Everyday Carry
日々のルーティーンにライカを
ー 石井朋彦 ー


©Tomohiko Ishii  石井朋彦氏の “Everyday Carry” 


11月8日から12日まで、フランス・パリで行われた世界最大の写真マーケット「PARIS PHOTO(パリ・フォト)」を訪れました。
世界中の名だたるギャラリーが、写真史に残る作品や一点数億円の写真、AIで生成された写真などを展示・販売するパリ・フォトの会場でも、ライカを首から下げている来場者や写真家は多く、何度も「ライカ?」と声をかけられました。



旅の道連れは「ライカM11」「ライカM11モノクローム」と「アポ・ズミクロンM f2.0/50mm ASPH.」「アポ・ズミクロンM f2.0/35mm ASPH.」に「ライカQ3」、そして発売されたばかりの「ライカ ゾフォート2」です。軽快さが魅力のライカを持ち歩くには少々重装備ではあったのですが、今回の旅では試してみたいことがありました。最大ISO200000を誇る「ライカM11モノクローム」で、ウッディ・アレンの名作『ミッドナイト・イン・パリ』にオマージュを捧げ、深夜のパリを撮影したかったこと。発売されたばかりの「ライカ ゾフォート2」で、旅の思い出をプリントしてみたかったこと。写真の生まれた国・フランスの首都で、写真を撮るという行為の本質について考えたかったのです。



深夜のパリを、「ライカM11モノクローム」一台で撮る経験は、得がたいものでした。ISO感度を100000に固定し、闇に目をこらしてシャッターを切ると、肉眼では見えなかった路地裏の思わぬディテールや、歴史的な建造物がフィルムのような粒子と共に写し出されます。闇夜に浮かび上がるムーラン・ルージュの光を、F11まで絞っても「ライカM11モノクローム」のセンサーはまったくへこたれません。深夜の街灯が、絞り11-16の鋭い光芒を放ちます。
夢中でシャッターを切り、息を切らせてモンマルトルの急な階段を登り切ると、パリの夜景が光学ファインダーの向こうに広がります。M型カメラのファインダーを覗くということは、EVFやミラーを介さず、真っ直ぐに目の前の風景を見つめるということなのです。



日中は、「ライカM11」と「ライカQ3」の鮮やかな色味を楽しみながら、「ライカ ゾフォート2」を構えていました。「ライカ ゾフォート2」の、パティスリーに並ぶチョコレート缶のようにお洒落なボディは「ビリンガム For Leica」のフロントポケットに入れていても忘れてしまうくらい軽く、ダイヤルひとつでトーンを変えられる操作性は、旅を特別な時間に変えてくれます。普段は撮らない観光写真も、周辺光量がなだらかに落ちてゆくレンズ「ズマール」によって、クラシックな世界へと変貌します。友人を撮影し、プリントしてプレゼントする時、得も言われぬ喜びに満たされました。



あらゆる画像がデジタル化され、AIが写真を生成する現代。物質としてのプリントや写真集を求め、世界中から人が集まるパリフォトの会場で、「ライカ ゾフォート2」から吐き出されるプリントを手にした時、写真の物質性という根源的な魅力に気づかされた気がしました。
2500年の歴史を持つパリの街と、太古から流れるセーヌ湖畔からファインダー越しに見つめた風景は、帰国した今もはっきりと思い出すことができます。



ライカで写真を撮ること。ライカでなければならないこと。その理由は人それぞれですが、僕にとってのライカは、光学ファインダーを通して被写体を見つめること、モノクロームでしか撮れないカメラで想像もしなかったような世界を見ること、写真をプリントし、物質として手に取る喜びを味わうということに他なりません。


使用機材:
ライカM11ライカM11モノクローム
アポ・ズミクロンM f2.0/50mm ASPH.アポ・ズミクロンM f2.0/35mm ASPH.
ライカQ3ライカ ゾフォート2




石井朋彦 写真展 概要

タイトル:「石を積む」

◆期間:2023年11月23日(祝・木) - 2024年3月7日(木)

ライカGINZA SIX
東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX5階 Tel.03-6263-9935

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ライカそごう横浜店
神奈川県横浜市西区高島2-18-1そごう横浜店5階 Tel. 03-5220-3322

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写真:平松正光


石井朋彦 / Tomohiko Ishii

1977年生まれ。
映画プロデューサー。『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』のプロデューサー補をつとめ『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0』等、プロデュース作品多数。
宮﨑駿監督最新作『君たちはどう生きるか』では現場写真、主題歌「地球儀」の写真集や公式ガイドブック等の撮影をつとめた。