図を構成したり、複雑な世界をもうすこし簡単にしたり。横から撮る構図の写真をいっぱい撮っています」

――横からの構図でいけそうな場面に出会うと反射的に撮っている?

「そうです。シャッター速度は1/500秒、太陽の光があればF11まで絞っています。動きながら撮ることもあるのでピントを深くして。距離は目測で5mぐらいのところで撮るので撮る前にピントは合わせて、あとはシャッターを切るだけという感じで準備しています。撮る瞬間を狙って、周囲を見ているときにはセッティングを考えたくない。あとはフォーカスだけにしています」

――そういう撮り方をするのにM型ライカは便利ですよね。

「そう、あとフィルムの世界から来ているからあまり数多く撮りたくないということもあります。連写の機能があったとしても使いたいという気持ちが全然ありません。今日カメラを持って写真を撮りたい、シングルショットでという気持ちにさせるのはライカですね。連写した場合には10枚の中に1枚のいい写真があるかもしれないけれど、あまり満足しない」

――それはカメラが撮った写真なのか自分が撮った写真なのかはっきりしないから?

「そうですね。だから何枚も撮りたくてもシングルショットでタッ!タッ!と2枚か3枚という感じですね」

人間の文明と、それを覆っていく植物との関係

©Giovanni Piliarvu
©Giovanni Piliarvu

――建物を植物が覆うように生えているというモチーフも数多く登場しますね。

「やっぱり時間がたてば自然に戻ってくるというイメージが好きで、緑の多い建物を見ると撮影してしまいます」

――ところで、こういう風景って世界のどこでも見られるものなのでしょうか?

「僕がよく知っているのは日本とイタリアだけだから世界中でどうなっているのか分からないけれど、イタリアではこういう風景はないですね」

――サルデーニャ島では、こんな感じではない?

「やっぱり地中海とアジアは気候が違うので、ここまで早く植物は育たない」

――湿気が多くて、それほど強くなさそうだけれど生育の早い植物がうわぁ〜っと表面を覆ってしまうのはアジア的なのですね。

「そのとおりです。イタリアだと庭の手入れは簡単だけど、日本だとすぐに草が生えてくるから大変です(笑)」

©Giovanni Piliarvu
©Giovanni Piliarvu

――大変といえば、これも店の看板が見えないくらいに草が生い茂って、気がつくと植物に覆われてしまっています。

「こういうシーンが好きですね(笑)」

――そうして、最終的には使われなくなった建物が自然に戻っていくということですね。

©Giovanni Piliarvu
©Giovanni Piliarvu

「田舎に行くとバブルの時に建てられたけれどもう使われなくなったものがあります。そこでは昔、皆がいい時間を過ごした。まぁパチンコはギャンブルだけれどね。そして今は誰も使わなくなって自然に戻ってきているものが好きですね」

――時間が経って最終的には人工物が自然に飲み込まれていくという、ある種の循環に惹かれていることがわかります。このシリーズに限らず、ジョヴァンニさんの撮っている写真はすべて静かですよね。

「そうですか。私はあまりうるさいのは好きではないので、光らないものに目が行きます」

――その光らないものたちの“静けさ”に耳を傾けながら撮っているのだろうと思いました。

「それはサルデーニャの影響だね。静かな島で、日本で言うなら四国みたいなちょっと離れた場所で、街の中心に住んでいたけれど15分も車で走れば自然がすぐそこにある場所で、冬に海に行く感じとかが好きでした。ライカMカメラはこういうシリーズを撮るのにぴったりだと思います」

撮影者とともに時を刻んでいくカメラ

――今はこのセットで満足されていて、ほかに欲しいカメラやレンズはないですか?

「かなりカメラを使うけれどM10は塗装が丈夫すぎるので、自分がどれくらいこのカメラを使ったのかわかるものが欲しい。日本人は中古品でもピカピカなものが好きで、使い込んだものはあまり好きじゃないみたいだけれど、私は自分の撮る写真みたいに味のあるものが好き。だからライカM11のブラックペイント仕上げ100周年記念モデルを買おうとしたのです。ボディが真鍮だから使っていると地金が出てくるカメラです」

――自分と一緒に過ごした時間が刻まれるカメラが欲しいと。あの記念カメラは世界の6都市の名前が入ったシリーズでしたが、狙っていたのはTOKYOバージョンですか?

「そう、でも人気がありすぎて買えなかった。あとで考えたらMILANOで頑張ればよかったのかも(笑)」

――100周年記念モデルは残念ながら手に入らなかったけれど、これから真鍮ボディにブラックペイントのデジタルMが出てきたら買うかもしれないということですね。

「かもしれない(笑)。レンズはアポ・ズミクロンM f2/75ASPH.を借りて使ってみたらとてもよかったので、それも欲しいレンズです」

――今日は、ジョヴァンニさんとライカとの出会いで生まれた写真の数々とその撮影エピソードをお聞きできて楽しかったです。どうもありがとうございます。

「もう20年間もがんばって日本全国を回っているからね。これからもライカを持っていろんな街に行きますよ。今日はどうもありがとうございました」

写真展・写真展示概要

タイトル: 光らないものたち
期間  : 2026年2月13日(金)- 6月15日(月)
会場  : ライカ大丸東京店   >>写真展詳細はこちら
ライカ伊勢丹新宿店  >>写真展詳細はこちら
ライカそごう横浜店  >>写真展詳細はこちら
ライカ阪急うめだ店  >>写真展詳細はこちら
ライカ松坂屋名古屋店 >>写真展詳細はこちら


Giovanni Piliarvu / ジョヴァンニ・ピリアルヴ プロフィール

イタリア・サルデーニャ島出身。東京を拠点に活動する写真家。

都市や風景、日常の中に漂う人の気配を主なテーマとし、
時間の重なりや、目立たずそこに在り続ける存在に静かに目を向けた作品を制作している。

東京を長年歩き、生活の延長として撮り続けてきた写真は、
記録や観光ではなく、場所と人の関係性を見つめ直す試みでもある。

東京・Island Galleryをはじめ、国内外で展示を行うほか、
写真集『Tokyo Conversations』を刊行。
イタリアの文化誌『LINUS』では定期的に作品と文章を発表している。

2022年から2026年にかけて、NHKの番組に継続的に参加。
現在は写真制作に加え、ワークショップやレクチャーも行っている。